Yahoo!ニュース

大荒れの台風21号は一般的な台風と違って進行方向左側で風が強い

饒村曜気象予報士
気象衛星「ひまわり」赤外画像(平成29年10月23日0時)

 日本列島は、静岡県御前崎市付近に上陸した台風21号によって広い範囲で大荒れとなっています。

 暴風によってJRや私鉄の運休や飛行機の欠航が相次ぎ、記録的な大雨が降って河川の氾濫や土砂崩れが発生しており、気象情報等の入手に努めることと、厳重な警戒が必要です。

 台風21号は、一般的な台風と違って進行方向の左側のほうが右側より強い台風です。

危険半円

 一般的に、台風の進行方向の右側は、左側に比べて風が強く、暴風域や強風域も広くなっているため、「危険半円」と呼ばれています。

 これは、進行方向右側は、図1のように、台風全体を移動させる風Aと、台風自身の風Bが強めあうのが右側で「危険半円」、弱めあうのが左側で「可航半円」です。

図1 台風のモデル的な風
図1 台風のモデル的な風

 実際の風はそのようになっていることが多いのですが、誤解もあります。

 「危険半円」、「可航半円」という言葉は帆船時代にできたものです。帆船は動力が風ですから、台風の中心から逃れようとするときに、向かい風となる右側が「危険」、追い風となる左側が「可航」です。可航半円は、危険であってもとにかく可航半円に入り、追い風を利用してする脱出するという意昧です。

 決して「航海できるほど安全」という意味で「可航」という言葉を使っているのではありません。左側でも、台風の中心付近では強い風が吹き危険です。台風の中には、左側の方が右側より強い風が吹く例外もあります。

 総選挙中の日本列島を襲い、大荒れにしている台風21号も、例外の一つです。

台風21号は左側の方が風が強い

 台風21号の風は、一般的な場合と違って進行方向の左側のほうが右側より強くなっています。

 例えば、10月22日22時の台風21号の風は、「中心付近の最大風速は毎秒45メートル、最大瞬間風速は毎秒60メートル、25メートル以上の暴風域は中心から280キロメートル以内、15メートル以上の強風域は、西側1300キロメートル、東側は750キロメートル」となっています。強風域は、西側(左側)のほうが東側(西側)の倍近く広くなっています。

10月23日6時追記: 台風21号の風は、23日5時に「中心付近の最大風速は毎秒35メートル、最大瞬間風速は毎秒50メートル、25メートル以上の暴風域は中心の北側390キロメートル以内、南側280キロメートル以内、15メートル以上の強風域は1100キロメートル以内」となっています。強風域は台風の進行方向によらず同じ大きさになりましたが、暴風域が北側に広くなっています。台風が温帯低気圧に変わりつつあり、風の分布が変わってきましたが、進行方向の右側、左側という観点でみれば、最初に書いた文の意味と同じです。このため、文章の一部を変更し、図3を追加しました。

10月23日7時訂正:東京の最高気温の予想が7時発表の天気予報で変わりましたので、訂正しました。

 これは、大陸の高気圧の張り出しが強く、台風21号との間の広い範囲で等圧線が混んでいるためです(図2、図3)。

図2 予想天気図(平成29年10月23日9時の予想)
図2 予想天気図(平成29年10月23日9時の予想)
図3 予想天気図(平成29年10月23日21時の予想)
図3 予想天気図(平成29年10月23日21時の予想)

 暖かい南方が起源の台風の接近・通過ですので、台風が通過した地域は一時的に暖かくなります。例えば、東京の10月23日の日中の最高気温は昨夜の予想で25度と夏日、23日7時発表の天気予報で下がりましたが前日より4度高い22度です。

 しかし、台風21号が北海道の東海上に進むと、日本付近は一時的に「西高東低の気圧配置」になります。つまり、「冬型の気圧配置」になりますので、北から寒気が南下し、北海道は平地でも雪のところが多くなります(表)。

表 北海道の10月23日の天気予報
表 北海道の10月23日の天気予報

 一般的な台風と違って台風の左側で風が強いということは、台風21号の影響が一般的な台風より長く続くことを意味します。夏と冬が同居という、変化の激しい天気ですので、最新の気象情報に注意が必要です。

図1の出典:饒村曜(2014年)、天気と気象100ー一生付き合う自然現象を本格解説ー、オーム社。

図2、表の出典:気象庁ホームページ。

気象予報士

1951年新潟県生まれ。新潟大学理学部卒業後に気象庁に入り、予報官などを経て、1995年阪神大震災のときは神戸海洋気象台予報課長。その後、福井・和歌山・静岡・東京航空地方気象台長など、防災対策先進県で勤務しました。自然災害に対しては、ちょっとした知恵があれば軽減できるのではないかと感じ、台風進路予報の予報円表示など防災情報の発表やその改善のかたわら、わかりやすい著作などを積み重ねてきました。2015年6月新刊『特別警報と自然災害がわかる本』(オーム社)という本を出版しました。

饒村曜の最近の記事