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台風5号は日本アルプスで分裂していた

饒村曜気象予報士
立山連峰(ペイレスイメージズ/アフロ)

史上3番目の長寿だった台風5号の予報円が、和歌山県北部に上陸後も大きかったのは、日本アルプス(中部山岳地帯)によって南北に分裂する可能性があり、どちらが主体になるか分からなかったためです。

台風5号の分裂

台風5号が北陸地方を通過中の8月8日21時の地上天気図をみると、台風をとりまく等圧線が関東地方のほうに大きくひろがっています(図1)。

これは、台風5号が日本アルプスによって南北に分裂し、北側の渦が主体であったため、北陸地方に台風5号が解析されていますが、南側にも渦があるからです。

南側の渦は、その後、はっきりしてきて、台風5号が秋田沖の日本海で温帯低気圧になった8月9日3時には低気圧となって関東の東海上に進んでいます。

図1 台風5号に伴う地上天気図の変遷
図1 台風5号に伴う地上天気図の変遷

台風襲来の可能性が一番高いのは予報円の中心ではないという実例の一つが台風5号です。

台風5号の上陸直後の予報円の中心が、日本アルプスを通過することになっていても、台風5号がこの通り進むことは少なく、予報円の北端か、予報円の南端を進む可能性が高く、2通りの場合に備えての警戒が必要だったのです。

台風の地形効果

台風が山脈などの影響で、中心付近の風が弱くなり、山の背を挟んで中心が分裂したようにみえます。

昔、気象庁で予報業務に従事していた頃、当時の「予報作業指針 台風予報(昭和49年3月)」では、次のようになっていました。

1 台風や大きな低気圧の分裂には大別して2種類あり、多くの台風のように域内に温度差がない場合は中心が2つあるようになる(図2)。しかし、秋に多い温帯低気圧になりかかった台風か、大きな低気圧の場合は中心が3つに分裂する。

図2 山脈による円形等圧線の変形
図2 山脈による円形等圧線の変形

2 「逆くの字」湾曲している陸地を台風や大きな低気圧が縦断する場合は(日本列島に相当する)、地上の中心は、図3の黒三角のような動きをする。発生した副低気圧と呼ばれる渦は白三角のような動きをする(図3)。

図3 本州を横断するときのモデル
図3 本州を横断するときのモデル

台風5号の動きは、まさにこの通りでした。山脈を挟んで2つに分裂し、北側の渦が強かったたため台風5号は日本海にすすみましたが、のちには、南側の渦がはっきりしてきて北側の渦はなくなりました。

台風の中心付近で風が弱く、むしろ周辺で風が強いなど、地形によって台風は変形します。台風の中心付近が風が強いとは限りませんし、急に強い風が吹くことがあります。

暴風域や強風域にはいっているうちは、風が弱くても油断できません。

図1の出典:気象庁ホームページ

図2、図3の出典:饒村曜(1993)、続・台風物語、日本気象協会。

気象予報士

1951年新潟県生まれ。新潟大学理学部卒業後に気象庁に入り、予報官などを経て、1995年阪神大震災のときは神戸海洋気象台予報課長。その後、福井・和歌山・静岡・東京航空地方気象台長など、防災対策先進県で勤務しました。自然災害に対しては、ちょっとした知恵があれば軽減できるのではないかと感じ、台風進路予報の予報円表示など防災情報の発表やその改善のかたわら、わかりやすい著作などを積み重ねてきました。2015年6月新刊『特別警報と自然災害がわかる本』(オーム社)という本を出版しました。

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