Yahoo!ニュース

大きな予報円の台風5号が接近 台風発達と誤解しても行動は同じ

饒村曜気象予報士
雲の渦巻き 台風イメージ(提供:アフロ)

台風5号の進路予報

台風ラッシュの7月、藤原の効果などで進路予想が難しい台風5号が日本の東海上から西進して接近中です。週末には小笠原諸島に接近の見込みですが、4日先、5日先の台風進路予報は大きな予報円となっています(図1)。

図1 台風5号の5日先までの進路予報(平成29年7月27日0時の予報)
図1 台風5号の5日先までの進路予報(平成29年7月27日0時の予報)

台風の進路予報で、予報円が大きい場合は進路予想が難しい場合です。

しかし、これを、台風が発達すると誤解する人が少なからずいます。

予報円の誕生

台風といえば、いまでは予報円が当たり前のように使われていますが、この予報円が最初に使われたのは昭和57年(1982年)6月の台風5号からです。

戦後の日本は、大きな台風災害が相次ぎ、死者が4桁(1, 000名以上)の大惨事となるのがふつうでした。

それを何とか減らせないかと、台風の進路予報において、進行方向だけでも予報しようと、1981年までの約30年間、誤差幅をつけた「扇形表示」を使っていました。

進行速度は難しいので一本の線で表示していましたので、「扇形表示」は進行方向の誤差が全くないかのような印象を与え、「台風はまだ来ないだろう」と人々に誤った判断をさせていました。

 そこで考えられたのが、「予報円」を用いた表示方法です

台風の予報誤差には,進行方向と進行速度の2種類がありますが、多くの例で調査すると,両方の誤差がはぼ等しく、予報位置を中心とした分布となっています。精度の良い予報になればなるほど予報位置の回りに集中した分布となり、精度の悪い予報ほど周辺部にも広がっている分布となります。

予報の精度を簡単に表すには,この予報位置のまわりにどれ位集中してくるかということを示せば良いのですが、これには2通りの方法があります。一つは一定の割合が含まれる円の大小で表わす方法(図2のA)で,もう一つは,予報位置の回りに一定の大きさの円を描き,この円内にどれくらいの予報が含まれているかで表わす方法(図2のB)です。

図2 台風の進路予報の精度の説明図
図2 台風の進路予報の精度の説明図

気象庁の発表する予報円表示の予報円は,表示の簡明さ、情報伝達のわかりやすさ等を考え合わせ、円の中に70%の予報が入るということで半径を決めた予報円を採用していますので、前者の一定の割合が含まれる円の大小で表わす方法(図2のA)です。

大きな予報円は発達する台風という誤解があっても

予報円を導入するとき、「大きな予報円は発達する台風と受け取る利用者がでてくる」という懸念がありました。

それでも、予報円を導入したのは、「大きな予報円の台風を、発達する台風と間違って受け取っても、今後の台風情報を入手して警戒をする」という考え方からです。

つまり、「大きな予報円の台風を、進路予報が難しい台風と正しく受け取り、今後の台風情報を入手して警戒をする」という場合と比べて、「今後の台風情報を入手して警戒する」という防災対応の点では同じであるからです。

勿論、正しく理解するのは大事なことで、当時、私も分担しましたが、気象庁ではマスメディア等の協力をえて、大々的なPR活動を行いました。その後も多くの人がPRしていますが、未だに誤解をしている人はゼロになってはいません。

予報円の大きな台風の例

予報円の半径は、台風の進路予報の平均誤差にほぼ対応していますので、台風の進路予報精度が向上するたびに予報円は小さくなっています。

予報円が誕生した頃に比べると、予報円の半径の平均は半分以下になっており、予報円の示す面積は4分の1以下になっています。

図3 予報円が大きい平成28年9月17日9時の台風16号の進路予報(ウェザーマップによる)
図3 予報円が大きい平成28年9月17日9時の台風16号の進路予報(ウェザーマップによる)

しかし、予報円が大きな台風は、ときどき出てきます。

平成28年9月13日にフィリピンの東海上で発生した台風16号は、北西進のち北進して17日に沖縄県与那国島近海を通過して東シナ海に入りましたが、台風の速度が遅く、上空の強い風に流され始める時期の予測が難しかったため、予報円は非常に大きくなっています(図3)。

このため、例えば、関東地方への接近は、早ければ21日(水)の朝、遅ければ23日(金)以降というように、非常に使いずらいものでした。

しかし、それが今の台風進路予報の限界であり、「台風進路予報が難しいので最新情報でチェックが必要」という、利用者の重要な情報を含んでいます。

ちなみに、その後の台風16号は、19日になると上空の強い風に乗って北東に加速しはじめ、予報円も小さくなって20日0時すぎに鹿児島県大隅半島に上陸しました。

一般的に、情報の利用者が誤解しないように情報発信者が考慮するのが大事なのは言うまでもありませんが、仮に情報の利用者が誤解して受け取っても、大きく間違った行動をとらないように情報発信者が配慮することも必要と思います。

台風進路予報の予報円表示は、自動的に、その配慮も含まれています。

気象予報士

1951年新潟県生まれ。新潟大学理学部卒業後に気象庁に入り、予報官などを経て、1995年阪神大震災のときは神戸海洋気象台予報課長。その後、福井・和歌山・静岡・東京航空地方気象台長など、防災対策先進県で勤務しました。自然災害に対しては、ちょっとした知恵があれば軽減できるのではないかと感じ、台風進路予報の予報円表示など防災情報の発表やその改善のかたわら、わかりやすい著作などを積み重ねてきました。2015年6月新刊『特別警報と自然災害がわかる本』(オーム社)という本を出版しました。

饒村曜の最近の記事