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風が弱い時に気温が上昇すると光化学スモッグに注意

饒村曜気象予報士
(写真:アフロ)

5月20日の東日本から西日本は、移動性高気圧に覆われるために風が毎秒4メートル以下と弱く、晴れて日射が強くなって最高気温が30度以上となるところがあります(図1)。

図1 予想天気図(平成29年5月20日9時)
図1 予想天気図(平成29年5月20日9時)

これは、光化学スモッグが発生しやすい気象状況であるため、気象庁は5月19日11時に、「全般スモッグ気象情報(光化学オキシダント)第1号」を発表して20日までの警戒を呼びかけました。

5月20日15時追記:

気象庁は5月20日11時に「全般スモッグ気象情報(光化学オキシダント)第2号」を発表しました。この中で、関東甲信、近畿地方では、今日(20日)昼過ぎから夕方にかけて、関東甲信、東海、近畿地方では、明日(21日)も光化学スモッグの発生しやすい気象状態となる見込み、となっています。

光化学スモッグ注意報

各都道府県及び北九州市が汚染物質濃度を監視しており、一定濃度以上になると予想されると、予報とともにスモッグ注意報、スモッグ警報などの大気汚染注意報を発表します。

また光化学スモッグに関しては、翌日に発生が予想される場合は全国(日本国内全域)を対象に「全般スモッグ 気象情報」を、当日に発生が予想される場合は各地方を対象に「スモッグ気象情報」を、それぞれ気象庁が発表します。

これは、光化学オキシダントなど大気汚染が発生しやすいような気象状況が予想される場合や、汚染が特にひどく、自治体から「スモッグ注意報」が発表される恐れがある気象状態が予想される場合に発表されます。

大気汚染気象予報の方法は、一般の天気予報と同様に、数値予報をもとに行われます。一般の天気予報では、気象について激しい現象の有無が予想のポイントですが、大気汚染気象予報では、逆に、どの程度穏やかな気象状態であるのかが予想のポイントとなります。

光化学スモッグとは

人間活動によって大気中に放出された硫黄酸化物と窒素酸化物などが太陽からの紫外線を受けて生成される光化学オキシダントが原因です。

光化学オキシダントは、生成されるまで時間がかかるため、発生源が沿岸部でも沿岸部が高濃度になることは少なく、沿岸部の汚染が流れ込んできた内陸の方で高濃度が観測されることのほうが多いという特徴があります。

昭和45年から日本でも光化学スモッグ

日本で光化学スモッグが広く知れ渡ったのは、昭和45年(1970年)7月18日に東京都が初めて光化学スモッグが発生したと推定してからです。梅雨前線が弱まって東京で2回目、20日ぶりの真夏日となったこの日、東京都杉並区で運動中の女子高生が突然吐き気を訴え、43人が入院するという騒ぎとなりました。翌日の朝日新聞では、「新しい公害。海の向こうの大気汚染都市ロサンゼルスで多発が知られているだけの『光化学スモッグ』―オキシダントと硫酸微粒子の霧が住宅街の一角を襲って、次々と女生徒をうずくまらせた。」と報じています。

国内の光化学スモッグ注意報などの発表延べ日数は、昭和48年に300日以上のピークに達しています。

昭和54年には100日以下に減少しましたが、その後再び100日から200日前後に増加し、平成8年や平成19年には200日を超えるなど、21世紀に入っても、ときどき多く発生しています。

平成19年の光化学スモッグ

平成19年は、春から夏にかけて、ときどき西日本を中心に広い地域で光化学スモッグ注意報が220日も発表されました。

中でも、移動性高気圧に被われた5月8日から9日にかけては、九州北部から関東では、自動車の通行量が少なく、大気汚染物質を排出する工場等が近くにない山奥や離島も含めて20都府県で光化学スモッグを観測し、目やのどの痛みを訴える人がでました(図2)。

図2 平成19年5月8日9時の地上天気図
図2 平成19年5月8日9時の地上天気図

新潟県と大分県では、観測史上初めての光化学スモッグ注意報が発表されました。

日本で公害が大問題になっていた時でも発表がなかった両県での発表は、日本での原因だけでなく、日本以外の原因があることを示唆しています。

日本では汚染物質の排出が減っているので、環境対策が遅れている中国のせいではと大きく報道されました。

中国大陸で発生したオゾンが主原因で、それが西風で運ばれてきたというシミュレーション研究もあります。

越境大気汚染

汚染物質が国境を越えて発生源から遠く離れた地域まで運ばれることを越境汚染といい、ヨーロッパ諸国や北米では早くから越境汚染が問題となっていました。

海に囲まれた日本では、これまで越境汚染は特に問題となりませんでしたが、近年の韓国や中国のめざましい経済発展に伴って発生した多量の大気汚染物質が偏西風などに乗ってくるのではと、越境汚染が問題になりつつあります。

光化学スモッグの原因となる窒素酸化物、硫黄酸化物だけでなく、PM2.5も同様です。

PM2.5の飛来

大気汚染では、世界の多くの国で直径が10マイクロメートル以下の粒子「PM10」を観測してきましたが、1990年代後半からは、観測技術が向上してきたことから、人体への影響が深刻な、より小さな粒子、直径が2.5マイクロメートル以下の粒子「PM2.5」の観測が始まっています。

日本でPM2.5が一般の人に注目されたのは、4年前の平成25年(2013年)1月~2月に、中国の影響を受けて日本のPM2.5濃度が上昇したときが初めと思われます。しかしこのときも、過去に比べて極端に数値が大きくなったわけではありません。

一般的にはPM10が多ければ、PM2.5も多いと言えますが、単純ではありません。小さくなればなるほど、工場や車から発生する人為発生の粒子の割合が増えてくるからです。

5月20日は日本の広い範囲でPM2.5の濃度が高くなっていますが(「SPRINTARS/九州大学 竹村俊彦教授」による)、図3の分布図から、中国北部から朝鮮半島北部、日本海を通って日本にやってきていることが示唆されます。

図3 PM2.5の5月20日15時の予測(SPRINTARS/九州大学による)
図3 PM2.5の5月20日15時の予測(SPRINTARS/九州大学による)

5月20日は、光化学スモッグやPM2.5についての情報入手に努め、日中に不要不急な外出をしないなど、十分な注意が必要です。

国際貢献が必要

日本で起きている大気汚染も、地球規模の影響を受けています。

根本的な防災活動には、国際的な観測ネットワークの構築や、正確な予測情報の発表と提供、具体的な防災活動のノウハウの提供などの国際貢献が必要です。

気象予報士

1951年新潟県生まれ。新潟大学理学部卒業後に気象庁に入り、予報官などを経て、1995年阪神大震災のときは神戸海洋気象台予報課長。その後、福井・和歌山・静岡・東京航空地方気象台長など、防災対策先進県で勤務しました。自然災害に対しては、ちょっとした知恵があれば軽減できるのではないかと感じ、台風進路予報の予報円表示など防災情報の発表やその改善のかたわら、わかりやすい著作などを積み重ねてきました。2015年6月新刊『特別警報と自然災害がわかる本』(オーム社)という本を出版しました。

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