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春は山火事の季節、対策は不注意による失火をしないこと

饒村曜気象予報士
(写真:アフロ)

東北地方で相次いでいる山林火災

東北地方では、移動性高気圧の前面の気圧傾度が大きくて風が強く、乾燥した日々が続いていたため、大規模な山林火災(山火事)が相次いでいます(図1)。

図1 地上天気図(平成29年5月8日9時)
図1 地上天気図(平成29年5月8日9時)

福島県浪江町の山林で4月29日に発生した山火事は、東京電力福島第一原発事故に伴う帰還困難区域内であったために通常の消防活動ができず、火災発生から11日目の5月9日までに約50ヘクタールが焼けました。

また、5月8日に福島県会津坂下町で起きた山火事では、民家など5棟が全焼し、宮城県栗原市で起きた山火事では、民家など11棟が焼けています。

そして、5月8日に岩手県釜石市の山林で発生した山火事は、9日15時現在で約400ヘクタールが焼け、いまだに鎮火していません。陸上自衛隊などのヘリが海水を散布する消火作業を続けていますが、炎は民家まで数百メートルに迫り、136世帯348人に避難指示が出されています。

火災原因については、これから各地で調査が行われると思いますが、宮城県栗原市の山火事では、焼け跡からたき火をしたような跡が見つかるなど、多くの火災は、人間の不注意による失火であった可能性があります。

春は山火事が多い

春は、空気が非常に乾燥している季節で、多くの地方では最小湿度の記録がでます。

枯れ木や下草が乾いてくることに加え、強風やフェーン現象、乾燥した日々が続くなど、いったん山火事が発生すると大規模になりやすい季節でもあります。

山火事の原因はいろいろありますが、日本では落雷などの自然現象による火災はほとんどなく、人間の不注意によるものといわれています。

春は、乾燥した日が続き、枯れ木や下草が乾いてくることに加え、雪が解けたことで山菜取りやハイキングなどで多くの人が山に入り始めます。また、草木の新芽が出ない早春には野山の枯れ草を焼く山焼きもあります。新たに出る若草のための肥料とする効果や害虫を焼き殺す効果があるために行うものです。

このように、春は野山で火を扱うことが増えますので、ときどき大きな山火事が発生しています。

春の火災予防週間

春の火災予防週間は、消防記念日(昭和23年に消防組織法が施行された3月7日)までの一週間行われています。

全国的な火災予防運動のきっかけは、90年前の昭和2年(1927年)3月7日に発生したマグニチュード7.3 の北丹後地震です。関東大震災後、最初の大きな地震で、死者3000人、全壊家屋1万3000棟、焼失家屋4000棟などの大きな被害が発生しています。人口密集地ではないのに死者が多かったのは、2メートルを越す積雪の中で火災が起こったためと言われています。

山火事前線

春の火災予報週間の頃から大火の危険性が高まってくるからですが、山火事に関して言えば、山には雪が残っているなどで多くの人が入らないために、危険性が高まるのはもう少し後の桜の季節になってからです。

桜前線と同じ頃に、同じように南から北へ、平地から山地へと移動するのが山火事前線です。これは、林野火災(山火事)が発生した地域を結んだ線のことです。

桜の季節となったら、山菜採りなどで山に人が入り始めますので、山火事の危険性が高まりますので、桜前線が到達した地方は、山火事の危険性が高まった地方です。

図2 地上天気図(平成21年3月17日9時)
図2 地上天気図(平成21年3月17日9時)

平成21年春の山火事

平成21年は、3月から5月にかけて林野火災が全国各地で発生しています。

3月17日は、西日本は移動性高気圧に覆われ、ほとんど雲がなく、各地で乾燥注意報が発表されました(図2)。大分県由布市湯布院町では、野焼きの火が急激に燃え広がって4名が亡くなるなどの事故が発生しました。4月10日は、宮城県角田市で住宅火災の火が裏山に燃え移って大規模な山火事がおきています。このとき、移動性高気圧に覆われて風が弱かったのですが、空気が乾いていたこともあって、火は広い範囲に燃え広がっています(図3)。

図3 地上天気図(平成21年4月11日9時)
図3 地上天気図(平成21年4月11日9時)

消防に加えて、災害派遣の要請を受けた自衛隊が消火作業を続けた結果、消し止められたのは13日の14時になってからで、角田市と山元町にまたがる山林およそ120ヘクタールが焼けています。

5月14日は、岡山県備前市の山林の林道付近で発生した山火事は、移動性高気圧前面で気圧傾度が大きく、強い風が吹いていたため瀬戸内市方向に燃え広がり、21時間後の鎮火までに約50ヘクタール焼いています(図4)。

図4 地上天気図(平成21年5月14日9時)
図4 地上天気図(平成21年5月14日9時)

平成21年春の山火事は、空気が乾いているときに発生し、風が強い時も、風が弱い時も発生しています。そして、火災の原因の多くは人間の不注意でした。

火災気象通報

気象庁では、市町村長が発令する火災警報の基礎資料として、気象の状況が火災の予防上危険と認められるときに、都道府県知事に対して火災気象通報を行っています。

都道府県知事は、気象庁から火災気象通報を受けると、直ちにこれを市町村長に通報すること、通報を受けた市町村長は、気象の状況が火災の予防上危険であると認めるときに「火災に関する警報」を発することが決められています。

市町村長から火災警報が発表されたときは、火事を絶対に出さないために最大限の注意が必要です。

春は山火事の季節です。

移動性高気圧によって晴天が続くと、山に入る人が多くなりますが、風が強い時はもとより、風が弱い時でも、一旦大火となると消化には困難を伴います。まずは火を出さないことが大切です。

気象予報士

1951年新潟県生まれ。新潟大学理学部卒業後に気象庁に入り、予報官などを経て、1995年阪神大震災のときは神戸海洋気象台予報課長。その後、福井・和歌山・静岡・東京航空地方気象台長など、防災対策先進県で勤務しました。自然災害に対しては、ちょっとした知恵があれば軽減できるのではないかと感じ、台風進路予報の予報円表示など防災情報の発表やその改善のかたわら、わかりやすい著作などを積み重ねてきました。2015年6月新刊『特別警報と自然災害がわかる本』(オーム社)という本を出版しました。

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