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核実験で懸念の北朝鮮・白頭山噴火 約1000年前の噴火では日本でも多量の降灰

饒村曜気象予報士
(ペイレスイメージズ/アフロ)

CNNでは専門家の話として、北朝鮮が6回目の核実験をすれば、その巨大な振動が核実験場のある豊渓里(ブンゲリ)から約120キロメートル離れている白頭山(ペクトゥサン)の噴火活動を誘発しかねないと報じました。

約1000年前の大噴火

中国と北朝鮮の国境にある白頭山は、日本で作られた日本紀略によれば、今から1124年前の寛平5年(893年)に大噴火となっていますが、高麗が編纂した三国史記では917年に噴火となっています。白頭山の爆発的噴火は969年プラスマイナス20年という説もあります。

このように、噴火の時期には諸説ありますし、一回だけではなく、数十年に及んだ可能もありますが、10世紀の初めに膨大な噴出物から記録的な噴火であったことは間違いがありません。

ただ、白頭山噴火の記録は、日本で少ないのは当然としても、中国でも朝鮮半島でもあまり残っていません。

これは、中国では唐から五代十国時代へ、朝鮮半島は新羅から高麗へと変わった戦乱の時代での大噴火だったためと考えられています。

火山灰は考古学の時計

巨大な噴火によって多量の火山噴出物が広範囲に、数時間から数日のうちに降り積もりますが、そのときの噴火によって火山ガラスや鉱物の組み合わせが違いますので、大噴火であれば、あとから、どの火山噴火によるものなのかを容易に推定できます。

このため、離れた場所の地層から同じ火山からの噴出物がでてきたときには、これらの地層は同時期にできたといえます。

つまり、火山灰は考古学における時計の役割をしています。

白頭山から飛来した火山噴出物は、上空の偏西風によって東に運ばれ、東北地方北部から北海道に飛来していますので、火山灰を分析して白頭山のものであるとわかれば、その地層は約1000年前の地層ということができます(図)。

図 広域に広がった火山噴火物(阿蘇山、鬱陵島、白頭山)
図 広域に広がった火山噴火物(阿蘇山、鬱陵島、白頭山)

また、火山灰を分析して鬱陵島のものであるとわかれば、その地層は約9300年前の地層ということができます。

日本付近の上空は、ほとんどが西風ですので、火山が噴火すると噴出物は、白頭山や鬱陵島のように、火山の東の地方に広がります。

規模が違う阿蘇山の噴出物

阿蘇山は約30万年前から9万年前にかけて大規模な噴火が4回あり、地下から多量の火砕流や火山灰を放出したため、カルデラと呼ばれる巨大な窪地を作っています。

中でも、4回目の9万年前の噴火(阿蘇4)が最も大きく、火砕流は九州中央部から山口県まで達し、火山からの噴出物は600立法キロメートルと非常に多く、火山灰は日本全国だけでなく朝鮮半島からロシアの沿海州まで広がっています。

歴史的に見ても膨大な噴出物がでた噴火です(表)。

表 膨大な噴出物を出した過去の巨大噴火
表 膨大な噴出物を出した過去の巨大噴火

北海道東部でも10センチメートルの灰が降ったとの調査もあります。

このため、阿蘇4は、大量の火山灰が日本全国に降り注いだことから、植物学や考古学でなどの研究では、時代を表す指標として使われています。

つまり、地層から阿蘇4の火山灰がでてきたら、その地層は9万年前の地層であることがはっきりするからです。

白頭山の国際調査を

日本では火山の常時監視が行われており、少しでも異常を感じたら観測を強化していますが、白頭山は火山監視が行われていないのではないかということが懸念されます。

白頭山は、10世紀の初めの大噴火後、大きな噴火がおきていませんが、火山であることは間違いがありません。小規模噴火であっても、被害は北朝鮮国内にとどまらず、周辺国でも被害がでる懸念があります。

しかし、北朝鮮が白頭山の火山監視をしているかどうかは疑問です。一時的に行われていた国際観測も、現在は行われていません。

原爆実験が白頭山の火山噴火に結びつかないのかもしれませんが、白頭山は長い監視が必要な火山には間違いがありません。

現在の緊迫した国際情勢では実現の可能性が小さいのですが、白頭山は観測を放置して良い火山ではありません。

早急に、最新機器を用いた白頭山の国際調査再開が実現できることを望みます。

図表の出典:饒村曜(2015)、火山 噴火の仕組み・災害・身の守り方、成山堂書店。

気象予報士

1951年新潟県生まれ。新潟大学理学部卒業後に気象庁に入り、予報官などを経て、1995年阪神大震災のときは神戸海洋気象台予報課長。その後、福井・和歌山・静岡・東京航空地方気象台長など、防災対策先進県で勤務しました。自然災害に対しては、ちょっとした知恵があれば軽減できるのではないかと感じ、台風進路予報の予報円表示など防災情報の発表やその改善のかたわら、わかりやすい著作などを積み重ねてきました。2015年6月新刊『特別警報と自然災害がわかる本』(オーム社)という本を出版しました。

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