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台風が4月25日に上陸したことがあるのに、今年も台風1号の発生はまだ

饒村曜気象予報士
台風(ペイレスイメージズ/アフロ)

昨年は台風1号の発生が7月3日と、平成10年の7月9日に次ぐ遅さでした。今年も、まだ台風は発生していませんが、昭和31年の台風3号は4月25日に鹿児島県に上陸しており、既に台風シーズンに入っています。

4月25日16時追記

フィリピンの東海上で熱帯低気圧が発生し、西へゆっくり進んでいます。この熱帯低気圧は、24時間以内に中心付近の最大風速が18メートルになる見込みで、台風1号になる可能性があります。

4月26日15時追記

フィリピンの東海上で、4月26日9時に台風1号が発生しました。昨年より2か月以上早い発生ですが、昨年が記録的な遅さであっただけで、4月末までに1個の発生ならほぼ平年並みです(平年並みは1.3個の発生)。

台風発生の定義

台風は東経180度以西の北西太平洋(南シナ海を含む)で、最大風速が毎秒17.2メートル以上になった熱帯低気圧をさします。

そして、その年で最初に発生した台風が台風1号で、以後、発生順に番号が付けられています。

気象庁が台風の統計をとりはじめた昭和26年(1951年)以降の66年間で、台風の発生が一番遅かったのは、平成10年の7月9日です(表1)。

そして、台風1号の発生が遅い年は、「エルニーニョ現象の終わった年」というジンクスは、昨年も生きていました。

表1 台風1号の発生が遅い年(1951~2016年)
表1 台風1号の発生が遅い年(1951~2016年)

台風の発生が遅い年はエルニーニョ現象が終わった年

エルニーニョ現象というのは、南米沖の海面水温が平年より高くなる現象です。これに伴って太平洋高気圧の位置が東に移動し、日本ではあまり暑い夏にはならないというのがエルニーニョ現象です。

逆に、南米沖の海面水温が平年より高くなる現象が、ラニーニャ現象です。

エルニーニョ現象とラニーニャ現象は繰り返しおきており、特に、20世紀後半には大きなエルニーニョ現象が3回発生しています(図1)。

図1 20世紀後半のエルニーニョ現象とラニーニャ現象
図1 20世紀後半のエルニーニョ現象とラニーニャ現象

そして、最近では、 平成26年から続いていた「ゴジラ」というあだ名がつくほど強力なエルニーニョ現象が終わったのが昨年です(図2)。

図2 最近10年間のエルニーニョ現象とラニーニャ現象
図2 最近10年間のエルニーニョ現象とラニーニャ現象

図1、図2ともに、南米沖のエルニーニョ監視海域で、平年より海面水温が高いときはエルニーニョ現象、低いときがラニーニャ現象ということになります。

台風1号の発生が遅い1位、2位、3位、4位は、いずれも顕著なエルニーニョ現象が終わった年です。

エルニーニョ現象が終わる時には、インド洋で対流が活発になるため、例年であれば台風が良く発生するフィリピンの東海上では雲がほとんど発達しなくなります。台風の卵である積乱雲があまり発達しない(台風が発生しない)というのがエルニーニョ現象の終わった時期の特徴です。

台風の発生が2年連続で遅い?

今年は、現在まで台風1号が発生していません。

表2 台風の月別発生数
表2 台風の月別発生数

4月末まで台風が発生がない場合は、平成12年と平成13年以来、16年ぶりということができます(表2)。

今年は顕著なエルニーニョ現象が終わった年ではありませんので、記録的に台風1号の発生が遅くなれば、これまでの「台風1号の発生が遅いのは、顕著なエルニーニョ現象が終わった年」というジンクスは破られることになります。

4月26日15時追記

フィリピンの東海上で、4月26日9時に台風1号が発生したことにより、このジンクスは破られませんでした。

台風の最も早い上陸

気象庁では、台風の気圧が一番低い場所が、九州・四国・本州・北海道の上にきたときを「台風上陸」といいます。

島の上の通過や、岬を横切って短時間で再び海に出る場合は上陸ではありません。

台風の定義が「中心付近の最大風速が17.2m/s以上の熱帯低気圧」と決まった昭和26年(1951年)から台風上陸についての統計がありますが、一番早い上陸は昭和31年の台風3号で、4月25日7時半頃、鹿児島県大隅半島に上陸しました(表3)。

表3 台風の上陸が早い台風(1951~2016年)
表3 台風の上陸が早い台風(1951~2016年)

昭和31年の台風3号は、4月16日15時に発生したあと、フィリピンの東海上で935ヘクトパスカルまで発達しましたが、転向して北上するにつれ急速に衰え、大隅半島に上陸直後の25日9時には消滅しています(図3)。このため、台風が消えたと報じられました。

図3 昭和31年の台風3号の経路
図3 昭和31年の台風3号の経路

台風三号消える

台風三号は二十五日朝九州の南沖まできて消えた。中央気象台の観測では朝六時、台風の名残とみられる小さな低気圧が宮崎県沖にあるが、陸地では風もなく所によってにわか雨が降っただけ。しかしこのように四月中に台風が日本に近づいたのは、大正六年以来三十九年ぶりという珍しい記録を作った。

出典:昭和31年4月25日朝日新聞夕刊

昨年の台風1号の被害

昨年は、台風1号の発生が7月3日と二番目に遅かったのですが、年間発生数は26個と平年並でした。そして、上陸数は6個と、平成16年の10個に次ぎ、平成5年、平成2年と並ぶ第2位の記録となり、大きな台風被害が相次いでいます。

台風7号は、北西進して関東地方に接近し、関東地方に大雨を降らせた後、向きを北に変え、8月17日に、北海道の襟裳岬付近に上陸しましたが、北海道に台風が最初に上陸するのは23年ぶりのことです。

台風11号は、先に生まれた台風9号、台風10号より先に8月21日に北海道の釧路市付近に上陸し、台風9号は8月22日に千葉県勝浦付近に上陸しました。関東地方に台風が上陸したのは11年ぶりのことです。台風9号は東北地太平洋側を縦断し、8月23日に北海道日高地方に再上陸しましたが、北海道に台風が3個上陸したのは、昭和26年の統計開始以来はじめてです。

北海道は、台風10号の接近による大雨や、9月上旬の低気圧による大雨で、ニンジン、タマネギ、じゃがいもなど全国一の収穫量をほこる北海道の農作物被害が発生し、その影響は今年の高値に続いています。

台風10号は8月30日に岩手県大船渡市付近に上陸し、東北地方と北海道では記録的な大雨となり、岩手県岩泉町では小本川の濁流が高齢者施設を襲い9人が死亡しました。その後、台風12号が9月5日に長崎市付近に上陸して西日本に大雨を降らせ、台風16号は9月20日0時すぎに鹿児島県大隅半島に上陸しています。

台風1号の発生が遅くても警戒が必要

台風の発生が遅い年といっても、上陸数はそれほど減っていませんし、台風災害がなかったわけではありません。

台風1号の発生が7月9日と非常に遅かった平成10年の場合、台風の年間の発生数は16個と少なかったのですが、上陸数は4個もあります。

しかも、台風4号(8月26~31日)は、上陸はしなかったのですが、北上しながら前線を刺激し、栃木県那須町で日降水量607ミリなど、栃木県北部から福島県にかけて記録的な大雨を降らせ、土砂崩れや浸水により、死者・行方不明者22名などの被害が発生しています。また、静岡県に上陸した台風5号により7名が、和歌山県に2日連続して上陸した台風8号と台風7号により19名が、鹿児島県に上陸した台風10号により13名が亡くなるなど、上陸した4つの台風で大きな災害が相次いでいます。

台風の発生が遅いといっても、台風災害が少ないわけではありません。これからも、台風の発生に注意し、台風に警戒が必要です。

そして、過去には台風が4月に上陸した事例もあり、すでに台風シーズンに入っています。

気象予報士

1951年新潟県生まれ。新潟大学理学部卒業後に気象庁に入り、予報官などを経て、1995年阪神大震災のときは神戸海洋気象台予報課長。その後、福井・和歌山・静岡・東京航空地方気象台長など、防災対策先進県で勤務しました。自然災害に対しては、ちょっとした知恵があれば軽減できるのではないかと感じ、台風進路予報の予報円表示など防災情報の発表やその改善のかたわら、わかりやすい著作などを積み重ねてきました。2015年6月新刊『特別警報と自然災害がわかる本』(オーム社)という本を出版しました。

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