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発達中の低気圧の通過で大荒れ 大雨はドップラーレーダーで雨粒の動きまで監視

饒村曜気象予報士
ドップラーレーダーの原理(気象庁ホームページより)

春は日本付近で低気圧が急速に発達するため、嵐の季節と言われます。冬の特徴である北からの寒気が残っているところに、夏の特徴である暖気が入り始めることから、条件が重なると、強い寒気と強い暖気がぶつかって低気圧が急速に発達することがあります。

日本海にある発達中の低気圧

立春後に最初に吹く強い南風を春一番と言いますが、低気圧が日本海で急速に発達することでおきます。冬の間は、強い寒気の影響で、低気圧は日本付近で発生するか、発生して通過するとしても、ほとんどが本州の南岸通過で、日本海にはほとんど入りません。寒気が弱まると、低気圧の進むコースが北上して日本海に入りますので、春一番は春の嵐の最初ということができます。その後も、低気圧が日本海で発達すると、全国的に大荒れとなります。

現在、日本海南部には東進中の発達中の低気圧があり、寒冷前線が西日本から東日本を通過中です(図1)。

図1 予想天気図(平成29年4月19日9時の予想)
図1 予想天気図(平成29年4月19日9時の予想)

このため、西日本から北日本の広い範囲で、海上を中心に最大瞬間風速が毎秒30メートル以上という非常に強い風が吹き、海は大しけとなっています。

また、南から暖かく湿った空気が流れ込み、西日本から北日本の太平洋側を中心に、大気が不安定となり、局地的に雷を伴なった非常に激しい雨が降り、大雨となっています。

気象庁では、この大雨を20台のドップラーレーダーを用いて監視し、警報や予報、各種の情報を発表しています(図2、図3)。

図2 レーダー画像(4月18日3時25分)
図2 レーダー画像(4月18日3時25分)

警報の発表状況を最新のものに差し替えました(18日8時)

図3 警報の発表状況(4月18日7時52分)
図3 警報の発表状況(4月18日7時52分)

ドップラーレーダー

気象庁では、平成17年度以降、全国20か所の気象レーダーを順次、ドップラーレーダーに更新してきましたが、平成25年3月14日に名瀬の気象レーダーがドップラーレーダーとして3月14日に運用を開始したことにより、全国20か所の気象レーダーがすべてドップラーレーダーとなりました(図4)。

図4 気象庁のレーダー観測網(空港ドップラーレーダーを除く)
図4 気象庁のレーダー観測網(空港ドップラーレーダーを除く)

ドップラーレーダーとは、通常のレーダーが観測する降水の分布と強さに加え、電波のドップラー効果を利用して風で流される雨粒や雪の動きを観測することのでき、豪雨や突風対策に役立つレーダーです。

これは、物体へ同じ波長の電波が発射しても、近づいてくる場合の反射電波は波長が短く、遠ざかる場合の反射電波は波長が長くなるというドップラー効果を用いて、物体が近づいてくる、あるいは、遠ざかる速度をも求めることができるレーダーです(図5)。

図5 ドップラー効果の原理(気象庁ホームページより)
図5 ドップラー効果の原理(気象庁ホームページより)

ドップラー効果は、164年前の1853年3月17日に死去したオーストラリアの物理学者のクリスチャン・ドップラーが発見した現象です。

ただ、気象庁が一般向けに公表しているのは、雨雲の分布だけですので、これだけでは、普通のレーダー観測からドップラーレーダーに変わったことは分かりません。

ドップラーレーダーが最初に使われたのは空港

どんなにレ-ダ-が進歩しても、その有効範囲は地球の曲率のために限度があります。つまり,遠くにある背の低い雲は,地平線の下にかくれて探知できないからです。高い山にレーダーを設置すれば、探知範囲が広がりますが限度があります。このため、1台のレ-ダ-が観測できる範囲は200~400キロメートル位であれば、日本全国をカバーするには20台位のレーダーで十分です。

しかし、ドップラーレーダーの探知範囲は、通常であれば100キロメートル以下と通常のレーダーの4分の1です。このため、日本全国をカバーするには、単純に計算して16倍の320台のレーダーが必要となり、事実上不可能でした。

このため、ドップラーレーダーが最初に使われたのは、広い範囲の観測を必要としない空港からです。

その後、気象庁では10年近い歳月をかけ、気象研究所でデータ処理の技術開発を行い、遠くにある雨雲からの反射電波を処理することが可能となっています。このため、ドップラーレーダーの探知範囲が400キロメートル程度まで伸び、全国を20台のドップラーレーダーでカバーすることが可能になり、現在に至っています。

ドップラーレーダーは、航空機の離発着に大きな影響を及ぼす空港周辺の地上から高度数100メートルの間で発生する風向や風速が急激に変化している場所を観測できますので、航空機の安全運行に大きく寄与します。

また、発達した積乱雲から発生する冷えて重くなった空気による強い下降気流であるダウンバーストは、離発着の航空機にとって非常に危険な風です。地面付近にある飛行機がダウンバーストに遭遇すると、地面にたたきつけられて大事故となるからです。

ドップラーレーダーはダウンバーストや竜巻が直接映るものではありませんが、ダウンバーストや竜巻を発生させる可能性が高い雲(メソサイクロンと呼ばれる回転する雲)をとらえることができます。

平成6年9月4日に開港した関西西国際空港には、日本ではじめて、ドップラーレーダーが設置されました。

以後、羽田空港や成田空港などにも設置され、現在は全国の9空港にドップラーレーダーが設置されています。なお、関西国際空港のドップラーレーダーは、平成28年3月3日に最新鋭レーダーに更新され、順次、最新鋭レーダーへの更新が進んでいます。

次はメイストームに警戒

メイストームは、同じ春でも4月後半から5月という春の終わりに、日本付近が温帯低気圧の急速な発達により大風が吹く現象のことで、和製英語です。

日本海や北日本周辺海域で低気圧が急速に発達し、各地で強風が吹き荒れ、海上では波が高く大荒れとなります。寒冷前線が通過する時は、雷を伴って強い雨が降り、突風が吹きます。また、寒冷前線通過後は、寒気が入って一時的に寒くなります。このように、日本列島が広い範囲に渡って急激に変化するため、山や海では遭難事故の可能性が高くなります。

個人的には、メイストームは「嵐の危険性が高い春はそろそろ終わりだが、海や山への人出が増え危険性は増している」との警告の意味があるかと思っています。

あと1ヶ月は春の嵐に警戒です。

そして、春の嵐の危険性がなくなると、次は、梅雨による雨の危険性がでてきます。

図4の出典:饒村曜(2000)、気象のしくみ、日本実業出版社。

気象予報士

1951年新潟県生まれ。新潟大学理学部卒業後に気象庁に入り、予報官などを経て、1995年阪神大震災のときは神戸海洋気象台予報課長。その後、福井・和歌山・静岡・東京航空地方気象台長など、防災対策先進県で勤務しました。自然災害に対しては、ちょっとした知恵があれば軽減できるのではないかと感じ、台風進路予報の予報円表示など防災情報の発表やその改善のかたわら、わかりやすい著作などを積み重ねてきました。2015年6月新刊『特別警報と自然災害がわかる本』(オーム社)という本を出版しました。

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