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熊本地震発生後の最初の雨・必要な情報は変わる

饒村曜気象予報士
地上天気図(平成28年4月16日12時)

平成28年4月14日21時26分にマグニチュード6.5の熊本地震が発生し、熊本県益城町で震度7を観測しました。九州で震度7を観測したのは初めてのことです。

震度7の前震

震度階級では、震度7が一番大きな揺れで、震度8以上はありません。

震度7を最初に観測したのは、平成7年1月17日の兵庫県南部地震(阪神・淡路大震災)です。

その後、平成16年10月23日の新潟県中越地震、平成23年の東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)で震度7を観測していますが、熊本地震は九州初となります。

ただ、これまでの地震と違い、震度7を観測した地震以降、震度6強を含む強い地震が続いています。

気象庁では、震度7を観測した熊本地震を、4月16日1時25分に発生したマグニチュード7.3の地震(熊本中央区などで震度6強)の前震としています。

熊本地震は、地震の規模としては4月16日の地震より小さかったのですが、局地的に揺れが強く、震度7を観測したのです。

大雨警報、大雨注意報、土砂災害警戒情報の下げた基準

熊本地震や、その後の地震により、地盤の緩んで脆弱になっているため、雨による災害の危険性が通常より高くなっていると考えられます。

このため、熊本地方気象台の発表する大雨警報と大雨注意報の発表基準を当面の間、引き下げた暫定基準で運用しています。

具体的には、益城町、玉名市、西原村、宇城市、熊本市、氷川町で、発表基準を通常の7割に、

菊池市、宇土市、大津町、菊陽町、御船町、美里町、山都町、合志市八代市、嘉島町で、発表基準を通常の8割にするというものです。

通常より、少ない雨でも災害が発生する可能性があるためです。

同様に、熊本県と熊本地方気象台が共同で発表する土砂災害警戒情報の発表基準も、通常基準より引き下げた暫定基準で運用しています。

土曜日と日曜日の雨

前線を伴った低気圧が急速に発達しながら黄海から日本海に進む見込みで、16日夜から17日にかけ、被災地では雷を伴った非常に激しい雨が降り大雨となり、暴風や土砂災害に警戒が必要です。

図1 地上天気図(4月17日9時の予想、気象庁HPより)
図1 地上天気図(4月17日9時の予想、気象庁HPより)

熊本地方の16日(土)の予報は、晴れのち曇り夜雨、18時から24時の降水確率70%です。17日(日)の予報は、雨昼前から曇りのち晴れ、所により明け方雷を伴い激しく降る、0時~6時の降水確率90%です。

被災地に降る最初の雨ですので、二次災害のおそれがあります。

兵庫県南部地震のあとの最初の雨

最初に震度7を観測した兵庫県南部地震のとき、神戸海洋気象台の予報課長でした。

そのときの経験から、住民の要望は地震のあとの最初に降る雨の前後で変わり、したがって、必要な情報も変えなくてはならないと思いました。

兵庫県南部地震では、地震が発生した17日から3日間位は、住民から気象台への電話が平常に比べて驚くほど少ないものでした。この期間は電話を掛けても掛けても繋がらない状態となっていたためで、熊本地震とは状況が違います。20日頃から急に電話が殺到していますが、ほとんどの電話は、相手がパニック状態だったり、デマにより不安がっての電話でした。

地震後に掛かってきた電話の大部分は、「本震や余震の詳しい情報を知らせて欲しい」「神戸の震度は7ですか。最初に発表した6は間違いですか」「震度6の余震が来るというのは本当ですか」「△△頃、○○=地方に地震が発生すると聞いたのですが本当ですか(地震雲を見たのですが、地震が発生しますか)」でした。

気象台が外れて欲しいと思って雨の予報を発表すると、「雨により避難が必要ですか。この雨で被害がでますか」という質問が増えてきました。

この質問については、地震の影響で災害が起き易くなっているので、安全な場所に避難するなど、落ち着いて行動することを強調し、雨か長く続かないことに主眼をおいて説明することにしました。。

例えば、「雨は23日には上がり、週間天気予報ではその後は、晴れときどき曇りの天気が続く見込みなので、それまでは我慢して落ち着いて行動して下さい」といことを付け加えました。

もちろん、日曜日に降るとされている雨が止んでも、引き続き、山・がけ崩れ、地すべり等に注意する必要があるのですが、この段階では、とにかく冷静に雨に対応することが大事と考えたからです。

22日の雨に対ずる警戒の呼び掛けは、20日午後からテレビ、ラジオ、新聞等で盛んに流され、各防災機関は時間と競争しながら雨対策が行われました。

このため、21日は電話での問い合わせがひっきりなしとなりました。

22日の雨はほぼ予想通りでした。

幸いなことに大きな二次災害や不測の事態が発生しませんでした。というより、いろいろな方面での防災関係者の努力の結果、大きな二次災害や不測の事態を発生させなかったと言ったほうが適切なのかもしれません。

雨が本格的に降り始めると、「非常に強い雨が降っているように思うが、どれ位の雨量か」という問い合わせが多く、被災者はテントにあたる雨の大きな音や地震後の不安な気持ちからか、普段では何も感じない程度の雨でも非常に強く感したのではないかと思いました。

雨の降りかたか弱くなってきた22日午後からの情報では、雨が止んでもしばらくは注意が必要と呼び掛けました。

図2 週間天気予報
図2 週間天気予報

熊本県の週間天気予報では、土日の雨がすぎれば、しばらくは雨の心配がありません。

強い地震が続いており、壊れかけた建物等が、強い余震によって壊れるといった地震災害への対応を急ぎ、土曜の夜からの雨による二次災害防止の対応に力を入れる必要があります。

気象予報士

1951年新潟県生まれ。新潟大学理学部卒業後に気象庁に入り、予報官などを経て、1995年阪神大震災のときは神戸海洋気象台予報課長。その後、福井・和歌山・静岡・東京航空地方気象台長など、防災対策先進県で勤務しました。自然災害に対しては、ちょっとした知恵があれば軽減できるのではないかと感じ、台風進路予報の予報円表示など防災情報の発表やその改善のかたわら、わかりやすい著作などを積み重ねてきました。2015年6月新刊『特別警報と自然災害がわかる本』(オーム社)という本を出版しました。

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