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飛行機雲で気象が変わることを示した9.11テロ

饒村曜気象予報士
月と航空機 イタリア(写真:ロイター/アフロ)

12月17日は「飛行機の日」です。

今から112年前の明治36年(1903年)12月17日に、アメリカのライト兄弟(3男のウィルバー・ライトと4男のオービル・ライト)が、アメリカのノースカロライナ州キティホークで、飛行機「ライトフライヤー号」が人類史上初の人を乗せて空を飛んだからです。

ライト兄弟の飛行機では飛行機雲ができない

ライト兄弟が初飛行に成功するまで、空気より重たい物体を空中に浮かせようと考えた人は少なくありません。ただ、浮かせようと考えるに留まっていました。

ライト兄弟は、人を乗せた物体(機体)を浮かせ、その機体を操縦するというところまで考えたので飛行機の父なのです。

現在では当たり前の風景となっている飛行雲は、大気が飽和しているときに飛行機が出す排気ガス中の水蒸気や、翼の端付近にできる低圧部によって気温が下がることが原因となって飛行機の航跡に沿ってできる雲のことです。

飛行機がなかった時代には飛行機雲はありません。

また、ライト兄弟によって12月17日に4回行われた飛行の全てを合わせても、飛行時間は98秒、飛行距離は410メートル、そのうちの最大高度は9メートルでした。

つまり、低い気温の中の飛行ではありませんし、排気ガスの排出量も少ない小さなエンジンでの飛行ですので、飛行機雲はできません。

飛行機雲の諺は新しい

飛行機は第一次世界大戦など、戦争との関係で急速に性能が向上します。

大正末期から昭和初期にかけて性能が向上し、気温が非常に低くなる高度まで飛行できるようになると、飛行機に氷の結晶が付着する現象が大きな問題となります。

この頃の報告書には、飛行機雲に関する記述が見られますので、飛行機雲の始まりもその頃と考えられます。

飛行機雲は上空の水蒸気が多ければ多いほどできやすく、長時間残っています。そのため、雨が降る前兆の1つとなります。

「飛行機雲が長く消えずに残っているときは雨になる」という諺は、飛行機雲を見ることができるようになってから誕生したものですので、天気の予測に使える諺の中でも新しいものです。

飛行機雲と9.11テロ

飛行機雲が、気象に影響を与えているのではないかということは、早くから気象学者の間で議論されていましたが、長い間それを確かめる術は全くありませんでした。

しかし、平成13年(2001年)9月11日にアメリカで飛行機が貿易センタービル等に突入するという同時多発テロが発生し、その後3日間、米国の上空が飛行禁止となりました。

世界で一番飛行機輸送が盛んで、飛行機雲が多かった空から飛行機雲が消えたのです。

その結果、はからずも「飛行機雲がないことにより気象が変わるか」という観測データが得られました。

翌年春のアメリカ気象学会では、ウイスコンシン大学のデビット・トラビス博士が、「これまで飛行機雲が多く発生していた地域では、この3日間に昼と夜の気温差が3℃も広がった」と発表する等、飛行機雲が気象に与える影響の研究が進みました。

飛行機雲の気象に対する具体的な影響は、まだわからないことが多いのですが、何かしらの影響を与えていることは確かなようです。

ライト兄弟によって人類が飛行機というものを手に入れてから、わずか100年の間に、世の中は様変わりしたのです。

飛行機は、戦争によって開発が加速されたという歴史はありますが、現在の私たちの豊かな生活には不可欠なものとして使われています。飛行機雲が天気の予測に使えるといった、平和な時代の話だけであること望みます。

気象予報士

1951年新潟県生まれ。新潟大学理学部卒業後に気象庁に入り、予報官などを経て、1995年阪神大震災のときは神戸海洋気象台予報課長。その後、福井・和歌山・静岡・東京航空地方気象台長など、防災対策先進県で勤務しました。自然災害に対しては、ちょっとした知恵があれば軽減できるのではないかと感じ、台風進路予報の予報円表示など防災情報の発表やその改善のかたわら、わかりやすい著作などを積み重ねてきました。2015年6月新刊『特別警報と自然災害がわかる本』(オーム社)という本を出版しました。

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