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鬼怒川でレベル5 河川の名前がついた洪水予報

饒村曜気象予報士
ひまわりの可視画像(2015年9月10日9時:ウェザーマップによる)

日本海に入って温帯低気圧にかわった台風18号の気流と、日本の東海上を北上する台風17号の気流が関東地方でぶつかってできた細長い降雨域(線状降雨帯)が停滞したため、栃木県と茨城県では特別警報が発表されるほどの大雨になりました。このため、鬼怒川で「はんらん発生情報」、那珂川で「はんらん警戒情報」など、河川の名前がついた洪水予報が発表されました。

河川の名前がついている洪水予報(指定河川洪水予報)

河川の名前がついている洪水予報は、水防活動を目的とした気象庁と河川管理者の共同による予報です。河川を指定して行う洪水予報ですので、「指定河川洪水予報」といい、表のようにレベル化されています。鬼怒川についていえば、9月9日23時0分にはん濫警戒情報、10日0時15分にはん濫危険情報が発表され、越水やはん濫が発生した6時30分、8時0分、13時20分にはん濫発生情報が発表されました。

表 洪水予報のレベル
表 洪水予報のレベル

一方、河川の名前がついていない洪水予報は、気象庁が都道府県をいくつかに分割した二次細分地域ごとに発表される洪水注意報や洪水警報のことで、一般の利用を目的としたものです。

指定河川洪水予報は、平成20年(2008年)からは、その場所で降る雨量規準に加え、上流から流れてくる水量も加味した流域雨量指数も用いています。

指定河川洪水予報が始まったきっかけは、昭和22年のカスリーン台風

指定河川洪水予報が始まったきっかけは、昭和22年(1947年)のカスリーン台風の大雨による利根川堤防の決壊です。カスリーン台風の大雨による堤防の決壊は、明治政府以来、もっとも治水に力を入れてきた河川の決壊であり、その後の治水策に大きな影響を与えました。翌23年には、中央気象台(現在の気象庁)、建設省(現在の国土交通省)、地方自治体等の機関によって利根川洪水予報連絡会ができています。そして、カスリーン台風と良く似たコースを通って東日本を襲ったアイオン台風では、中央気象台の情報を受け、建設省が利根川と荒川の出水予報が行われました(図1)。

その結果、被害が最小限に食い止められたことから、この方法を拡充し、制度を整備して昭和37年までに国管理の17河川が対象となりましたが、それ以後はしばらく増えていません(図2)。これは、17河川が、流域面積の大きい河川で、上流域での降水から下流域での出水までに時間がかかるため、洪水予報が比較的行いやすかったことによります。

図1 建設省のアイオン台風洪水報告書の一部
図1 建設省のアイオン台風洪水報告書の一部

指定河川洪水予報の拡大は多摩川堤防が決壊がきっかけ

昭和49年8月30~31日に台風16号による豪雨により、東京都狛江市の多摩川堤防が決壊し、家屋19戸が流されています。このような中規模の河川で発生する洪水が大きな問題となってきたことから、建設省は河川管理システムを整備し、気象庁は降水短時間予報などの予測技術の向上を図って「指定河川洪水予報」を拡大することとし、昭和63年4月20日に多摩川が18番目の洪水予報指定河川となっています。

図2 建設大臣が指定した17の河川(昭和63年まで)
図2 建設大臣が指定した17の河川(昭和63年まで)

現在では、国土交通大臣が管理する全国109の水系(一級河川)すべてで「指定河川洪水予報」が、国土交通省と気象庁が共同で実施されています。なお、気象庁は国土交通省の外局ですが、指定河川洪水予報については別組織扱いとなっています。

また、近年は都市型水害とも言われる「排水が間に合わない内水洪水」が増える傾向にあり、平成14年(2002年)から都道府県が管理する河川(二級河川)についても、準備の整ったところから、都道府県と気象庁が共同で指定河川洪水予報を実施しています。

川の下流では雨が止んでも洪水の警戒を継続

川の下流では、上流に降った雨が流れてきますので、雨が止んでも、指定河川洪水予報のレベルがなかなか下がらないことがあります。また、雨が止んだあとにレベルが上がることがあります。指定河川洪水予報のレベルが下がるまでは、洪水に対しての警戒を継続することが重要です。

図の出典:饒村曜(1993)、続・台風物語、日本気象協会。

表の出典:饒村曜(2014)、天気と気象100 一生付き合う自然現象を本格解説、オーム社。

気象予報士

1951年新潟県生まれ。新潟大学理学部卒業後に気象庁に入り、予報官などを経て、1995年阪神大震災のときは神戸海洋気象台予報課長。その後、福井・和歌山・静岡・東京航空地方気象台長など、防災対策先進県で勤務しました。自然災害に対しては、ちょっとした知恵があれば軽減できるのではないかと感じ、台風進路予報の予報円表示など防災情報の発表やその改善のかたわら、わかりやすい著作などを積み重ねてきました。2015年6月新刊『特別警報と自然災害がわかる本』(オーム社)という本を出版しました。

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