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【浅田真央・単独インタビュー】真央リンク「エコのため、私の写真集の裏紙を企画メモに」社長にプレゼン

野口美恵スポーツライター
アイスショー『BEYOND』千秋楽公演に向けた練習中に(c)bassy

 浅田真央さん(32)が座長を務めるアイスショー『BEYOND』もいよいよ立川での千秋楽を迎える。その立川の地に来年秋オープンするのが、長年の夢だった『MAO RINK』だ。自身がプロディースするリンクの実現に至った経緯、そして構想を、単独インタビューで語った。

プレゼンの日は「無理かな」と思って帰りました

 2024年秋の『MAO RINK』オープンに向けて、立川市の建設予定地では、今年春から着々と工事が進められている。ショッピングモールや映画館に隣接する、家族連れで賑わうエリア。立川市の25分の1の土地を保有する立飛ホールディングスが、その開発を手掛けている。

 2年前、同社の村山正道社長を紹介された真央さんは、一世一代のプレゼンテーションに向かった。

「村山社長とお会いしたのは、21年の春、サンクスツアーの千秋楽後でした。人生初めてのプレゼンで、今でも思い出すんですけれど、試合に臨むような気持ちで、緊張していました。でも自分の思いを素直に伝えれば、ちゃんと伝わるだろうと信じて臨みました」

 長年の夢である“自分のスケートリンクを作りたい”という思い。しかし全国的には、スケートリンクは維持費の高騰や老朽化、レジャーの変化とともに閉鎖する傾向にある。『MAO RINKに対する思いを聞いてほしい』と、アポを取った真央さんは、手に一枚の企画書を握りしめていた。

「それは、サンクスツアーの写真集の、テスト印刷の裏紙でした。エコのために、その裏紙をメモ用紙として普段から使っていたんです。自分が滑っている写真とか、自分の顔写真の裏紙だから、まあいいかなって。その裏に思っていることをバーっと書いて、持っていきました」

 村山社長と会うと、真央さんはその紙を伏せて置き、村山社長の目をみつめて約20分、思いを一気に語った。

「持っていった紙は見ませんでした。お守りとして置いていただけ。リンクが必要なんだという思いを、とにかく語りました」

 世界で活躍するスケーターを自分のリンクで育てたいこと。リンクは全国的に減りつつあること。リンクがないとスケーターは練習できないこと。東京にはリンクが少ないこと。そして自分が求める理想のリンクの施設……。

「でも、話を聞いている間、村山社長がずっと無表情だったので、『無理かな?』と思ってその日は帰りました。後日、『一緒にやりましょう、力になります』という返事をいただいたときは、とても嬉しかったです。村山社長はすごく心の広い、優しくてパワフルな方なのだと、分かりました」

(c)MAO RINK PROJECT メディア発表会
(c)MAO RINK PROJECT メディア発表会

ギャラリーにはメダルを展示「どこにあったか、探しておきます」

 2年前というと、アイスショー『BEYOND』の準備も始まり忙しくしていた時期。2つのプロジェクトを、同時進行で進めていった。

「リンク設立に協力してもらえるというお話は嬉しかったですが、ただ、そこで形になったわけではありません。『まだここから』という気持ちになりました。むしろ、前までは何となくフワっとした夢だったのが、『いよいよ自分がしっかりしないと』と気持ちが引き締まりました。リンク内の施設はどうするのか、何が必要か、ということを考える段階で、さらに覚悟が強くなっていきました」

 場所は、立飛駅近くの9000平方米もの広大なエリアに決まり、メインとサブの2面リンクの設置が可能になった。メインリンクは国際規格(30m×60m)で、観客席も約1000席を用意する。サブリンクの南側には桜並木が生い茂っており、大きな窓を設置した。

「メインリンクは黒が基調で、世界を目指すスケーターが集中して練習に取り組める環境になっています。サブリンクは、スケーターは一日リンクにいることが多いので、ちょっとでも気持ちが和らぐよう、外も見えるといいかなって。春には桜も見えます。自然との一体感を考えました。エントランスにも緑を多く植えたのですが、練習が辛いなと思うときでも、お花や緑を見て少しでも気持ちが明るくなってほしいという思いがあります」

 そのほかジム、スタジオなど陸上でのトレーニングの施設も併設した。

「私自身が選手のときに『こういうリンクがあったらいいな』と思っていた、練習のために必要なすべてのものが整った環境にしました。トレーニングから栄養のことまで、すべてがあります。ここから、世界へ飛び立つ、日本を代表する選手が育ってくれれば嬉しいです」

 エントランスのギャラリーには、真央さんがこれまでに獲得してきたメダルを飾るというが……。

「自分のメダルはどこにしまってあるのかな? 自分で分かっていないので、リンクが完成するまでに探しておきます(笑)」

 またレストランも、この『MAO RINK』のこだわりの施設だ。

「スケーターは朝から夜までリンクで練習しているので、私は外で買ってきたものを食べることが多かったんです。MAO RINKでは、手作りの安心安全のお食事が食べられるレストランを作りたいと思っています。店内をガラス張りにして、テラス席も作り、春にはお花見スポットとして楽しめる。地域の方も集まるような、地域の憩いの場所になればと思います」

『MAO RINK』建設予定地では、着々と工事が進められている(c)yoshie
『MAO RINK』建設予定地では、着々と工事が進められている(c)yoshie

指導者として「トリプルアクセルも教えたい」、そのために今も挑戦中

 指導者として、セカンドキャリアも思い描く。

「私の場合、5歳からスケートを習い始めて、気がついたらスケートの基礎が身についていたという感じでした。そして、ジャンプも物心つく頃には跳んでいたので、技術を頭で考えることもなく、自然に身体で覚えていました。それは山田満知子先生や門奈裕子先生らのおかげだと思います。でも、子供たちに技術的に教える立場になるのだとしたら、やはり自分も技術をちゃんと勉強し直してから、と思っています」

 もちろん、自身の代名詞トリプルアクセルへの思いもある。

「やはりトリプルアクセルは、教えたいですよね。跳べるようなスケーターを育てられたらいいなと思います。ただ、今はまず自分がもう一度跳んでおきたいです。まずは『BEYOND』の立川での千秋楽前に、と思って練習中。トリプルアクセルを何回も練習すると、けっこう足に来るので、千秋楽で連日ショーになると難しいかもしれません。やはり最高のものを見せるために全力投球をしたいので。もし立川公演の終わりまでにできなかったら、またオフ期間に体を作り直してやります。自分が滑っているうちは、いつかまたトリプルアクセルを跳べると思うので、頑張り続けたいです」

浅田真央32歳「トリプルアクセルってこんなに楽しいんだ。出会えてありがとう」悩んだ選手時代からの変化

 一方で、トップ選手を育てることだけが目標ではないという。

「もちろん教える気持ちで一番大切にしたいのは、スケートの楽しさです。私は、子供の頃からスケートと共に育ってきました。子供の頃の思い出って、小中学校よりも、リンクの中での思い出のほうが強いくらい。私の青春は、スケートリンクにありました。ホームリンクだった大須の『名古屋スポーツセンター』や、今は無くなってしまった『星ヶ丘スポーツP&S』だったり、『愛知青少年公園』(現・モリコロパーク)。そこで色々なことを学びました。自分にとっては、第二の家のような場所。ですからこのリンクに通ってくるスケーターにとっても、人生の思い出となる場所、たくさんの笑顔があふれる場所にしたいと思っています」

 また、新たな構想も練っている。真央さんが主催者となる「真央杯(仮)」だ。

「自分の大会を自分のリンクで開催したいです。まだ具体的な内容は決まっていませんが、できれば、バッジテストの級がなくても、誰でも自由参加できるような大会です。子供から大人まで幅広い層の方が、スケートを楽しめるようなもの。『MAO RINK』が出来ることで都内の他のリンクが困るのではなくて、逆に周辺のリンクも盛り上がっていくように、一緒にスケート界を盛り上げていきたいと思っています。だから真央杯(仮)は、絶対にやりたいことの1つです」

立川での千秋楽に向けて練習する。指導者としてのセカンドキャリアのためにも練習は怠らない(c)yoshie
立川での千秋楽に向けて練習する。指導者としてのセカンドキャリアのためにも練習は怠らない(c)yoshie

“ご縁”をいただいた立川の地、『BEYOND』から『MAO RINK』へとつながる夢

 名古屋出身の真央さんにとって、立川市はこれまで訪れたことのなかった街。打ち合わせのために通ううちに、立川への思いも高まってきた。

「立川には何回も行っています。とても良い街、住みやすい街だなという印象です。新しい大きなショッピングモールがあったり、公園や緑地、ホテル、そしてステージガーデンという素晴らしいホールもあったりと、色々な施設が一体化しているのも良いですよね」

 第二の人生の拠点となる立川。その思いもあり、7月1日からの『BEYOND』千秋楽公演は『MAO RINK』完成予定地のすぐ近くにある「アリーナ立川立飛」に決定した。

「やはり“ご縁”をいただいた場所。最後はそこでロングランをやろうと考えて、7月1日から17日まで全15公演となりました。かなりハードなスケジュールですが、現役時代のときよりも体力も技術も上がっていると実感しています。15公演、後悔のないようすべての力を出し切ります」

 昨年9月のスタートから毎公演、内容をブラッシュアップしてきた。千秋楽15公演は、サプライズのスペシャルプログラムも追加し、今まで以上に華やかな舞台になるという。

「SNSの意見も聞いて、フォーメーションや演出をどんどん変えてきました。正面だけでなく、ロングサイドや後ろの席の方まで、どうやって楽しんでもらえるか工夫して、どこの席にいても『今こっちにアピールした』と思える瞬間があるように。また立川公演は、どの席からも迫力を感じられるよう、中央に大型モニターもスペシャルでつけました。会場がコンパクトなので一番後ろの席でもリンクに近いのですが、モニターで表情や足さばきを見ていただくと、より楽しんでいただけると思います」

 立川の地で、まずは『BEYOND』に全力投球。そこから『MAO RINK』へと夢は繋がっていく。

「5歳からスケートを始めて、そこから、これだけ夢が広がるんだなというのは、自分でも驚いています。自分の名前がついたリンクができるのはとても光栄なこと。この機会をいただいて感謝の思いでいっぱい、それと同時に、気持ちも引き締まっています。第二の人生の大きなチャレンジ。私はスケートと共に成長してきたので、これからはショーやリンクを通じて、スケートやファンの方々に恩返しをしていきたいです」

立川公演はサービスモニターで迫力を楽しめる(c)『BEYOND』
立川公演はサービスモニターで迫力を楽しめる(c)『BEYOND』

千秋楽公演ではこれまでの演目に加え、スペシャルプログラムも準備している(c)『BEYOND』
千秋楽公演ではこれまでの演目に加え、スペシャルプログラムも準備している(c)『BEYOND』

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【この記事は、Yahoo!ニュース個人の企画支援記事です。オーサーが発案した企画について、編集部が一定の基準に基づく審査の上、取材費などを負担しているものです。この活動は個人の発信者をサポート・応援する目的で行っています。】

スポーツライター

元毎日新聞記者。自身のフィギュアスケート経験を生かし、ルールや技術、選手心理に詳しい記事を執筆している。日本オリンピック委員会広報としてバンクーバーオリンピックに帯同。ソチ、平昌オリンピックを取材した。主な著書に『羽生結弦 王者のメソッド』『チームブライアン』シリーズ、『伊藤みどりトリプルアクセルの先へ』など。自身はアダルトスケーターとして樋口豊氏に師事。11年国際アダルト競技会ブロンズⅠ部門優勝、20年冬季マスターゲームズ・シルバー部門11位。

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