Yahoo!ニュース

米国中間選挙の仕組みと争点(4)―トランプ派候補と2024年大統領選挙への影響

西山隆行成蹊大学法学部政治学科教授
再選を目指すロン・デサンティス州知事(フロリダ州)(写真:ロイター/アフロ)

前回までの記事で、中間選挙の仕組み有権者の投票行動重要争点について解説してきました。今回の記事では、トランプ派候補と2024年大統領選挙への影響について、解説することにします。

トランプ派候補は?

現在の米国では二大政党の対立が激化していますが、それと同時に、二大政党ともに路線対立を抱えています。とりわけ深刻な問題を抱えているのが共和党で、伝統的な主流派とトランプ派の対立が顕著になっています。伝統的な共和党主流派は、小さな政府を主張する財政保守、中絶問題などの問題を重視する社会的保守、対ソ強攻策をとる軍事的保守の三つの保守派による協力体制が構築されたロナルド・レーガン政権をシンボルとして掲げてきました。しかし現在では、国境の壁建設などの公共事業に積極的で、モラルに関わる問題を抱え、世界に対するコミットメントに消極的なトランプとその支援を受けた人々が、いわば党を乗っ取る勢いで急速に存在感を増しています。もちろん、トランプに対する態度は党内でも分かれており、上院院内総務のミッチ・マコーネルらはトランプに批判的なスタンスをとっています。

米国の二大政党では、党本部は候補者を確立する権限を持っておらず、予備選挙で勝利した候補が党の候補になります。今回の中間選挙ではトランプが推薦した候補(上下両院と州知事)の予備選挙の勝率は96%であり、上下両院の計470の選挙区のうち3分の1強に当たる158でトランプが支援する候補が出馬しています。もっとも、トランプは予備選挙で勝ちそうな候補にしか支持を表明していないので、ある程度は差し引いて考える必要はありますが、トランプ派の存在感は大きくなっています。

とりわけ注目を集めているのが、接戦州で上院議員の候補となった人々の存在です。アメリカンフットボールの元選手であるハーシェル・ウォーカー(ジョージア州)、テレビ司会者で医師のメフメト・オズ(ペンシルヴァニア州)、トランプ支持者である白人労働者層の状況をつづってベストセラー作家となったJD・ヴァンス(オハイオ州)など、共和党の伝統的な主流派の反対を抑える形でトランプが推した候補たちです。

以前の原稿でも記したとおり、中間選挙では大統領の所属政党が敗北するのが一般的なので、民主党が議席を減らすことは予想されていました。しかし、上院選挙で思いのほか民主党が善戦しているのは、これら接戦州で共和党候補となったトランプ派候補がスキャンダルなどの問題を抱えているからでした。これらの候補は通例ならば惨敗してもおかしくない人々ですが、トランプの支持を得ているために接戦となっているとも言えます。言い換えれば、彼らがどのような戦いをするかが、トランプの影響力の大きさをはかるうえで参考になります。もし彼らが敗北すればトランプの責任を問う声が上がるとともに彼の影響力に陰りがみえることになりそうですが、彼らが余裕をもって勝利すれば、トランプの政治的直感の鋭さを証明することになり、トランプの影響力は維持されるでしょう。

トランプは大統領選挙で接戦州となる地域を中心に応援演説を頻繁に行いましたが、演説内容の大半は自らの宣伝でした。トランプは2024年大統領選挙への出馬宣言をまだしていませんが、それは宣言してしまえば選挙資金法上の規制などがかかるのに対し、出馬せずに他候補の応援だということにすれば行動の自由度が上がるからです。ここ数日でトランプが出馬宣言するのではないかという記事が出るようになっていますが、それはトランプが支援した候補が勝利する見込みが立ち始めたからでしょう。

なお、トランプ派の候補が多く連邦議会議員に当選することになれば、現在の民主党多数議会で行われている取り組みの性格が大きく変わる可能性があります。例えば、2021年1月の連邦議会議事堂襲撃事件をめぐる調査や、トランプ元大統領が機密文書を持ち出したことをめぐる調査などが打ち切られ、代わりにバイデン大統領の息子のウクライナ疑惑をめぐる調査などが中心となる可能性があります。トランプが中間選挙に積極的に関与する背景には、このような考慮もあるのです。

州務長官選挙の結果は?

中間選挙では連邦議会上下両院と州知事の選挙に注目が集まりがちですが、実は州や地方政府のレベルでも多くの選挙が実施されます。その中でも、今後の連邦政治の在り方を占ううえで重要な意味を持つのが州務長官の選挙です。以前の記事でも記したとおり、米国では連邦の選挙も州政府が選挙管理を行いますが、州務長官はその責任者です。

2020年大統領選挙では、トランプがバイデンの勝利を認めないだけでなく、マイク・ペンス副大統領や州務長官がその気になれば選挙結果を否定できるはずだと繰り返し主張していました。選挙結果否定派が中心となって連邦議会議事堂襲撃事件までもが発生した次第です。今日でも2020年大統領選挙は不正だったと主張する人々が一定数います。そして、選挙管理の責任者となる州務長官の候補のなかにも、そのような立場をとる人がいるのです。アリゾナ州のマーク・フィンチェム、ネヴァダ州のジム・マーチャントらが代表的ですが、彼らが出馬している州は共に大統領選挙では接戦州と位置付けられています。

米国の選挙管理は、その実務を担う公務員の大半は厳格かつ公正に行おうと努めているように思えますが、その上に立つ人々が、政治的な意図を持って選挙管理を行おうとする誘因を持っています。彼らが今回の選挙で勝利するかどうかは、今後の米国の選挙政治の民主的正統性について考える上で、とても重要な意味を持ちます。

2024年大統領選挙の有力候補はどのような勝ち方をするか?

今回の中間選挙は、2024年の大統領選挙の行方を考える上でも重要な意味を持ちます。民主党側はバイデン大統領が二期目を目指す可能性もあるため、表立って大統領への野心を示す人物は出ていませんが、共和党はトランプ以外にも大統領への野心を持つ人々がおり、その一部は今回の中間選挙に出馬しています。

とりわけ注目を集めているのが、フロリダ州のロン・デサンティス州知事とテキサス州のグレッグ・アボット州知事です。彼らは今回の選挙での再選をほぼ確実にしているといわれていますが、この選挙を知名度を上げるための機会ととらえて様々なパフォーマンスを行っています。例えば、両氏ともに、中南米から来た移民(不法移民、難民を含む)をワシントンDCやニューヨーク市など、民主党の影響が強い「聖域都市」と呼ばれる地域(不法滞在以外の罪を犯していない不法移民の取り締まりを積極的には行っていない地域)にバスで送り届けるなどのパフォーマンスをしています。彼らがどのような勝ち方をするかに注目するのも重要だと言えるでしょう。

成蹊大学法学部政治学科教授

専門は比較政治・アメリカ政治。東京大学大学院法学政治学研究科博士課程修了、博士(法学)。主要著書に、『〈犯罪大国アメリカ〉のいま:分断する社会と銃・薬物・移民』(弘文堂、2021年)、『格差と分断のアメリカ』(東京堂出版、2020年)、『アメリカ政治入門』(東京大学出版会、2018年)、『アメリカ政治講義』(ちくま新書、2018年)、『移民大国アメリカ』(ちくま新書、2016年)、『アメリカ型福祉国家と都市政治―ニューヨーク市におけるアーバン・リベラリズムの展開』(東京大学出版会、2008年)などがある。

西山隆行の最近の記事