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もう止まらない韓国へのダメ出し―北朝鮮は「敵対」アピールで国歌まで変えた

西岡省二ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長
新型地対海ミサイル射撃試験を指導する金総書記=朝鮮中央通信HPキャプチャー

 北朝鮮は「韓国敵視」を宣言して以来、「南北統一」を象徴する概念・組織・構造物を次々に破壊している。北朝鮮国営メディアで使われる朝鮮半島の地図を南北で異なる色にしたり、金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党総書記は南北軍事境界線を「国境」と表現したりしている。さらに北朝鮮は国歌「愛国歌」の歌詞まで変更し、強硬姿勢を際立たせている。

◇祖父・父の方針とも決別

 南北関係は、韓国で2022年5月に保守系の尹錫悦(ユン・ソンニョル)政権が誕生して以後、対決ムードが鮮明になった。尹政権は日本や米国と連携して北朝鮮に圧力をかけ、非核化に向けた措置を取るよう要求する。これに北朝鮮側も反発を続け、朝鮮半島での緊張が高まっている。

 昨年末開かれた党中央委員会総会(12月26~30日)で、金総書記は「長きにわたる祖国統一の思想と路線の放棄」を宣言した。

 朝鮮半島に1948年、韓国、北朝鮮という二つの国が相次いで成立し、半島は分断された。それから75年以上、両国は公式には「われわれは別々の主権国家ではない」「統一を目指す潜在的なパートナー」と言い続けてきた。南北関係がこじれても、この方針は双方の基本原則として維持されてきた。

 ところが金総書記は、祖父・金日成(キム・イルソン)主席や父・金正日(キム・ジョンイル)総書記(いずれも故人)のこうした伝統的立場から決別し、対南政策の抜本的な方向転換に乗り出したのだ。

 北朝鮮の国営メディアは昨年7月以降、韓国を「大韓民国」と呼ぶようになった。それまで南朝鮮と呼んできたものを、正式な国名にあえてカギ括弧をつけて表現するようになったのだ。そして最近、そのカギ括弧さえも外された。

北朝鮮外務省HPキャプチャー。赤色が変更箇所(筆者修正)
北朝鮮外務省HPキャプチャー。赤色が変更箇所(筆者修正)

◇「境界」の明確化

 北朝鮮はこれまで韓国を「独立した主権国家」とはみなしてこなかったため、南北の交渉は外務省ではなく、党統一戦線部やその傘下の特殊機関が担ってきた。だが金総書記はこうした組織を改編したうえ、南北統一の象徴であった「祖国統一3大憲章記念塔」まで破壊した。

 さらに、金総書記は「三千里錦繍江山」や「8000万民族」のような朝鮮半島の一体化を象徴するような用語の使用も禁じた。その流れを受け、北朝鮮当局は▽半島の地図の表示を南北で別々のものに変更▽南北軍事境界線を「国境」に言い換える――などの措置を取ってきた。

 さらに今回明らかになったのは、国歌の変更だ。

 北朝鮮外務省はホームページに掲載している「国号」「国章」「国旗」「国歌」のうち、「国歌」(愛国歌)の一部を変更した。

 それまでの2節目の歌詞「三千里 美しい 我が祖国」の「三千里」を「この世」に置き換え、「この世 美しい 我が祖国」と変更したのだ。

 北朝鮮は民族の一体性を示す概念を一気に排除しているとみられ、こうした措置は今後も顕在化するだろう。

 ただ、注意すべきは、北朝鮮が韓国の正統性を認めたわけではないことだ。北朝鮮にとって韓国は「統一のパートナー」ではなく、征服すべき外国であるという点に変わりはない。

ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長

大阪市出身。毎日新聞入社後、大阪社会部、政治部、中国総局長などを経て、外信部デスクを最後に2020年独立。大阪社会部時代には府警捜査4課担当として暴力団や総会屋を取材。計9年の北京勤務時には北朝鮮関連の独自報道を手掛ける一方、中国政治・社会のトピックを現場で取材した。「音楽」という切り口で北朝鮮の独裁体制に迫った著書「『音楽狂』の国 将軍様とそのミュージシャンたち」は小学館ノンフィクション大賞最終候補作。

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