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米国主導の枠組みに対抗、中国が組むパートナーはどの国か

西岡省二ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長
プーチン露大統領(左)と中国の習近平国家主席(写真:ロイター/アフロ)

 ロシアのウクライナ侵攻を受け、米国や欧州連合(EU)、日本などが連携してロシアに対する経済制裁を発動し、ウクライナに武器を供与するなど支援を強化している。米主導の包囲網を目の当たりにした中国は、これに対抗する自国主導のネットワークを果たして構築しようと考えているのか。

◇中国のパートナーシップとは

 中国はこれまでに75カ国と異なる形態のパートナーシップを構築してきた――王毅(Wang Yi)国務委員兼外相は2015年3月23日、中国発展ハイレベルフォーラムの席上、こう語った。

 王毅氏が強調していたのは次の点だ。

「伝統的な国際関係でよく見られる現象は『同盟』か『対立』のどちらかである。パートナーシップを築くということは、両者の間で“対立なき対話、同盟なきパートナーシップ”という新たな道を歩むこと」

 中国にとってパートナーとは、一定以上の信頼関係があり、主要な課題について根本的な相違がないことを意味する。自国の利益となる何かが存在し、それがさらに拡大するのであれば、「パートナーシップ」を結ぶということだろう。

 中国が各国と交わしているパートナーシップはさまざまな形態がある。中でもロシアとの「中露新時代の包括的・戦略的協作(協力)パートナーシップ」が最高レベルのようだ。「戦略的協作」は、一般的な協力に加えて、軍事技術でも相互に協力する▽国際情勢に関する立場を調整し、ともに行動する――というニュアンスだ。

 その次がパキスタンとの「全天候型戦略的合作(協力)パートナーシップ」。「全天候型」とは、政治・経済・安全保障などにおいて、国際情勢の変化にかかわらず密接な関係を持つこと。

 ベトナムやラオス、カンボジア、ミャンマー、タイとは「包括的戦略合作パートナーシップ」。各国は中国の近隣諸国であり、幅広い分野で深い関わりがある。

◇それぞれ微妙な日本、米国、北朝鮮

 一方、「非パートナー」はそれほど緊密ではない関係となる。

 日本とは「戦略的互恵関係」。両国間に横たわる歴史問題を事実上棚上げし、成果が得られる分野で協力を進めて関係を強化する考え方。

 米国とは2013年6月、オバマ大統領(当時)と習近平(Xi Jinping)国家主席の首脳会談で「新型大国関係」を築くという共通認識に達した。「ライバルにならない」「対話と協力を通じて矛盾と相違を適切に解決する」という考えが込められた。だが、トランプ政権時にこの関係が破壊されたとの見方が広がり、バイデン政権発足後、中国側はこの用語を使わなくなった。

 ちなみに、こうしたパートナーシップに北朝鮮は含まれていない。

 中国と北朝鮮は朝鮮戦争(1950~53)をともに戦い、「血で結ばれた同盟(血盟)」と呼ばれる関係を築いてきた。両国間では「事実上の軍事同盟」であることを示す中朝友好協力相互援助条約(1961年7月)が結ばれ、その第2条に「いずれか一方の国が武力攻撃を受けて戦争状態に陥った時、他方は直ちに全力をあげて軍事上その他の援助を与える」と明記されている。

 中国側から時々、「軍事同盟の部分を削除すべきだ」という声が上がる。その理由として▽中国が安全保障の概念において軍事同盟の選択肢を捨てた▽北朝鮮の核開発に賛同せず、この問題に絡んで米朝で戦争が起きても北朝鮮支援のための出兵はできない――などが挙げられる。

◇中国も「統合抑止」追求?

 中国は核心的利益を守るために軍事力は不可欠だと考える。この20年間に軍事力を急速に拡大し、東・南シナ海での領有権主張を強め、台湾を威嚇する。一方で、自国から遠く離れた地域での安全保障にはほとんど意欲を示していない。

 また、相手国が政治体制に問題を抱える国であってもビジネスを活発化させ、資源獲得・影響力強化に力を注いできた。この方法は奏功し、パートナー、特に発展途上国は中国の関与を歓迎し、見返りに「一つの中国」原則を肯定したり、新疆ウイグル自治区での抑圧的な政策を黙認したり、国連で中国の立場を支持したりしている。

 こうした状況が今後、さらにグレードアップされるという見方がある。

 米ブルッキングス研究所フェローのパトリシア・キム氏は米外交誌フォーリン・アフェアーズ(2021年11月15日)に寄せた論文で次のように指摘している。

「(中国を取り巻く)安全保障環境が急激に悪化して、中国の指導者が、国内での権力保持、共産党の核心的利益の維持に不可欠だと判断すれば、ロシア、パキスタン、イランなど主要パートナーとの正式な防衛協定締結に踏み出す可能性がある」

 実際、ロシアとはこの方向が進んでいるようにみえる。中国は西側諸国による「包囲網」拡大に言及し、ロシアとともにこれを押し返す必要性があると強調している。中国は「中露は同盟国ではない」と言い続ける一方で、中露のパートナーシップに「際限はない」「タブーはない」と主張するようになった。

 最近のバイデン政権の動きについて、キム氏はこう懸念する。

「バイデン政権は、米国の同盟を活性化し、インド太平洋地域の安全保障に対する米国の同盟国の貢献を高めるため、大きな前進を遂げた」

「だが、バイデン大統領が認識すべきことは、同盟関係を再構築して(中露などの抑止のために同盟国やパートナー国と連携する)『統合抑止』を推し進めると宣言した時、中国は自国の戦略的パートナーに対して同じことを追求する可能性が非常に高いことだ」

 米国の伝統的な友好圏の外にいる国々が「中国と連携することが最善・唯一の選択肢」と結論づけないよう働きかけを強める必要がある。

 中国経済の持続的な発展はグローバル社会の利益になる。同時にその拡張路線は深刻なリスクにもなる。「米中のどちらか一方だけと連携する」のではなく、硬軟両面、経済と軍事安全保障といったバランスを取りながら利益の最大化を図る――このスタンスを求められる日本は、これからも難しいかじ取りが続く。

ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長

大阪市出身。毎日新聞入社後、大阪社会部、政治部、中国総局長などを経て、外信部デスクを最後に2020年独立。大阪社会部時代には府警捜査4課担当として暴力団や総会屋を取材。計9年の北京勤務時には北朝鮮関連の独自報道を手掛ける一方、中国政治・社会のトピックを現場で取材した。「音楽」という切り口で北朝鮮の独裁体制に迫った著書「『音楽狂』の国 将軍様とそのミュージシャンたち」は小学館ノンフィクション大賞最終候補作。

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