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北朝鮮が核・ICBMで連続挑発が間近に――ウクライナ危機と韓国の政権移行を「揺さぶりの好機」

西岡省二ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長
北朝鮮・豊渓里の核実験場について報道する韓国メディア(写真:ロイター/アフロ)

 北朝鮮が最近、大陸間弾道ミサイル(ICBM)を最大限の射程で発射するための動きに拍車をかけている。あわせて豊渓里(咸鏡北道吉州郡)の核実験場復旧とみられる様子も、あえて米国の偵察衛星に向けてさらしているようだ。北朝鮮は、核実験、ICBM発射のモラトリアム(一時停止)を撤回する手順を踏んでおり、ロシアのウクライナ侵攻で手いっぱいの米国や、政権移行期に入った韓国を揺さぶっているようにみえる。

◇3~6カ月で核実験可能か

 豊渓里の核実験場は、4つの主要な坑道で構成されている。うち「2番坑道」「3番坑道」は、内部で枝分かれし、さらに複数の坑道に分かれているといわれる。

 北朝鮮はかつて▽1番坑道は最初の核実験で汚染され既に閉鎖▽2番坑道で2~6回目の核実験を実施――と説明してきた。一方、「3番坑道」「4番坑道」では一度も核実験は実施されておらず、爆破によって入り口は閉鎖されたものの、内部は良好と推定される。韓国国防省によると、爆破された坑道の一部で復旧作業と推定される活動が識別され、それも坑道入り口に集中しているという。

 北朝鮮は2018年5月、「非核化に向けた初の重大措置」として核実験場を爆破した。その際、2~4番坑道の入り口が完全に崩れたことが確認されている。

 ただ、内部については検証されていない。内部には、放射能の残骸などの流出を防ぐため、堅固な遮断壁が多数設置され、入り口の爆破ならば坑道の内側は大きな打撃を受けていない可能性もある。当時の爆破は、入り口だけを見せる形で進められており、入り口さえ掘削すれば再利用可能な状態だったとの見方もある。

 韓国当局は、1、2番坑道の早期復旧は難しいが、3、4番は状況によって補完して使えると判断しているようだ。米戦略国際問題研究所(CSIS)のジョセフ・S・バミューデッツ(Joseph S. Bermudez Jr.)先任研究員も、米政府系放送局の自由アジア放送(RFA)のインタビュー(今月11日)で「もし破壊箇所が入り口程度であり、内部の損傷がひどくなければ、3~6カ月で復旧は可能」との見解を示している。

 また、韓国の軍・情報当局は、坑道復旧の動きが捕捉される前から、この付近での建物新築・改築の動きをキャッチしているという。

◇「『軍事偵察衛星』打ち上げ」はいつか

 北朝鮮は「国防科学発展および兵器システム開発5カ年計画」の課題として「軍事偵察衛星の運営」を掲げ、その準備を急ピッチで進めている。これを日米韓などが批判していることに対し、北朝鮮の対外宣伝サイト「わが民族同士」は13日、次のような反論記事を載せている。

「地球上に軍事目的で衛星を打ち上げる国はあまたある。多くの国は既にかなり前から軍事衛星を打ち上げ、これを通して国家防衛力強化に必要な情報も収集している。なのに、わが国が偵察衛星打ち上げの準備をすれば『挑発』だと罵倒し、『制裁』までうんぬんする。これこそ破廉恥で、強盗のような行動ではないか」

「われわれを狙った各種のミサイルと宇宙開発に血眼になっている南朝鮮(韓国)当局が、われわれの正当な宇宙開発計画と自衛権行使には、非論理的で、不公正な二重の物差しを突きつけている」

 衛星打ち上げも長距離弾道ミサイル発射も技術的には同じものであり、各国の衛星も長距離弾道ミサイル技術を使って打ち上げられている。だが、北朝鮮が同じことをやれば国連安保理決議違反となる。たとえ「衛星打ち上げ」など平和利用を掲げたとしても決議違反だ。北朝鮮の弾道ミサイル技術が核兵器開発と結びついているためだ。北朝鮮は宣伝メディアを通じて、この思考方法を転換するよう繰り返し求めている。

 北朝鮮は先月27日と今月5日、「偵察衛星開発計画による重要実験」と称して飛翔体を打ち上げた。日米韓の当局は、これを「新型ICBM『火星17型』システムの開発プロセス」と断定、火星17型の性能を確認するため、最大射程による試射に先立ち、第1段エンジンだけを試射した、という分析結果を公開している。「火星17型」は米本土に達すると推定されている。

 また北朝鮮は北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)総書記の指示を受け、平安北道(ピョンアンプクド)東倉里(トンチャンリ)の西海衛星発射場の各種施設の増設に着手している。

 韓国メディアによると、北朝鮮が最近、火星17型の追加性能試験の準備を進めている兆候があるという。次は「最大射程」で火星17型を発射する可能性もあり、警戒を強めている。

 そのタイミングはいつか。金総書記の祖父、金日成(キム・イルソン)主席生誕110周年(4月15日)に合わせて「軍事偵察衛星」を打ち上げて国威発揚を図る▽韓国で5月10日に尹錫悦(ユン・ソンヨル)政権が発足する前後には強行して威嚇する▽早ければ今週中――など、さまざまな観測が出ている。

 北朝鮮は過去に「人工衛星」を打ち上げた際、国際海事機関(IMO)と国際民間航空機関(ICAO)に日程と船舶・航空機の危険区域を事前通報したことがある。北朝鮮が「衛星打ち上げ」を主張する場合、同様に日程が明らかにされる可能性もある。

ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長

大阪市出身。毎日新聞入社後、大阪社会部、政治部、中国総局長などを経て、外信部デスクを最後に2020年独立。大阪社会部時代には府警捜査4課担当として暴力団や総会屋を取材。計9年の北京勤務時には北朝鮮関連の独自報道を手掛ける一方、中国政治・社会のトピックを現場で取材した。「音楽」という切り口で北朝鮮の独裁体制に迫った著書「『音楽狂』の国 将軍様とそのミュージシャンたち」は小学館ノンフィクション大賞最終候補作。

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