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中国「原因不明の大揺れ」超高層ビル、なんと「高さ350m→290m」に“縮んで”出直し

西岡省二ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長
大きな揺れが起きた賽格広場=深圳衛視のHPよりキャプチャー

 中国広東省深圳市の超高層ビルで今年5月、原因不明の横揺れが生じた問題で、当局は揺れについて「ビル屋上にある2本の長大なマスト(支柱)に起因する」などの調査結果を発表した。これに基づき、当局は屋上のマストを撤去し、損傷部分を修復するなどの補修計画が示された。屋上マストが撤去されれば、このビルは高さ約350mから約290mとなり、約60m低くなって再スタートすることになる。

◇長大なマストを取り除き

 問題の高層ビルは「賽格(Saige)広場(SEGプラザ)」(高さ355.8m、地上72階・地下4階建て)。今年5月18日正午すぎ、地震が発生していないのに揺れが起き、ビル内にいた約1万5000人が避難する騒ぎとなった。その後も断続的に揺れが続いたため、このビルは原因究明と安全点検のために閉鎖された。

 中国の有力経済紙、毎日経済新聞や香港の有力英字紙サウスチャイナ・モーニング・ポスト(SCMP)などによると、調査チームは約2カ月間の検証を重ね、今月15日に次のような結論を発表した。

「ビルの揺れは、屋上にあるマストの渦励振の共振と、このビルの動特性の変化が組み合わさって生じた」

 渦励振とは、支柱が持つ固有振動数と、支柱に風が当たって発生する空気の渦の周波数が一致する時、共振して揺れ幅が大きくなる現象をいう。

賽格広場の屋上にあるマスト=深圳衛視のHPよりキャプチャー
賽格広場の屋上にあるマスト=深圳衛視のHPよりキャプチャー

 調査チームは振動テストを63回実施。マストが2.12Hzの周波数で振動する時、ビルに「たわみ」と「ねじり振動」が生じることがわかったという。

 地下鉄の運行やエアコンの振動、近隣の工事などの影響は除外されたという。

 加えて、このビルは完成後の約20年間に「蓄積された損傷」があり、特に屋上マストにつながっている階で顕著だという。一方で、こうした損傷がビル全体の安全性に影響を与えるものではなく、修繕後にはビルは安全に使えるとも強調している。

◇テナント企業は果たして戻るのか……

 調査結果に基づき、約1カ月かけて、屋上マストの撤去と損傷部分の修復が進められることになった。マスト部分が取り除かれるため、SCMPによると、ビルの高さは現在の355.8mから292mに改められるそうだ。

 賽格広場は深圳で5番目に高いビルだが、この措置によってトップ10から外れることになるそうだ。

 入居企業の多くは既に別の場所で業務を再開しているようだ。

 賽格広場が位置する深圳市福田区の広報担当者はSCMPの取材に対し、地元当局が引き続き、被災したテナント企業に臨時のスペースを提供すると強調したうえ、「屋上マストが撤去され、必要な修復作業が完了すれば、テナント企業はオフィスや店舗に戻ることができる」と見通した。

 これに対し、地元の不動産業者はSCMPに「テナント企業が深圳で、別のオフィスや店舗を見つけるのはそれほど難しい話ではない。逆にテナントとして残ってもらうためには、ビルのオーナーは賃料の大幅な値下げをしなければならないだろう」と指摘する。

 もっとも、賃料を半額にしたからといって、恐怖を味わった入居者たちが果たして戻ってくるのだろうか。この業者は「私の経験から言えば、そうした人はあまりいないのではないか。信頼回復への道のりは長い」と話している。

ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長

大阪市出身。毎日新聞入社後、大阪社会部、政治部、中国総局長などを経て、外信部デスクを最後に2020年独立。大阪社会部時代には府警捜査4課担当として暴力団や総会屋を取材。計9年の北京勤務時には北朝鮮関連の独自報道を手掛ける一方、中国政治・社会のトピックを現場で取材した。「音楽」という切り口で北朝鮮の独裁体制に迫った著書「『音楽狂』の国 将軍様とそのミュージシャンたち」は小学館ノンフィクション大賞最終候補作。

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