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北朝鮮が米国と「寸止め」の神経戦――韓国には金与正氏が「毒舌」で威嚇

西岡省二ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長
(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

 北朝鮮は2日、米国と韓国に向けた声明を相次いで発表した。米国に対し、バイデン大統領の発言をとらえて「対(北)朝鮮敵視政策」に変化がないと批判。韓国には金与正(キム・ヨジョン)朝鮮労働党副部長名義の声明を出して韓国での脱北者の動きに不快感を示し、いずれも強硬措置をちらつかせた内容となっている。

◇最近の米国による対北朝鮮メッセージ

 北朝鮮の人権問題解決に取り組む市民団体などは毎年4~5月、「北朝鮮自由週間」として、セミナーやデモ行進などをソウルやワシントンで実施している。この行事に合わせて米国務省のプライス報道官が先月28日に発表した声明に、次のような文言が含まれていた。

「新型コロナウイルス対策と称して中朝国境付近で銃殺命令を出すなど、強硬措置を取っていることに、がく然としている」

「(米国は)国連や同盟国と協力して金(正恩)体制に説明責任を果たすよう求め続ける」

 また、同日にはバイデン大統領が就任後初の議会演説に臨み、北朝鮮をイランと同列に扱って「米国と世界の安全保障に深刻な脅威をもたらす核計画(を持つ)」という表現を使って「我々は同盟国と緊密に連携し、外交と、断固とした抑止を通じて、両国の脅威に対処する」と宣言した。

 さらに同30日にはホワイトハウスのサキ報道官が、バイデン政権が新たな対北朝鮮政策の検討を終えたと明らかにした。「引き続き朝鮮半島の完全な非核化を目指す」「(トランプ政権の取った)『グランドバーゲン(一括取引)』や(オバマ政権の取った)『戦略的忍耐』に重点を置くものではない」などと述べ、詳細への言及は避けながらも「調整された現実的アプローチ」と名付けた。

◇「様子見」含みの声明

 米国側の一連の発信に対し、北朝鮮側が一斉に反論した形だ。

 プライス報道官の声明に対しては外務省報道官が「われわれの国家的な(新型コロナ)防疫措置を『人権蹂躙』と罵倒した」「最高の尊厳までけなす重大な政治的挑発をした」と批判したうえ「われわれはやむを得ず、それ相応の措置を取らざるを得なくなった」との立場を表明した。

 北朝鮮で「最高の尊厳」といえば、金正恩(キム・ジョンウン)総書記を指す。

 また、バイデン大統領の議会演説については、クォン・ジョングン外務省米国担当局長が「またもや失言をした」「予想された内容」と揶揄したうえ「対朝鮮敵視政策を旧態依然として追求するという意味がそのまま盛り込まれている」と指摘。「われわれはやむを得ず、それ相応の措置を取らざるを得なくなるであろう」と威嚇した。

 ただ今回は外務省報道官・局長の談話であり、「最高レベル、あるいはそれに近い立場表明」の形式を取っていない。威嚇表現にも含みをもたせており、北朝鮮側には依然、米国側の政策発表までの変化の有無を見極めたいという考えもあるようだ。

◇脱北者団体の動き「許せない挑発行為」

 韓国では、脱北者団体「自由北韓運動連合」が同月25~29日、北朝鮮に向け、金総書記らを非難するビラや小冊子、米ドル紙幣を大型風船で飛ばした。

 ビラ散布をめぐっては、昨年6月に金与正氏が強く反発したことから、文在寅(ムン・ジェイン)政権は3年以下の懲役などに処す禁止法の整備を推進し、昨年12月に国会で可決している。脱北者団体は今回、これに挑戦する形でビラ散布を強行した形だ。

 この問題に関し、金与正氏が本人名義で談話を出した。

 脱北者団体の動きを「許せない挑発行為」と批判したうえ「南朝鮮(韓国)当局は『脱北者』らの無分別な妄動をまたもや放置し、阻止させなかった」としたうえ「それ相応の行動を検討するだろう」と威嚇した。

 今回の金与正氏の談話でも、脱北者を侮蔑するため、品位を欠いた表現が多用されている。

ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長

大阪市出身。毎日新聞入社後、大阪社会部、政治部、中国総局長などを経て、外信部デスクを最後に2020年独立。大阪社会部時代には府警捜査4課担当として暴力団や総会屋を取材。計9年の北京勤務時には北朝鮮関連の独自報道を手掛ける一方、中国政治・社会のトピックを現場で取材した。「音楽」という切り口で北朝鮮の独裁体制に迫った著書「『音楽狂』の国 将軍様とそのミュージシャンたち」は小学館ノンフィクション大賞最終候補作。

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