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「コカ・コーラ」を持ち出して民主主義をたとえる中国外相の論理

西岡省二ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長
オンライン会合で発言する王毅氏=中国外務省のウェブサイトより筆者キャプチャー

 中国の王毅(Wang Yi)国務委員兼外相は23日夜、米シンクタンク「外交問題評議会」とのオンライン会合で、米国で誕生した飲み物であるコカ・コーラを引き合いに出して「民主主義はコカ・コーラではない」と述べた。米国と同じ形式の民主主義ではないという理由だけで中国に「権威主義」のレッテルを貼ることを「非民主主義」とする独自の論理を強調し、中国流を認めるよう米国側に迫った。

◇「もし地球上に一つのモデルなら世界は活力を失う」

 中国外務省のウェブサイトによると、王毅氏は米国に対して中国独自の制度を尊重するよう求める説明のなかで、米国で誕生し、国境や文化を越えて飲まれている「コカ・コーラ」を引き合いに出した。

「最近、米中対立を『民主(主義)』と『権威(主義)』であると誇張し、イデオロギーで線引きして、世界各国を標準化するような論調がある。だが民主主義は、米国が原液を作り、世界中が同じ味を楽しむコカ・コーラではない。もし地球上に一つのモデル、一つの文明しかなければ、世界は活力を失い、元気がなくなる」

 王毅氏がこの主張の中で強調していたのは▽いかなる勢力も他国が選んだ道を否定する資格はない▽各国がそれぞれの国情や国民のニーズに沿った発展の道を歩むべきであり、お互いに尊重し合い、学び合うべきだ――だった。

 また、中国が実践しているという「社会主義民主政治」について「広い意味での民主主義だ」との論理を示したうえ、中国と「権威主義」をひもづける米国を「非民主主義」と批判した。

◇米国に求める他の四つのポイント

 会合で王毅氏は「中国の制度の尊重」以外にも、次の四つの点を米国側に求めた。

(1)米国が中国の発展を客観的に理解し、合理的に扱ってくれることを期待する

 中国は平和的発展の道を堅持し、決して覇権を求めない。世界第2の経済大国から切り離され、14億人の中国人と対峙することは、米国が直面するさまざまな紛争の解決に役立たない。世界を混乱させる。

(2)米中が平和的共存とウィンウィンの協力という新たな道を歩むことを期待する

 協力とは一方的な要求や国の優先事項を強調するものではなく、相互に利益をもたらすものであるべきだ。米中関係に対処する正しい方法は、対話を強化し、協力を深め、違いを狭め、対立を避けることであるはずだ。

(3)米国が真の多国間主義を実践することを期待している

 トランプ前政権は条約を脱退・破壊し、国際的責任を放棄することで、現在の国際秩序を破壊してきた。中国はバイデン政権が多国間主義に回帰したことを歓迎する。真の多国間主義は開かれた包括的なものであり、法の支配を適用し、協議・協力し、時代に即したものでなければならない。

(4)米国は中国の内政に干渉するな

 主権と領土保全は核心的な国益の問題であり、中国はこの大きな原則で妥協することはできない。「台湾カード」を使うことは非常に危険であり、「火遊び」である。新疆ウイグル自治区に関わる問題は、人権や民族、宗教の問題ではなく、反暴力、反分離、反過激主義の問題だ。米国の友人たちは、嘘や噂に耳を傾けるのではなく、本当の新疆を直接知ることを歓迎する。

         ◇

 バイデン米大統領は今年3月、就任後初の記者会見で、最大の外交課題とする米中関係について「民主主義と専制主義の闘いだ」と位置づけ、中国との競争に勝つという点を強調している。これに対し、王毅氏は「対立回避」「協力・協調」を前面に掲げ、米国に軟化を呼びかけている。

 中国は新型コロナウイルス感染拡大を一定程度封じ込め、経済立て直しを急速に進めている。各国が新型コロナ対応に追われているのを横目に、中国は今回の王毅氏のような宣伝戦を展開し、外交攻勢により「中国包囲網」の打破を図っているようだ。

ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長

大阪市出身。毎日新聞入社後、大阪社会部、政治部、中国総局長などを経て、外信部デスクを最後に2020年独立。大阪社会部時代には府警捜査4課担当として暴力団や総会屋を取材。計9年の北京勤務時には北朝鮮関連の独自報道を手掛ける一方、中国政治・社会のトピックを現場で取材した。「音楽」という切り口で北朝鮮の独裁体制に迫った著書「『音楽狂』の国 将軍様とそのミュージシャンたち」は小学館ノンフィクション大賞最終候補作。

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