Yahoo!ニュース

一度聞けば耳にこびりつく。中国で爆発的ヒットの「ミャオミャオミャオミャオミャオ」とは何だ?

西岡省二ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長
替え歌のもとになった「学猫叫」の動画=筆者キャプチャー

「ミャオ」をテンポよく繰り返す歌が、中国のSNS上で爆発的に流行している。もとはネコの鳴き声「ニャー」を歌った曲だが、この中国語の発音「ミャオ」が「苗(ワクチン)」と同じであることから、新型コロナウイルス感染症のワクチン接種を促す替え歌に仕立てられ、軽妙な踊りとともに拡散した。

◇「みんなで一緒にワクチンを」

 この歌を紹介する動画をみると――。

 初めてワクチン接種を受ける若い男性が不安な表情で「予防接種室」に入る。看護師の女性の前でためらっているうちに、看護師に服の袖をまくり上げられ、戸惑っているうちに注射を打たれる。看護師が「頑張ったね」と言わんばかりに親指を立てると、男性も笑顔で親指を立てる。そのシーンに「あなたは祖国の主役」という歌詞が重なる。

 出演者の踊りに合わせて「健康、それはものすごく大切」「私は知っています。外出の時はマスクを」「距離を置いて小まめに手洗い、シャワー」「早めのワクチン接種が一番です」などの新型コロナ対策を盛り込んだ歌詞が続く。

ワクチン接種を促す替え歌の動画=筆者キャプチャー
ワクチン接種を促す替え歌の動画=筆者キャプチャー

 最も印象に残るのが、サビの部分。「我們一起打疫苗,一起苗苗苗苗苗」。日本語に訳せば「みんなで一緒にワクチンを打ちましょう。一緒にミャオミャオミャオミャオミャオ」となる。

 実はこの歌、子供たちに人気の「学猫叫」(猫の鳴き声をマネしよう)の替え歌なのだ。

 もとの歌詞は「みんな、一緒に猫の鳴き声をマネしよう。一緒に『ニャー』『ニャー』『ニャー』『ニャー』『ニャー』」。広東省深圳市塩田区の社会保健センターが「ニャー」の箇所を同じ発音の「ワクチン」に置き換え、スローガンの横断幕にしてネット上で公開した。すると、これが大受けして瞬く間に広まり、替え歌の作成に至ったようだ。

 替え歌の動画は先月下旬に中国版ツイッター「微博(ウェイボー)」に投稿され、大流行した。「一起苗苗苗苗苗」のハッシュタグ(検索目印#)を付けた投稿の閲覧回数は22日現在で1億9000万回にも上る。一度聴けば強く印象に残るため、「頭の中で何度も再生される」「最も洗脳的なスローガン」という書き込みもある。

◇接種への不安も

 中国メディアは「替え歌がワクチン接種を明るく促している」と評価する。「一緒にワクチン」の掛け声に市民が呼応する形で「既に予約」「もう接種した」など、積極的な反応が示されているという。

 ネットメディア「観察者網」によると、この替え歌に刺激され、ネットユーザーが各地のワクチン接種スローガンを競って撮影して投稿している。

「ワクチンを打つのに1000年後まで待つな」

「今日はいい日だ。ドアを開けてワクチン接種を受けよう」

「家族全員のことを考えて、ワクチンを打ちましょう」

 中国では今年1月から多くの都市でワクチン接種が始まり、感染リスクの高い医療・衛生関係者らが対象となった。その後、対象が拡大され、今月21日の衛生当局発表によると、国内接種は累計約2億419万1000回になったという。当局は集団免疫を実現させるため、さらなる接種を促している。

 中国当局は外国製ワクチンを承認せず、4種類の自国製を使っている。ただ中国産は米国や英国のものに比べて治験データの開示が少なく、安全性への懸念が残っている。

 こうした不安から、都市部を中心に接種を拒む人が少なくない。このため、当局は誘導策を練り、北京の一部地域は2回接種した人にスーパー割引券を配布するなどのワクチン報奨キャンペーンを展開している。今回の「替え歌」普及に国営メディアがかかわっているようで、ワクチンへの抵抗感を拭い去りたいという当局の思惑が垣間見える。

ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長

大阪市出身。毎日新聞入社後、大阪社会部、政治部、中国総局長などを経て、外信部デスクを最後に2020年独立。大阪社会部時代には府警捜査4課担当として暴力団や総会屋を取材。計9年の北京勤務時には北朝鮮関連の独自報道を手掛ける一方、中国政治・社会のトピックを現場で取材した。「音楽」という切り口で北朝鮮の独裁体制に迫った著書「『音楽狂』の国 将軍様とそのミュージシャンたち」は小学館ノンフィクション大賞最終候補作。

西岡省二の最近の記事