Yahoo!ニュース

中国の国際ブランド不買運動は「素朴な愛国主義に基づくもの」なのか

西岡省二ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長
北京のショッピングエリアにあるH&Mの店舗=3月28日撮影(写真:ロイター/アフロ)

 中国で外資の大手アパレル企業を標的にした不買運動が拡大している。新疆ウイグル自治区のウイグル族に対する人権侵害を理由に、西側諸国が相次いで制裁に踏み切ったことに中国で反発が起きているためだ。

◇「世界三大高級コットン」の一角

 中国は世界第2位の綿花生産国であるとともに、世界消費の4割を占める世界最大の綿花消費国だ。その中国での最大の綿花生産地が新疆ウイグル自治区で、昨年の収穫量595万tのうち9割近い520万tが新疆産とされる。この「新疆綿」はソフトな触感が定評で「世界三大高級コットン」の一角に位置づけられる。

 ところが、この綿花生産の過程でウイグル族が強制労働をさせられている――と海外メディアが報じ、米政府が新疆綿などの輸入を禁止した。スウェーデンのカジュアル衣料チェーン「ヘネス・アンド・マウリッツ」(H&M)など海外の大手アパレル各社もこの流れに同調し、取引先に対し、非政府組織「ベター・コットン・イニシアチブ(BCI)」認定の綿花だけを使うよう要請した。

 BCI会員には著名ブランドが多く、H&Mのほか、ユニクロやIKEA(イケア)、NIKE(ナイキ)、GAP(ギャップ)、adidas(アディダス)、Burberry(バーバリー)などが名を連ねている。BCIは昨年の段階で、現地調査の困難さを理由に、新疆綿の認定を取りやめている。

◇サイトから商品削除、位置表示ブロック

 この流れに中国側が強く反発した。

 昨年9月にH&Mが発表した「新疆綿を使わない」とする声明を、中国共産党の青年組織である共産主義青年団が最近になって蒸し返し、中国版ツイッター「微博(ウェイボー)」で「新疆綿を拒否していながら、中国で儲けたいのか?」などと発信した。

 すると、中国メディアがこれを大々的に取り上げ、ネット上で「H&Mはデマをもとに判断している」などと批判する声が急拡大し、不買を呼び掛ける事態に発展した。

 これを受け、電子商取引大手の阿里巴巴(アリババ)集団や京東集団(JDドットコム)などの通販サイトでH&Mの商品が削除された。地図アプリ「百度地図」(Baidu Map)や「高徳地図」(Gaode Maps)ではH&Mの位置表示がブロックされ、「H&M」や「HM」で検索しても結果が得られなくなった。H&Mの店舗には臨時休業したところもある。

 中国外務省の華春瑩(Hua Chunying)報道局長は25日の定例記者会見で、ネット上のH&M批判について次のような見解を示し、支持した。

「中国のネットユーザーには、自己の感情を表現する権利がある。特に中国人は自国の名誉と尊厳を重視している。これは決してナショナリズムというものではなく、素朴な愛国主義であることを伝えておきたい。まともな人間であれば、下心のある他国の人間が、やりたい放題に、自国の利益や尊厳を傷つけるようなことを許すわけがない」

 こうした流れに合わせて、中国国営中央テレビ(CCTV)も「新疆の顔に泥を塗ることは許さない」「H&Mの次はNIKEやadidas」と名指しで非難した。微博上ではユニクロに加え、日本の無印良品もターゲットに上げられている。

◇声明を撤回した社も

 中国メディアは、国際的ブランドの中にはH&Mと同じような声明を出しながらも、その後、撤回している社もあると伝えている。ファッションブランド「ZARA」(ザラ)で知られるスペインのアパレルメーカー「インディテックス」が公式サイトで「新疆のいかなる企業ともビジネス上の関係がないことを確認した」との声明を出しながらも、その後、削除したという。

 また、中国メディアによると、中国証券最大手の中信証券は調査レポートで次のように指摘しているという。

「もし、関連する国際ブランドが“悔い改めることを拒否”すれば、中国市場での販売に大きなマイナスの影響が発生する。同時に、業界の構造、産業チェーンの上場企業にも大きな影響を与えるだろう」

 大手アパレル企業側に中国側の立場をわきまえてビジネスを展開するよう求めている形だ。ビジネスに政治を絡めて圧力をかけるのは中国の常套手段といえる。

 一方で、H&Mが最初のターゲットにされた背景に、ユニクロやNIKEは中国でのシェアも大きく、多くの雇用を創出しているため、まずは影響が限定的なH&Mが狙い撃ちにされたという指摘もある。

ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長

大阪市出身。毎日新聞入社後、大阪社会部、政治部、中国総局長などを経て、外信部デスクを最後に2020年独立。大阪社会部時代には府警捜査4課担当として暴力団や総会屋を取材。計9年の北京勤務時には北朝鮮関連の独自報道を手掛ける一方、中国政治・社会のトピックを現場で取材した。「音楽」という切り口で北朝鮮の独裁体制に迫った著書「『音楽狂』の国 将軍様とそのミュージシャンたち」は小学館ノンフィクション大賞最終候補作。

西岡省二の最近の記事