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バイデン政権でも続く米中のけんか腰――米国「脅威の責任を負わせる」中国「そちらこそ過ちを正せ」

西岡省二ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長
(提供:PantherMedia/イメージマート)

 ブリンケン米国務長官と楊潔チ中国共産党政治局員が6日、電話で会談し、バイデン米政権発足以来、最高レベルでの米中対話が実現した。だが、そこで浮き彫りになったのは、米国で政権が交代しても両大国間の緊張が緩和される可能性が極めて低いということだった。

◇「人権と民主主義的価値観を支持し続ける」

 電話会談に関する米国務省の発表文は簡潔に記されていた。

 冒頭に「ブリンケン氏が旧正月に向けた挨拶を述べた」と綴ったあと、「新疆、チベット、香港を含め、人権と民主主義的価値観を支持し続ける」「ミャンマーでの軍事クーデターを非難するため、中国に対し、国際的なコミュニティーに加わるよう強く求めた」と続けられている。

 さらに「台湾海峡を含むインド太平洋地域の安定を脅かす動きや、ルールに基づく国際システムの弱体化を図っていることについて中国の説明責任を求めるため、米国は共通の価値観・利益を擁護する同盟国やパートナーと協力する」と書いて、終わっている。

 対中関係に関しては、バイデン米大統領が4日の国務省での外交演説で、中国を「最も深刻な競争相手」とする見解を示し、「中国の経済的な不正利用に立ち向かい、人権、知的財産権、グローバル・ガバナンスを巡る中国の攻撃に対抗する」と宣言していた。

◇「米国は過ちを正せ」

 これに対し、中国側は国営新華社通信を使って、楊氏の発言を中心に会談内容を伝えている。要点を記せば、次のようになる。

「両国関係は世界の平和と繁栄を促進した。だが今は危機的な状況にある。中国の対米政策は一貫性を保ってきた。米国には、一時期の過ちを正し、中国と協力して相違点を管理するよう促したい」

「両国は互いの核心的利益と政治体制を尊重すべきだ。自国の問題はそれぞれが上手に処理すべきだ。中国は中国の特色のある社会主義の道を揺るぎなく歩む。中華民族の偉大な復興の実現を、だれも止めることはできない」

「台湾問題は最も重要で敏感な核心問題であり、米国は『一つの中国』原則と三つの共同コミュニケを厳守すべきだ。香港、新疆、チベットの問題は中国の内政であり、外部からの干渉は受けない」

 ここで言う『一つの中国』原則とは、米国の歴代政権が踏襲してきた「台湾を中国の一部とみなす」という考え方。三つの共同コミュニケは(1)1972年のニクソン米大統領(当時)が訪中した際に出された上海コミュニケ(2)国交樹立直前の1978年12月に出された「外交関係樹立に関する共同コミュニケ」(3)多方面での関係強化を再確認した1982年の8・17共同コミュニケ――を指す。この部分は米国側の発表文では触れられていない。

 さらに「中国が国際システム弱体化を図っている」という米側の主張に真っ向から反論する形で「世界各国が守るべきは、国連を中心とした国際システムであり、国際法に基づく国際秩序だ。少数の国が言うところの『ルールに基づく』を基礎とする国際秩序ではない」との見解を示した。

 ミャンマー問題に関しては「国際社会は適切な解決のために有利な外部環境を構築すべきだ」と、あっさりと答えている。

◇米中接近の気配はない

 ちなみに楊氏は駐米大使経験者で、中国国内でも米国関係の要職を歴任した中国きっての米国通だ。米国人脈も深く、特に父ブッシュ元大統領とは近い関係だった。元大統領が1970年代、チベットを訪問した際、通訳・ガイドとして同行し、元大統領らの信任を得た。楊潔チの「チ」の漢字表記に「虎」の字が含まれていることから、ブッシュ・ファミリーから「タイガー」と呼ばれて親しまれている。

 今回のブリンケン・楊会談では、これまで両国間に横たわってきた伝統的な対立点がバイデン政権下でも根強く残っていることが鮮明になった。国際社会に新たに発生したミャンマー問題でさえ、両国の立場が接近する気配はみられない。

 一方で、双方は自国の守るべき立場を相手側にはっきり伝え、相違点を管理していくという姿勢を強調してみせた。対立が危険水域に向かわないよう外交的手段を駆使する考えを共有した形だ。

ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長

大阪市出身。毎日新聞入社後、大阪社会部、政治部、中国総局長などを経て、外信部デスクを最後に2020年独立。大阪社会部時代には府警捜査4課担当として暴力団や総会屋を取材。計9年の北京勤務時には北朝鮮関連の独自報道を手掛ける一方、中国政治・社会のトピックを現場で取材した。「音楽」という切り口で北朝鮮の独裁体制に迫った著書「『音楽狂』の国 将軍様とそのミュージシャンたち」は小学館ノンフィクション大賞最終候補作。

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