ミャンマーで起きた国軍のクーデターに対し、欧米各国が非難を表明するなか、隣国・中国は静観を続けている。中国にとってミャンマーは安全保障上の要衝であり、両国は政治・経済・軍事で緊密な関係にある。中国には、欧米各国の非難が高まれば高まるほど、ミャンマーは自国に接近してくるとの読みがある。ミャンマーの後ろ盾となることで、同国に対する影響力を決定的なものにしたいという思惑があるようだ。

◇クーデターは“大規模な内閣改造”

 中国とミャンマーは約2100kmの国境を接する。ミャンマーを通過できれば、中国内陸部からインド洋に抜け出ることができるため、中国にとってミャンマーは地政学的に重要だ。ミャンマーにとっても中国の存在感は圧倒的であり、ミャンマーの発展は中国経済抜きには考えられない。

 今回のクーデターに際しても、日本や欧米が早々に非難の声を上げたのに対し、中国は「他国の内政には干渉しない」という原則的立場から「紛争を激化させ、状況をさらに複雑にすることを避けるべきだ」(汪文斌・中国外務省副報道局長)と表明。クーデターに関する報道で国営新華社通信は「大規模な内閣改造」という用語を前面に押し出している。

 中国は、ミャンマーの軍事政権時代も、欧米諸国が制裁を科すなかで経済支援を続けてきた。2010年の選挙でミャンマーが準民主主義体制に移行し、当時のテインセイン政権が中国依存からの脱却を図ったことで、一時は関係がぎくしゃくしたこともあった。

 12年に発足した習近平指導部は、ミャンマーの政府、国軍のバランスを取りながら外交関係を強化。16年3月にアウンサンスーチー氏率いる国民民主連盟(NLD)に政権が移ったあと、スーチー氏の訪中(同年8月)を通じて関係修復を図った。ミャンマーでイスラム系少数民族ロヒンギャに対する迫害問題が持ち上がった際も、中国側は「内政不干渉」の立場を取っている。

◇中国・ミャンマー経済回廊

 両国間では重要な経済プロジェクトが続いている。

 スーチー国家顧問兼外相が17年12月1~3日に中国を訪問した際、習近平国家主席との間で「中国・ミャンマー経済回廊」に合意した。

 これは、中国の昆明(雲南省)と、ミャンマーのチャオピュー(ラカイン州)やヤンゴンを鉄道や高速道路で結ぶ構想だ。

昆明、チャオピュー、ヤンゴンの位置関係=Google マップをもとに筆者作成
昆明、チャオピュー、ヤンゴンの位置関係=Google マップをもとに筆者作成

 中国側の高速道路は既に開通しているが、ミャンマー側は山岳地帯の難所が多いため、時間がかかっている。中国と同水準のインフラ実現には巨費が必要で、中国側からの借款で賄われるとみられる。

 中国が重視するのは、ベンガル湾に面するこのチャオピューだ。

 中国は中東などの原油をマラッカ海峡経由で輸入せざるを得なかった。だが、このチャオピューを経由できれば、仮にマラッカ海峡が海上封鎖されてもエネルギー供給は滞らないからだ。

 加えて、チャオピューは▽中東産原油▽ラカイン州沖合のシュエ・ガス田から中国に向けた天然ガス――の両パイプラインの起点でもある。中国国有の複合企業、中国中信集団(CITIC)を中心とする企業連合が15年12月、チャオピューでの大規模港湾と工業団地の開発権を取得している。

 この経済回廊はもちろん、習主席肝いりの広域経済圏構想「一帯一路」の一部と位置づけられている。習主席は20年1月17~18日にミャンマーを訪問した際、スーチー氏との会談で、経済回廊を実効段階に移すことで一致。33に上る覚書を締結した。

◇国軍最高司令官も中国と緊密な関係

 今回のクーデターで国家の全権を掌握したミンアウンフライン国軍最高司令官は、これまで頻繁に中国高官と接触を続け、19年と20年には習主席とも会談している。今年1月にはミャンマーを訪問した王毅・中国国務委員兼外相とも会談しており、国軍側が中国にクーデターを示唆していたのではないかとの観測も広がっている。

 日本や欧米などの民主主義国は、今回のクーデターがミャンマーの民主化を後退させるとの懸念を抱く。だがミャンマーに強い制裁を科して孤立させれば、北朝鮮の例と同様、中国との関係強化に走るため、結果的に中国の影響力を増強させてしまうというジレンマもある。