「脱原発」政策を推進しているはずの韓国・文在寅政権が、事務レベルで「北朝鮮への原発建設支援案」を検討し、これが発覚しそうになると証拠隠滅を図るという不可解な動きを見せている。案には「非武装地帯(DMZ)に原発建設」「脱原発政策で中断した国内原発の建設を再開して北朝鮮に送電」なども含まれ、不信の眼差しが向けられている。

◇月城原発に関する疑惑が発端

 ことの発端は、韓国慶尚北道慶州にある月城原発1号機(加圧水型重水炉、出力67万9000kw)の閉鎖をめぐる騒動にさかのぼる。

 1983年に商業運転を始めた同機は2012年、設計寿命30年を終えて停止した。だが発電会社・韓国水力原子力(韓水原)が稼働延長を申請すると、韓国原子力安全委員会は地域住民の反対を振り切って15年2月に再稼働を認め、運転期間が「2022年まで」に延長された。

 だが17年5月に「脱原発」の文在寅氏が大統領に就任すると「早期閉鎖」に方針が転換され、韓水原も一転、18年6月に「採算が合わない」との理由を挙げて前倒しの閉鎖を決めた。

 ところが――。

 その後、韓水原が「採算性を過小評価した」との疑惑が浮上。監査の結果、20年10月20日にこの「過小評価」が認定された。さらに監査の過程で、所管官庁である産業通商資源省の職員が証拠のファイルを削除するなどの妨害行為があったことも判明した。

 監査院からの要請を受け、検察当局が捜査に着手。職員が監査前日の深夜から未明にかけ、日曜日にもかかわらず職場に入り、業務用コンピュータにあったファイル530件を消去した、との事実を突き止めた。職員3人は監査妨害罪などで起訴された。

 この削除された中に北朝鮮関連ファイル17件が含まれていた、ということだった。

 韓国SBSテレビが先月28日、これを報じたことで、国内に「文在寅政権がとんでもない政策を秘密裏に進めている」「表面化しそうになると証拠隠滅を図った」「脱原発なのに北朝鮮には原発支援とは矛盾もはなはだしい」などの批判が渦巻いた。事態を収拾するため、同省は2月1日、ファイルの一部公開に踏み切った。

◇三つの北朝鮮への原発建設推進案

 公開されたのは「北韓(北朝鮮)地域原発建設推進案」と名付けられた6ページの文書。そこには次の三つの案とともに、それぞれの長・短所が併記されている。

 (1) かつて朝鮮半島エネルギー開発機構(KEDO)が軽水炉原発建設を推進した北朝鮮咸鏡南道琴湖地区に原発2基と使用済み核燃料貯蔵庫を建設し、放射性廃棄物処理場も段階的に推進する

 長所:北朝鮮が希望する場所で迅速に進められる。地質調査などが相当に進み、北朝鮮内の送電網を活用できる

 短所:使用済み核燃料の管理が難しく、米国など利害関係者と協議が必要

 (2) DMZに輸出型・新規炉型を建設し、使用済み核燃料を処分

 長所:核物質の管理が容易であり、輸出モデルの実証も可能。核の平和利用と原発輸出支援という象徴性を確保できる

 短所:地質調査の結果によっては建設が不可能な場合もある。北朝鮮への新規送電網の構築も必要となる

 (3) 脱原発政策に基づいて白紙化された新韓蔚3・4号機(韓国慶尚北道蔚珍郡)建設計画を再開し、北朝鮮に送電する

 長所:最も迅速に推進できる。地元ニーズに対応でき、核物質の管理も可能

 短所:エネルギー転換政策の変更に国民的合意が必要となる。北朝鮮用の原発を韓国に建設して核燃料も貯蔵することへの反発が出る可能性がある

 このうち(1)は後述する「米朝枠組み合意」の延長線上の話、(3)はかつて6カ国協議の場で韓国側が提示していた「北朝鮮の非核化に対する見返り措置」に近い内容とみられる。

 同省は公開した資料について「18年4月27日の南北首脳会談以降、南北経済協力が活発化する場合に備えたアイデアとして検討した」「北朝鮮への原発建設支援を極秘裏に進めたわけではない」と釈明した。だが、保守系有力紙、朝鮮日報は今月1日付社説で「疑問の核心は、なぜ同省職員が組織的に文書を削除したのか。『検討アイデア』ならば、監査直前の日曜日の夜に消す必要があるのか」と不信感をあらわにしている。

◇軽水炉型原発は北朝鮮の30年来の要求

 18年4月27日の南北首脳会談当時、文在寅大統領が北朝鮮の金正恩総書記と橋の上で歓談した際、発電所事業を含む南北共同「新経済構想」の資料を保存したUSBメモリーを金総書記に手渡したと報じられている。また歓談中の両首脳の口の動きを韓国の専門家が分析した結果、文大統領の口から「発電所の問題」という言葉が発せられたとも伝えられている。

 問題のファイル作成時期がこの直後だった点を考慮すると、文大統領の指示を受けて、同省が検討に入ったのではないか、という推測が成り立つ。実際、金総書記もその翌19年の新年の辞で「潮・水力、風力、原子力の発電能力を、将来を見通して造成すべきだ」と打ち出しており、この流れに合っている。

 ただ、文大統領が原発建設支援の構想を持っていたとしても、現時点では実現の可能性はない。そもそも北朝鮮は国際社会から厳しい制裁を受けており、核関連物質の持ち込みは認められていない。

 北朝鮮は1994年、米国との「枠組み合意」に至った際、寧辺の黒鉛減速炉を凍結・解体する代わりに100万kw級軽水炉型原発2基の提供を受ける段取りが進んでいた。合意を実行するために日米韓などによって設立されたのがKEDOだった。だが北朝鮮が秘密裏に核兵器開発を進めていたことが発覚し、KEDOは2005年11月、原発建設事業の廃止を決めた。

 2000年代に開かれていた6カ国協議でも、北朝鮮は核施設の稼働停止の見返りに軽水炉型原発の提供を繰り返し要請したことはあるが、実現には至っていない。