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中国に忖度?北朝鮮がまさかの「オーストラリアの人権侵害」批判――「皮肉」「パロディーを超えている」

西岡省二ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長
国連人権理事会で発言する北朝鮮の韓大成大使=国連ウェブテレビより筆者キャプチャー

 国連人権理事会のビデオ会議で、北朝鮮が「オーストラリアでの人権侵害を懸念している」と指摘したことが話題になっている。人権問題に絡んで国際社会から批判を受け続ける北朝鮮から逆に「人権状況の改善」を求められる形で、「パロディーを超えている」などの声も上がっている。オーストラリアは最近、北朝鮮の最大支援国である中国との対立を深めており、北朝鮮には中国をバックアップする狙いがあると考えられる。

◇まれな他国の人権状況への干渉

 国連の公式動画によると、北朝鮮の韓大成・在ジュネーブ国際機関代表部大使は今月20日、ビデオ会議で次のように発言した。

「オーストラリアでの人権侵害について引き続き懸念を抱いている。われわれはオーストラリアが国際人権法に従うよう推奨する」

 そのうえで(1)深く根ざした人種差別と、公共エリアでの民族・人種・文化・宗教的な背景に基づく外国人嫌悪をやめよ(2)拘禁場所での残虐で非人間的、侮蔑的な扱いを中断せよ(3)障害者の参加権を含め、人間としての権利を保障せよ――と勧告した。

 人権問題では常に批判を受ける立場の北朝鮮が、今回は西側諸国の人権問題を指摘した形となった。

 北朝鮮は国際社会から自国の人権問題を指摘されるのを「内政干渉」と非難してきた経緯があり、国連で他国の人権問題に言及するのは珍しい。韓国メディアの報道によると、今回はオーストラリアと同様に、ネパールやレバノン、オーストリアも人権状況の検討対象となったが、北朝鮮側はオーストラリア以外には発言しなかったという。

◇中国もオーストラリア批判

 北朝鮮がオーストラリアをターゲットにしたのは、中国―オーストラリア間の対立を踏まえ、中国を後方支援するというジェスチャーとも受け止められている。加えて、人種差別問題など普遍的価値に関心があることをアピールし、“正常な国家”である点を強調する狙いがあったとも指摘できる。

 人権理事会では、北朝鮮に先立ち、中国代表団もオーストラリアに言及し、北朝鮮と同様に▽人種差別と闘い、ヘイトスピーチと暴力を嫌い、少数民族の権利を保護するための行動を取れ▽移民の権利を保護▽他国を非難するために政治目的で虚偽の情報を使用するのをやめよ――などと指摘していた。中国外務省の華春瑩報道局長も21日の定例記者会見で、中国メディアの質問を受ける形で同じ内容を発信するという徹底ぶりをみせた。

 人権主義を基本とするオーストラリアだが、近年は難民政策などに関連して国際社会から批判を受けることがある。国連の場で北朝鮮からも人権状況改善を求められ、プライドを傷つけられた形となった。

 ただ、オーストラリアで北朝鮮側の指摘を正面から受け止める向きはないようだ。自由党下院議員のデーブ・シャルマ氏(元駐イスラエル大使)はツイッターで「これは皮肉を試みたに違いない?」とからかい、オーストラリアメディアも英ジャーナリストのアンドリュー・ニール氏の「パロディーを超えている」との発言を伝えるにとどめている。

ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長

大阪市出身。毎日新聞入社後、大阪社会部、政治部、中国総局長などを経て、外信部デスクを最後に2020年独立。大阪社会部時代には府警捜査4課担当として暴力団や総会屋を取材。計9年の北京勤務時には北朝鮮関連の独自報道を手掛ける一方、中国政治・社会のトピックを現場で取材した。「音楽」という切り口で北朝鮮の独裁体制に迫った著書「『音楽狂』の国 将軍様とそのミュージシャンたち」は小学館ノンフィクション大賞最終候補作。

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