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台湾支持者にレンズを向けて威嚇――中台当局者“南の島での暴力沙汰”の発端は写真撮影という嫌がらせか

西岡省二ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長
フィジーのホテルで開かれた双十節行事=台北貿易事務所HPより筆者キャプチャー

 南太平洋の島国フィジーを舞台に今月上旬、中国と台湾の当局者による暴力沙汰が起きた。中国側による情報収集活動が発端とみられるが、米中対立・米台接近の情勢も重なって、中台双方が互いを激しくののしり合う事態になっている。

◇フィジー当局「これ以上、捜査しない」

 フィジーの首都スバにある「グランド・パシフィックホテル」で今月8日、台湾の出先機関・台北貿易事務所(大使館に相当)が100人以上のゲストを招いて双十節(建国記念日)の祝賀行事を開いた。

 台湾側の説明によると、在フィジー中国大使館の職員2人が会場に押し入ろうとしたため、台湾側当局者が制止したことからもみ合いになり、台湾側の1人が頭部を負傷して病院に運び込まれた。中国側の2人はゲストの写真を撮影するなど行事に関する情報収集をしようとしていたとされ、フィジーの警察当局によって現場から強制的に連れ去られた。台湾側は「中国側職員による、法の支配と市民社会の行動規範に反する行為」と非難している。

 一方、中国側は、在フィジー大使館が19日、台湾側の説明について「事実とは異なる」とする声明を発表した。中国大使館職員は会場外の公共の場所で公務にあたっていた▽職員の1人が台湾側当局者の挑発的な行動によって負傷した――としたうえで「そもそも祝賀行事自体が(中国大陸と台湾は一つの国に属するとする)『一つの中国』原則に反する」と主張している。

 外務省の趙立堅副報道局長も同じ日の定例記者会見で「そもそもフィジーにいわゆる台湾の『外交官』は存在しない」との原則論を掲げたうえ「台湾側は公然と、偽りの旗を掲げ、ケーキの上にもつけた」と批判。「フィジー側は、中国の懸念を重視し、『一つの中国』原則を順守して適切に対応していくと述べた」と強調した。

 双方とも衝突によって自らの職員が負傷したとして、フィジー警察当局に捜査を要請したという。ただ、警察当局は20日、「これ以上、捜査することはなく、これ以上のコメントもない」と火消しに走っている。

◇米中対立・米台接近が背景

 中国にとってフィジーは、1975年11月の段階で国交を結んでいる長年の友好国だ。一方の台湾は、外交関係はないものの、駐在員事務所を通じて非公式ながらも関係を維持し、教育や農業分野での投資を通して知名度アップを図っている。

 フィジーを含む太平洋地域は、米国にとって戦略的に重要であるとともに、かつては中国の力が及びにくいという特徴があった。ただ近年は中国が影響力を広げ、ソロモン諸島とキリバスは昨年、相次いで中国を承認して台湾と断交した。中国の外交攻勢は台湾に対する圧力となるだけでなく、この地域でも米国に遠慮はしない、というシグナルとみなすこともできる。

 台湾に対する中国の強硬姿勢は日増しに強まっている。

 米紙ニューヨーク・タイムズによると、今回のように「台湾関連の祝賀行事などに参加した人の写真を撮る」というのは、中国当局が最近使い始めた戦術という。台湾支援の人々にレンズを向けて、監視、敵対視する姿勢をあからさまに示して威嚇しているとみられる。対外関係に詳しい台湾の王定宇・立法委員=民進党=は同紙に、今回の出来事を「中国の行き過ぎた独断的手法」と指摘したうえ「中国の戦狼外交は、恣意的に噛む狂犬だ」とたとえながら批判している。

 中国は、台湾の旗や双十節などの祝賀行事すら排除する立場を強めている。米シートンホール大学のルイス教授(法律学)は同紙に「フィジーでの祝賀行事さえ、集会の自由のない中国政府によって(台湾の国際活動の)空間とみなされる。悲しいことだ」と話している。

 中国側でも今回の出来事に対する関心は高く、中国版ツイッター「微博」(ウェイボー)でも大きな話題になった。共産党機関紙・人民日報系「環球時報」の胡錫進編集長も微博上で「こんなことが起こるのだろうか。台湾側はおそらく、詳細を隠しているのだろう」と疑問を呈している。「中国本土の外交官はみんな上品であり、軽率に台湾人に『脳しんとう』を起こさせるということはあり得ない」と書き込み、中国側の主張を正当化している。

ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長

大阪市出身。毎日新聞入社後、大阪社会部、政治部、中国総局長などを経て、外信部デスクを最後に2020年独立。大阪社会部時代には府警捜査4課担当として暴力団や総会屋を取材。計9年の北京勤務時には北朝鮮関連の独自報道を手掛ける一方、中国政治・社会のトピックを現場で取材した。「音楽」という切り口で北朝鮮の独裁体制に迫った著書「『音楽狂』の国 将軍様とそのミュージシャンたち」は小学館ノンフィクション大賞最終候補作。

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