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香港「親日」大富豪が新型コロナ対策 自販機で医療用フェイスマスク200万枚を無料配布

西岡省二ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長
マスクを無料で配布するための自動販売機のような装置(新世界発展のサイトより)

 香港の企業家で大富豪のエイドリアン・チェン(鄭志剛)氏(40)はこのほど、新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、マスクを自動配布する機械を香港の主要箇所に設置し、低所得者らに無料で提供すると発表した。チェン氏は「マスクが高価で品薄になり、多くの人が苦しんでいる。簡便に、適切な支援が届けば、マスク不足の懸念の中で暮らさなくて済む」と語っている。

◇香港18地区に35台

 香港当局は感染拡大防止策として、市民に外出時のマスク着用を推奨している。

 チェン氏が副主席を務める香港不動産大手「新世界発展」のウェブサイトによると、同社は、宗教関連団体など八つの非政府組織(NGO)と提携し、4月末までに香港の18地区に計35台の機械を設置する。7月上旬までの間、医療用フェイスマスクを少なくとも200万枚配布する計画という。

 NGOは、事前に登録された低所得世帯や社会的弱者に、本人確認のための情報が盛り込まれたカードを提供する。利用者はカードを機械にかざすだけでマスクを受け取ることができる仕組みという。

 これにより4万人以上が恩恵を受けることができ、マスク配布のためのNGOの労力も削減できるとしている。

 同社は1000万香港ドル(約1億4000万円)を投資して、香港の自社工場で4月中旬、医療用フェイスマスクの生産を開始。現時点で、最初の2つの生産ラインが試作段階に入っているとみられる。5月にも2つのラインが追加され、4つのラインがフル稼働すれば、毎月700万枚以上のマスクを生産できると同社は予測している。

◇芸術にこだわる親日家

 エイドリアン・チェン氏は「新世界発展」創業者チェン・ユートゥン氏の孫。ユートゥン氏は巨大財閥グループを一代で築いた香港の代表的経営者で、香港や中国本土で不動産、インフラ、百貨店など事業多角化を進め、巨額の富を築いた。

エイドリアン・チェン氏(新世界発展のサイトより)
エイドリアン・チェン氏(新世界発展のサイトより)

 チェン氏は12歳から米国に留学してハーバード大学を卒業。長年にわたって日本語も学び、京都に1年間滞在したこともある親日家とされる。

 日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア経済研究所の資料によると、チェン氏の芸術へのこだわりは趣味の域を越え、事業への応用に発展している。英国王立芸術学院(ロンドン)、テート美術館(同)、メトロポリタン美術館(ニューヨーク)、中国中央美術学院(北京)などの理事・委員を務める一方、2010年には中国人芸術家や専門職員を育てる非営利団体「K11アート財団」を創設、香港を軸とした中華圏の芸術振興に積極的な役割を果たしているという。香港や上海に展開する大型ショッピングモール兼芸術エリア「K11」は、芸術と文化を融合した「ショッピング・ミュージアム」で知られる。

◇経済ガタ落ち

 だが、コロナ感染による経済的ダメージはチェン氏のビジネスにも大きな影響を与えるのは間違いない。

 香港では4月15日現在で感染者数1017人、死者4人。パブやバーなど主に酒類を提供する飲食店での感染が広がっており、政府は4月3~23日、こうした飲食店の営業を禁止にする強制的な措置に踏み切っている。違反した場合には刑事罰に問われ、最高で5万香港ドル(約70万円)の罰金と6カ月の禁錮刑が科される。

 約1200店が影響を受けることから、業界団体は4月2日、従業員給与の8割と閉鎖中の賃料補償を政府に求める声明を出し、要求が通らない場合には抗議活動も辞さない構えを見せている。

 香港では、そもそも昨年の大規模デモで観光客が激減している。加えて、今回の新型コロナウイルスの感染拡大によって入境規制が厳格になり、金融・観光・不動産に支えられてきた国際都市の経済は危機に瀕している。

ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長

大阪市出身。毎日新聞入社後、大阪社会部、政治部、中国総局長などを経て、外信部デスクを最後に2020年独立。大阪社会部時代には府警捜査4課担当として暴力団や総会屋を取材。計9年の北京勤務時には北朝鮮関連の独自報道を手掛ける一方、中国政治・社会のトピックを現場で取材した。「音楽」という切り口で北朝鮮の独裁体制に迫った著書「『音楽狂』の国 将軍様とそのミュージシャンたち」は小学館ノンフィクション大賞最終候補作。

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