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外交官に「戦う精神」/政治広告「爆買い」――新型コロナ対策 恐るべき中国的SNS外交

西岡省二ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長
定例記者会見に臨む趙立堅・中国外務省副報道局長(中国外務省のHPより)

 中国がソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)を使った対外宣伝活動を活発化させている。外務省の趙立堅副報道局長が新型コロナウイルスにまつわる“米軍陰謀論”を展開して、世界的大流行(パンデミック)の責任回避を図ったのもその一環だ。中国は官製メディアを使った従来型のプロパガンダに加えてSNSも動員し、感染拡大防止に向けた国際貢献を広く伝えることで、中国責任論を「中国こそ世界で唯一の救世主」という物語に上書きしようとしている。

◇“米軍陰謀論”を軌道修正

 中国外務省によると、趙氏は1972年11月生まれ。外務省に入ったあと、パキスタンや米国で勤務し、2019年に外務省報道局副局長に就任した。今年2月24日に初めて定例記者会見に登場し、この時、上司にあたる華春瑩報道局長は「豊富な経験を持ち、新機軸を打ち出す、ベテラン外交官」と紹介している。

 その趙氏が3月12日、ツイッターで、根拠を示さないまま「米軍が疫病を武漢に持ち込んだのだろう」と書き、米国を中心に国際的な反発が広がった。(参考資料:新型コロナウイルス「米軍持ち込み」説、中国が打ち消しを急ぐ理由)

 この発言について、趙氏は4月7日の定例記者会見で「(米国が中国に対して)汚名を着せようとすることに対する、多くの中国人の義憤を反映したものだ」と釈明。ウイルスの発生源については「科学的な問題であり、科学者の専門的な意見を聞く必要がある」として軌道修正した。

 趙氏が記者会見に姿を現したのは3月6日以来。1カ月以上も姿を現さなかったことから、インターネット上では「なぜ姿を現さなくなったのか?」として更迭説までささやかれていた。

 趙氏はツイッターを米国勤務時の2010年5月に始め、フォロワーは今月15日現在、約58万人に達する。

◇国内で使ってはならないツイッターを外交官が多用

 中国ではネットは厳しく規制されており、通常、ツイッターにはアクセスできない。だが外交官はその利用が認められ、自国の政策を英語で発信する例が増えている。華春瑩氏も昨年10月にツイッターを始めている。

 その中でも趙氏は、最も早い時期にツイッターを採用したとされ、特にパキスタンに勤務していた時にツイッターでの言動が目立つようになった。「激しい言葉を使って、自国を守ったり、他国を攻撃したりしていた」(米政治専門紙ポリティコ)という。

 具体例が昨年7月。ポリティコによると、趙氏が「ワシントンの特定地域を白人は避ける。黒人とラテン系の地域だからだ」とツイートした。「『ブラック・インとホワイト・アウト』という言い方がある。つまり黒人家庭が入居する限り、白人は出ていく。住宅価格が急落する」と書き、米国内の黒人差別を指摘したのだ。

 これに対し、オバマ前米大統領の国家安全保障担当補佐官だったスーザン・ライス元国連大使が「恥知らずな人種差別主義者」と激しく非難するなど波紋が広がった。趙氏は「自分が聞きたくない真実を話す人を『人種差別主義者』と決め付けることこそが恥知らずだ」と反論しつつも、問題のツイートについてはその後削除した。

 ただ、この趙氏の言動が中国指導部で問題視されたふしはない。むしろ力をつけ、新たな役割を得たようにみえる。

 このやり方は、中国の王毅外相が外交官に「戦う精神」を身に着けるよう繰り返し要請したことが始まりのようだ。ポリティコは、アナリストの見解として「趙氏の件は、中国がテストケースに使っているようだ」と記している。かつての標準的な外交にとらわれず、より攻撃的になってもよい、という許可を与えられているようにも思える。

◇フェイスブックの政治広告を「爆買い」

 加えて中国は最近、新型コロナウイルスを巡る国際世論を誘導するため、SNSへの関わりを急速に進めている。

 米紙ウォールストリート・ ジャーナルによると、中国はフェイスブックの広告枠を購入し、国営メディアの英語部門の宣伝をしたり、新型コロナウイルスに関連した米国の取り組みを非難する投稿を繰り返したりしているという。

 スタンフォード大のサイバー政策研究機関によると、中国は2018年末以降、フェイスブック上で200以上の政治広告枠を購入。うち3分の1以上がこの2カ月以内の購入という。特に、最近の広告のほとんどが「中国が拡散防止の対策を怠った、という見方を変えることに特化している」そうだ。

ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長

大阪市出身。毎日新聞入社後、大阪社会部、政治部、中国総局長などを経て、外信部デスクを最後に2020年独立。大阪社会部時代には府警捜査4課担当として暴力団や総会屋を取材。計9年の北京勤務時には北朝鮮関連の独自報道を手掛ける一方、中国政治・社会のトピックを現場で取材した。「音楽」という切り口で北朝鮮の独裁体制に迫った著書「『音楽狂』の国 将軍様とそのミュージシャンたち」は小学館ノンフィクション大賞最終候補作。

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