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「観光地タダ」――新型コロナの“ストレス解消”とばかり住民殺到

西岡省二ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長
黄山風景区に殺到した観光客(光明日報のウェブサイトより)

 新型コロナウイルスによる感染が減少傾向にある中国で、大打撃を受けた観光産業が無料開放などを切り札に巻き返しを図っている。市民の側も、長期の移動制限によるストレスの解消とばかりに、先週末には人気観光地や主要都市に大挙して詰めかけた。ただ新型コロナウイルスの世界的大流行は依然、収束のめどはたっておらず、衛生当局には市民の側の自覚を促す発言も相次いでいる。

◇無料開放に殺到

 中国安徽省の南部には世界遺産の景勝地、黄山風景区がある。中国の至宝と称され、数多くの漢詩や水墨山水画に取り上げられた名山だ。だが新型コロナウイルスの感染拡大により、最近はこの名山を訪れる人も激減していた。

 黄山市は観光業を立て直すため、今月1~14日に限り、省内住民を対象に、身分証明書を提示すれば黄山風景区を含む域内31カ所の観光スポットを無料で観光できる優遇措置を打ち出した。

 ところが、中国の伝統的な祭日「清明節」に合わせた連休(今年は4月4~6日)の初日となった4日、地元住民が早朝から行列をつくり、同日午前10時半には定員の2万人を超える事態となった。入場の際に健康QRコードの点検や体温測定などを実施したこともあって、入り口を通過するのに時間もかかった。

 結局、黄山風景区は閉鎖され、地元当局は来客に他の観光地に行くよう勧めた。翌日にも地元住民が殺到し、人数制限を超えたため、2日連続で封鎖されることになった。

 4日の段階で中国のインターネット上に、黄山風景区の様子を映した動画が配信され、物議を醸した。遊歩道を、おびただしい数のマスク姿の観光客が埋め尽くすという異様な光景になっていた。

 中国各地の観光地でも人出が急増した。浙江省杭州市西湖で無料開放された16の有料景勝地には延べ15万4600人が訪れたという。福建省アモイ市は今年6月30日までの期間、市民に国有景勝地を無料開放し、省内の観光客が市内のホテルなどに宿泊する場合には補助金を出すとしている。

◇引き続き警戒必要

 中国旅游研究院が7日に発表した「2020年清明節3連休観光市場研究報告」によると、中国全土で旅行に出かけたのは延べ4325万4000人で前年同期比61.4%減、観光収入は82億6000万元(約1274億円)で同80.7%減だった。

 3連休中、新疆ウイグル自治区、青海省、吉林省、雲南省、チベット自治区、安徽省、広東省、四川省などの観光が急速に増え、旅行者数は昨年の5割以上に回復しているとした。各観光地の客は、省内からの客が中心という。

 旅行サイト・携程によると、ホテル予約数は前月比で約6割増。上海周辺の一部の人気ホテルは満室となり、黄山周辺の一部ホテルの宿泊料金は3倍に高騰した。

 各地では、新型コロナウイルス感染拡大防止策を厳格に実施し、入場券はオンラインで実名予約する▽現地でマスク着用や体温測定・健康QRコードのスキャンを実施する▽無接触式による入場▽入場者数の制限――などの対策が施された。

 新規の感染者が減る中で、中国政府は製造業やサービス業の再開に向け、段階的に規制を緩和している。ただ専門家は、まだ流行が終息したわけではないとして、引き続き慎重な行動を呼びかけている。

 中国政府は8日、無症状感染者の管理を強化するための規定をつくり、医療機関が無症状感染者を発見した場合、2時間以内に上部機関に報告しなければならない、とした。中国政府が無症状感染者に関する管理規定を作ったのは今回が初めて。

 中国の感染症研究の第一人者、鍾南山氏は黄山での密集状態を念頭に「3カ月の努力の結果、中国はある程度(現状を)コントロールし、低リスクの段階に入った。リスクが低いからといってリスクがないという意味ではない。引き続き互いの距離を保持し、集会や会食には参加せず、多くの人が集まる場所には行かないように」と呼びかけている。

ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長

大阪市出身。毎日新聞入社後、大阪社会部、政治部、中国総局長などを経て、外信部デスクを最後に2020年独立。大阪社会部時代には府警捜査4課担当として暴力団や総会屋を取材。計9年の北京勤務時には北朝鮮関連の独自報道を手掛ける一方、中国政治・社会のトピックを現場で取材した。「音楽」という切り口で北朝鮮の独裁体制に迫った著書「『音楽狂』の国 将軍様とそのミュージシャンたち」は小学館ノンフィクション大賞最終候補作。

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