日本で観光客排斥がはじまる日

「観光客帰れ」の落書き(スペイン。2017年8月4日)(写真:ロイター/アフロ)

■ 世界的な観光客増と摩擦

 世界観光機関が発表した2016年の「世界観光指標」によると、2016年の海外旅行者数は、前年比3.9%増の12億3500万人で7年連続のプラス成長である。人数ベースでは毎年5000万人程度の増加ということになっている。世界中のほとんどの国や地域は、成長産業としての観光客獲得に乗り出している。

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 そんな中、ここにきて「観光客排斥」に関する報道を見聞きするようになった。ヨーロッパが中心だが、南米などでも同様な状況が起こっている。

 

 中でも人口はわずか160万人の街にその20倍を超える3200万人が観光で押し掛けているスペインのバルセロナにおける状況は深刻と言える。ことの重大さは2015年6月の選挙で、バルセロナ初の女性左派市長でもある「反観光」を掲げるアダ・クラウの誕生にも現れている。新しい市長の下で観光対策を講じていても、地域住民の気持ちを落ち着かせる所まで追い付かず、暴力でもって観光客排斥を訴える事件が起きる始末である。

 「観光客の非日常」と「地域住人の日常」の両立が大きな課題になってきている。これからも世界のあちこちで、観光客と地域住民の間の摩擦が露呈されるに違いない。そして住民に対する観光客の割合が増えるに比例して住民の不満も増えるに違いない。

 

■ インバウンド収益と国民負担

 日本も観光客誘致に力を入れていることは周知の事実である。政府は、2020年までに日本の国際観光客到着数を4000万人とする目標を発表している。現状、観光客数、観光収入などを見ても世界上位10か国位内に入っていないが、国が掲げる目標が達成できれば名実ともに観光立国になり得る可能性は十分に秘めている。

 日本で「出国税」導入の検討を本格的に始めている。さらなる観光誘致に力を注ぐための財源確保に当てると説明されている。インバウンドに伴う税の導入や値上げは、国家レベルに限らず地方でも見られる。

 例えば京都では、2018年10月から宿泊税導入することが決まった。1泊に対する税額は最大で1000円と国内最高額となる。 税の導入に限らず市バスの1日乗車券なども値上がりする。

 国や地方自治体などが算出する観光客による消費金額などの値が右肩上がりに確実に増えている。日本の観光業は勢いに乗っており、これから日本のあちこちで1000円程度の金額を徴収しだした所で、海外からの観光客が減るとは考えにくい。

 しかしこの流れで目を瞑れないのは、日本人や地域住民にもこれが税金や増額が覆いかぶさるということである。出国税に関して現在議論の段階だが、このままだと日本人が大いに対象になり得る。

■ インバウンドと恩恵

 今回のインバウンドの流れで、気づく必要があるのは、日本が進めているインバウンドによる恩恵を受けている実感のある自国民がどれほどいるのかについてである。基本的に分かりやすく喜んでいるのは、直接海外からの観光客を相手に商売している者だけではないか。そしてその割合は、ひょっとすると日本の総人口の1%にも満たないのではないか。もちろん国や地方行政が発表するインバウンド関連収益に関する数字はここ数年は確実に上がっているが、基本的に一般国民や市民がインバウンドの恩恵を実感していない。

 国民や市民に対するインバウンドに関する意識調査は見当たらない。しかしインバウンドによる混雑や値上がりなどなどの国民のストレスは明らかに増幅している傾向にある。京都のような観光地に住んでいると、観光客が多いことを理由に地域住民が出かけることに消極的になっていることを実感する。それだけではない、例えば京都市は民泊に関してだけで受け付けた通報の数は、昨年一年だけでも累計2254件になっている。

 不満は、地域住民に限らない。同じ京都を挙げれば、京都に対する日本人(国内観光客)からの満足度の値が下がっている。9割以上の「満足」を維持してきた京都は、2015年に初めて9割を切った。理由として見られているのは観光客の増加である。同じ京都で宿泊客に関するもう一つの気になる結果が見られる。京都は2015年に外国人宿泊客が前年比で133万人が増えたが、実はその裏で日本人客は112万人が減っているのである。これらの結果をどう解釈すべきだろうか。まさに海外からの観光客に対して、身内(国民)が示している一種のマイナス的な反応ではないか。現状においてほとんどの日本人の気持ちの中で、インバウンドは「百害あって一利なし」となってはいないか。

 つまり、国や地方自治体はインバウンドに力を入れ、収益を見込んでいることには異論はない。しかしインバウンドに伴う地域住民の負担増やストレスを軽減させる取り組みは同時に行う必要があるのではないか。さらにはインバウンドによる収益が、例えば、住民税が下がるなどの目に見える形で、恩恵を感じさせる必要があるのではないか。そうして初めて、わずかな人しか喜んでいない現状を打破し、全市民や国民が一丸となり、心底からインバウンドを歓迎するようになるのではないか。

■ ついでにバルセロナと京都を比較する

 もっとも多角的に分析する必要があるが、一先ず、簡単に、ここでバルセロナと京都の簡単な比較してみたい。両都市の人口規模は近い。バルセロナは160万人に対して、京都市は140万人である。観光客の数はバルセロナ3200万人に対して、京都は5684万人である。住民人口比でいうと、バルセロナは20倍だが、京都は37倍と京都の方が多い。バルセロナのような問題が京都で起きない理由があるとするならば、それは物理的な圧迫感の違い、つまり土地面積の違い、さらには人口密度の違いによると一つは考えられる。

 つまり京都市は、827.8平方キロ(人口密度 1,780人/平方キロ)に対して、バルセロナは、101.9平方キロ(人口密度15,802.62 人/平方キロ)となっている。しかし、土地面積の違いは、必ずしも参考になるとも限らない。要するに、京都に来ている海外からの観光客は京都市内に満遍なく分散しているわけではない。観光スポットを中心に密集していることになる。その点、バルセロナと同じストレスが京都の地域住民にかかっている可能性は考えられる。

 しかし、とは言っても現時点で京都に来ている観光客の大半は一応、大きく同じ文化を共有出来た日本人である。その点、今後、住民のストレスがおそらく質的にも変わるであろう外国からの観光客の割合が増えていく過程をこそ慎重になる必要がある。

■ 日本で外国人排斥がはじまる日

 世界的な観光客増、日本の受け入れ強化、そして世界各地で発生している住民と観光客の間の摩擦事件。それらを踏まえると、日本でも同様な状況が起こり得ることは十分に考えられる。それこそ日本でも観光客排斥の動きがこのままだと十分起こり得る。すでに前兆とも言える住民の反応などが見られる点、日本においてすでにはじまった未来であるとも言えなくもない。

 だが、そうならないために出来ることはあるにはある。少なくともすでに問題が起きている観光立国の先輩国や地域を反面教師として学ぶことはできる。

 言わずしてもっとも大事なのは、国家や自治体は、住民や国民の幸せを第一に考えるよう心がけることである。残念だが、現状において実際にあるにしても、恩恵を受けている実感を共有出来ている市民や国民は少なく、行政もインバウンドに力を入れているだけで、国民に向けてその恩恵などについて丁寧に示すような言動は見当たらない。今ならまだ間に合う。

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