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人権団体、シンガポールに逃亡中の元スリランカ大統領ゴーターバヤ・ラジャパクシャ氏を刑事告訴。

にしゃんた社会学者/タレント
現在シンガポールに滞在中のゴーターバヤに関する情報は伝わってこない(にしゃんた)(写真:ロイター/アフロ)

人権団体、「国際真実と正義プロジェクト」(International Truth and Justice Project、ITJP)の 弁護士たちが、シンガポールの司法長官に対して、前スリランカ大統領ゴーターバヤ・ラジャパクシャを戦争犯罪で直ちに逮捕するよう求める刑事訴状を提出した。

この訴状は、ゴーターバヤが(兄のマヒンダ・ラージャパクシャが大統領だった時代に、彼の下で)国防長官であった2009年の内戦中にジュネーブ条約の重大な違反を犯したことを伝えている。南アフリカに本拠を置くITJPは、国際司法裁判所に基づき、違反の疑いがある行為は、彼が現在逃亡中のシンガポールで起訴される対象であると訴えている。

さらにはこの訴状ではゴーターバヤによるスリランカ内戦中の行いは、ジュネーブ条約に対する重大な違反に限らず、国際人道法および国際刑事法の違反をも犯したと主張している。その内容には、殺人、処刑、拷問と非人道的な扱い、レイプとその他の形態の性的暴力、自由の剥奪、深刻な身体的・精神的加害、飢餓が含まれている。

スリランカは、(兄の)ラージャパクシャ政権下で、少数民族タミルの分離主義者と政府軍との25年にわたる内戦を2009年に終結させたが、ITJPに限らず多くの人権団体がその時にスリランカ政府軍によって人権侵害が発生していると非難している。しかしゴーターバヤはこれまで、戦争中の人権侵害の疑いに対する責任を強く否定してきている。

今回の訴状を起草した弁護士の一人であるアレクサンドラ・リリー・キャザーは、ロイターのインタビューに「提出された刑事訴状は、犯罪に関する検証可能な情報に基づいている」と述べ 、さらには「シンガポールは、この告発によって、自国の法律と政策によって、権力に対して真実を語るまたとない機会を得たのだ」とコメントしている。

7月9日、大統領官邸などが大規模な反政府デモ隊に襲撃され、占拠された。これは、「gota go home」(ゴーターバヤ、辞任しろ!)をモットーとする非暴力運動(通称 アラガラ)が結成されて3カ月目の記念日に、全国から多くの人々が集まってきたことによって実現した。ゴーターバヤは、これを事前に予測して、前日に公邸から避難していた。そして数日後、モルディブを経由してシンガポールに逃亡し、電子メールで大統領職の辞職を申し出た。

シンガポール外務省によると、ゴーターバヤのシンガポール滞在を認めたものの、私的訪問であり、亡命を要請されておらず、仮に要請されても認められないと発表している。

ITJPはこれまで、ゴーターバヤに対する2件の民事訴訟をサポートしており、そのうちの1件は、ゴーターバヤが当時米国籍であった2019年にカリフォルニア州で送達されたものである。しかし、ゴーターバヤが同年末に大統領に就任した際に外交特権を与えられたため、両訴訟は取り下げられた経緯がある。

ゴーターバヤが、国外脱出後に電子メールで大統領職を辞任した経緯については、辞任後に大統領特権が解かれ、国内に留まると逮捕される恐れがあったためとの見方が強い。今回の訴状を受けてシンガポール国内の動きについてはこれから注目が集まることになる。

(国外逃亡したゴーターバヤ大統領を風刺した一コマ漫画)

社会学者/タレント

羽衣国際大学 教授。博士(経済学)イギリス連邦の自治領セイロン生まれ。高校生の時に渡日、日本国籍を取得。スリランカ人、教授、タレント、随筆家、落語家、空手家、講演家、子育て父などの顔をもっており、多方面で活動中。「Mr.ダイバーシティ」などと言われることも。現在は主に、大学教授傍ら、メディア出演や講演活動を行う。テレビ•ラジオは情報番組のコメンテーターからバラエティまで幅広く、講演家として全国各地で「違いを楽しみ、力に変える」(多様性と包摂)をテーマとする ダイバーシティ スピーカー (多様性の語り部)として活躍。ボランティアで献血推進活動に積極的である。

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