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日本人による、日本人のための、日本人本位の「国際」を脱した「民際的国際」のススメ  

にしゃんた社会学者/タレント
(写真:アフロ)

 私は、日本に来た時は、バブルの真只中だった。街中のネオンは、眩しかった。

7万円と片道切符での来日。先が読めず、予定も立たない。案内役がいるわけでもなく、何もかも手探りで生きるしかない不安定な中にも、この国は、私などの外国人にとってひょっとして「天国」ではないかと思う瞬間があった。

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 「国際交流」。この言葉に出会ったのは、来日したあくる日だった。参加した国際交流イベント。周りの人に良くしてもらった。バブル時代は、国際の冠のつく催し物は多かった。私の記憶が正しければ、多い時は1日5件の国際系の集まりを梯子した事がある。そして行った先々で良くしてもらえた。

 自分がもっとも大事にしてくれると思ってやまなかったそんな「国際」に裏切られる日が訪れた。何処迄も私のような外国人の味方だと思っていただけに、裏切られた時は深く傷ついた。

 大学卒業を間近に控え、就職活動を始めてすぐのことだった。「国際」の冠についている団体に就職を申し込んだら、断られた。そこで初めて聞いた日本語が出て来た。「国籍条項」。つまり、日本人でないとダメということだった。

 私などの単純細胞の人間には、国際と国籍条項が同居していることが理解出来なかった。しかしそのことが一つ発見をもたらしてくれた。日本の国際には、日本人本位の側面があること、つまり日本人が、日本人のために展開している国際が存在することに気付いた。

 長い日本滞在の中で幾度となく国際の壁で傷ついたこともたくさんあったが、その度、心ある「民際」の中で大事にされ、今に至って生き延びてこられた。

 バブルも終わりほぼ30年。日本で国際という名の新たな活動が目立つようになった。今度は「国際貢献」である。国際貢献の下での技能研修生の受け入れが盛んになっている。

 バブルの頃などと比べ日本の背景も随分変わり、当時の日本人が持ち合わせていた心のゆとり、それに比例する優しさが、人口減、労働力不足に低賃金化の流れに沿って低下してきてはないか。そんな日本における国際活動における、日本人本位の傾向はますます強くなっているのではないか。つまり日本人が、日本人のためにやっている活動としての国際にますます傾いてきているのではないか。

 この時代における技能実習生制度の強化は、明らかに労働力不足を解消するための詭弁であると思われても仕方がない。その反面、大半の日本人の意向でもある、移民を受け入れず、労働力不足を解消させるために国家が考え出した苦肉の策でもあると言える。

 しかし、そこに存在する国際の傘の中の実体からはとても目を背けることはできない。厚労省が公表した「外国人技能実習生の実習実施機関に対する平成28年の監督指導」結果によると、監督実施済み5,672の事業場のうちの実に70.6%に当たる4,004の事業場において労働基準関係法令違反が認められた。

 違反の内訳の第1位は労働時間(労働基準法32条。第40条)違反は23.8%、第2位は、安全基準(労働安全衛生法第20〜25条)違反は19.3%、第3位は割増賃金の支払(労働基準法第37条)違反は13.6%の順で、その他にも労働基準法や労働安全衛生法関連の違反が確認されている。

 2016年10月には技能実習生の過労死事件も起きた。技能実習生の逃亡事件も年々増えており、その数は2015年だけで5803人になった。全てではないが、受け入れ態勢の不備も原因として指摘されている。

 現状のままでは、長くに渡り民際力で爽やかなイメージを守ってきた国際の名が完全にダメになってしまう。

一人一人の日本人としての品格と国際を超えた民際感覚を発揮することが求められている。

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社会学者/タレント

羽衣国際大学 教授。博士(経済学)イギリス連邦の自治領セイロン生まれ。高校生の時に渡日、日本国籍を取得。スリランカ人、教授、タレント、随筆家、落語家、空手家、講演家、子育て父などの顔をもっており、多方面で活動中。「Mr.ダイバーシティ」などと言われることも。現在は主に、大学教授傍ら、メディア出演や講演活動を行う。テレビ•ラジオは情報番組のコメンテーターからバラエティまで幅広く、講演家として全国各地で「違いを楽しみ、力に変える」(多様性と包摂)をテーマとする ダイバーシティ スピーカー (多様性の語り部)として活躍。ボランティアで献血推進活動に積極的である。

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