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笑い笑われ、落語はもはや日本の日常である。

にしゃんた社会学者/タレント
にしゃんた(撮影 藤田啓二)

 日本の人は、外国の人の言動を見て思わず笑ってしまうことがある。

 世界中を走っている日本の中古車。車体などの日本語表記はそのままにされていることが多い。それこそどこそこの幼稚園などと書かれたかつてのスクールバスが海外で大の大人を乗せて走っている姿を見かけたりする。なぜ表記はそのままかの理由は他でもなく、日本語や漢字に対する憧れである。漢字への憧れは、タトゥーの世界にも及んでいる。漢字を身体に彫る人。自分の好きな言葉を日本語で彫って欲しいと言っているに違いない。「shitという意味の漢字を入れて」と頼まれたのか「糞」という字が彫られた人や彫り師が「crazy foreignerの日本語を彫って欲しい」と頼まれたのか「馬鹿外人」(原文ママ)と入れられている人を見たことある。笑ってはいけないかもしれない。でもやはり笑ってしまう。

 笑っている日本人も多いが、逆に笑われている日本人も多いのではないか。

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 私が最も好きな落語のネタの一つに、文枝師匠がおそらく80年代、90年代に書かれた「青い瞳の町内会長さん」というものがある。私が最も好きなネタの一つでよく掛けさせて頂くのだが、三枝師匠はあの時代に、今の日本をまるで予言していたかのような内容になっている。

 つまり国際化していて、インバウンドで盛り上がっているような景色がそこにある。話の冒頭で駅前の仮設のうどん屋が出てくる。外国人が増えたということで店主が中学生の我が子の辞書を借りて、英語メニューをつくったようである。いろいろあるが、ウドンウィズムーンウォッチング、ソバウィズヤングアイズやウドンウィズニューハーフアップなどが登場する。日本語を英語に直訳しているのだが、つまり月見うどん、わかめ蕎麦と釜揚げうどんを表現したかったようである。落語である。

 

 実はそんなおかしみは、何も落語の中だけではなく、日本の日常で起きている。つまり、落語はもはや日本の日常である。

 特にインバウンドで盛り上がる日本において言葉の壁が大きい。観光庁は2017年に発表した「訪日外国人旅行者の国内における受入環境整備に関するアンケート調査」の結果を見てもそのことが明らかである。渡来客5,332人の回答をとりまとめた結果、旅行中で最も困ったことは「施設等のスタッフとのコミュニケーション」で、実に3割(28.9%)の人が言葉で困っていることが目立つ。

 言葉で困っていると一言で言っても実はそこには複雑な事情がある。言葉そのものがわからないということもあれば、言葉がわかっているつもりでそれが間違っていたということもある。一つ大きな問題は和製英語の存在である。

 私の妻も小さな宿を営んでいるが、毎日のように和製英語と英語の狭間で落語的な毎日を過ごしている。その光景を私などは、間近で観ながら大笑いしている。

 和製英語。それも、数えればきりがないほど存在している。おそらく今でも増えている。数がありすぎて羅列することはしたくもない。日本は、国語力が落ちることを理由に英語教育を疎かにしてきた歴史があり、昔と比べて良くなったと言う人がいても、とてもではないが満足出来る状況にはとても至っていない。根拠のないいい加減なことをして、結局のところ、町中の英語塾を儲けさせているだけである。疎かな英語教育と和製英語の中で育った日本の人々。この国には、落語が生まれる条件が見事なまでに整っている。

 

 これから出来ることはなにがあるか。もったいぶらず早々に、つまり小学校低学年から科目として英語教育を導入すること。これ以上和製英語を作らないこと。

 だけど現状も決して悪くはない。言葉が間違えるところには笑いがある。しばらくの間、互いに落語的な日本の日常を楽しむ心のゆとりをもちたい。

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社会学者/タレント

羽衣国際大学 教授。博士(経済学)イギリス連邦の自治領セイロン生まれ。高校生の時に渡日、日本国籍を取得。スリランカ人、教授、タレント、随筆家、落語家、空手家、講演家、子育て父などの顔をもっており、多方面で活動中。「Mr.ダイバーシティ」などと言われることも。現在は主に、大学教授傍ら、メディア出演や講演活動を行う。テレビ•ラジオは情報番組のコメンテーターからバラエティまで幅広く、講演家として全国各地で「違いを楽しみ、力に変える」(多様性と包摂)をテーマとする ダイバーシティ スピーカー (多様性の語り部)として活躍。ボランティアで献血推進活動に積極的である。

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