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森保ジャパンはどのように2種類の守備方法を使い分けて勝利を手にしたのか?【サウジアラビア戦分析】

中山淳サッカージャーナリスト/フットボールライフ・ゼロ発行人
(写真:森田直樹/アフロスポーツ)

日本の狙いはどこにあったのか?

 W杯アジア最終予選の終盤戦最初の大一番となったホームでのサウジアラビア戦。森保ジャパンは、南野拓実と、4戦連発となる伊東純也のゴールにより2-0で勝利した。

 前節の中国戦は、日本がボールを圧倒的に握りながら攻撃が停滞し、それでもPKとスローインからの2ゴールで勝利。しかし今回の試合は、ボールを相手に保持されるなか、ロングとショートのカウンターアタックから2ゴールを奪うことに成功した。

 同じスコアで、相手のシュート数も同じ2本だった点ではどちらも危なげない勝利と言えるが、主導権という視点で見てみると、試合内容自体は実に対照的だった。

 試合後の会見で、森保一監督は次のようなコメントを残している。

「相手のウィークポイントを突いていくという確認はしているが、我々の攻撃のベースと優先順位、守備のベースと優先順位のところで、選手たちが状況を見て、何をすべきかコミュニケーションをとって使い分けてくれていた」

「サウジアラビアはサイドに非常にいい選手がいて、サイド攻撃を強みにしているので、(日本の)攻撃の選択肢として、そのスペースを突くことができるのではないかということは、チームとして共通理解を持って試合に臨んだ」

「相手のボールを奪いに行く部分では、高い位置から相手にプレッシャーをかけ、ミドルゾーン、ディフェンスゾーンではブロックを作り、相手にプレッシャーをかけてボールを奪うことを選手たちに共有してもらった」

 これらを総合すれば、同じスタメンと同じ布陣で臨んだ2試合で、なぜまったく異なる現象が起きたのかが理解できる。わかりやすく言えば、中国戦の日本は相手より実力で上回るチームとして試合に臨み、サウジアラビア戦は、互角もしくは相手に上回られる想定で臨んだことになる。

 そして実際、試合はその通りに展開した。

お互いがボランチ3枚を中盤に配置

 この試合で森保監督がチョイスしたスタメンは、中国戦とまったく同じ11人。GKに権田修一、4バックは右から酒井宏樹、板倉滉、谷口彰悟、長友佑都。中盤はアンカー遠藤航、右に田中碧、左に守田英正、前線は右に伊東、左に南野、そして1トップに大迫勇也という面々だ。

 試合前から議論の対象として注目されていた左SBは、中国戦でアシストを決めた中山ではなく、長友がスタメンをキープ。勝っている時は変えないという定石通りの選択で、これまでの森保采配の傾向を踏襲するものだった。

 一方、前節のホームでのオマーン戦で勝利し、この試合に勝てば本大会出場が決まる首位サウジアラビアは、大黒柱のトップ下サルマン・アル・ファラジに加え、FWのサレー・アル・シェフリとアブドゥルラフマン・ガリーブを欠いたメンバーで来日。

「アル・ファラジはアジア最高の選手の1人で、その代役を見つけることも難しい」と試合前日に語っていたフランス人エルベ・ルナール監督が選択した布陣は、いつもの4-2-3-1。負傷欠場のアル・ファラジの代役として、本来ダブルボランチの一角を担う23番(モハメド・カノ)をトップ下に移し、右ボランチに15番(アリ・アルハッサン)を起用した。

 サウジアラビアが前回対戦時(第3節)と同じ布陣だったのに対し、日本はその時に採用していた4-2-3-1ではなく、第4節のオーストラリア戦から継続する4-3-3。日本にとって、対4-2-3-1という構図は中国戦と同じだ。

 また、この試合でサウジアラビアの1トップ下を務めた23番(モハメド・カノ)は、通常はダブルボランチの一角を務める選手なので、中盤3人がボランチタイプという点で日本と共通する。

 ただし、3人の配置は逆三角形の日本に対し、サウジアラビアは正三角形。つまり中盤3枚は、机上の論理ではお互いがガッチリと噛み合う格好になる。

 果たして、試合は両チームの主導権が15分ごとに入れ替わるという、ある意味で分かりやすい展開で進んだ。

先制点は相手のミスから生まれた

 これを日本の守備方法の視点で見ると、慎重に入った最初の15分は、4-5-1の陣形をとって「ミドルゾーン、ディフェンスゾーンでブロックを作り、相手にプレッシャーをかけてボールを奪う」時間帯。

 サウジアラビアが守備時に前からプレッシャーをかけ、圧力を受けた日本はボール奪取後に無理してつなごうとせず、安全第一でクリアを選択。それを再びサウジアラビアが回収してボールを握るという展開が続いた。

 そして相手の主力ボランチの8番が負傷交代したあとから先制するまでの約15分は、意気消沈気味の相手に対し、第4節のオーストラリア戦と同じような「高い位置からプレッシャーをかける」守備方法で、日本が合う次アラビア陣内でボールをキープした。

 ただし、32分の日本の先制ゴールは、日本陣内における相手のミスから生まれたものだった。きっかけは、右サイドで得たスローインを、サウジアラビアの右サイドバック(SB)の2番が誤って遠藤に投げるというケアレスミスを犯したことだ。

 ボールをもらった遠藤を起点に発動されたそのロングカウンターから、右サイドのスペースを伊東が自慢のスピードで突破し、最後に南野が仕留めた。サイドのスペースを突くという点では、まさに狙い通りと言えた。

 そして先制後の前半残り約15分は、反撃に転じたサウジアラビアがボールを握り、再び日本がミドルゾーン、ディフェンスゾーンでブロックを形成。そんなか、35分に自陣右サイドで伊東と酒井が破られ、13番のクロス供給から決定機を与えてしまう。

 幸いボールがフリーでジャンプした23番の頭上を越えたために救われたが、ゴール前の状況からすると、日本が失点していてもおかしくない危ないシーンだった。

 前半を振り返ると、日本は1点をリードしたものの、内容はほぼ互角。ボール支配率では43%対57%とサウジアラビアに軍配が上がり、シュート数では3本対1本で日本が上回った。ちなみに日本のゴール以外のシュートは、40分に発動したショートカウンターから放った伊東のシュートと、遠藤のミドルシュートの2本だ。

 そのほか、敵陣でのくさびの縦パスは3本で、8本を記録したクロス供給で成功したのは先制ゴールにつながる伊東の1本のみ。長友佑都が4本のクロスを供給したこと以外、攻撃面のスタッツは中国戦と似ていた。

 しかし、相手にボールを握られる時間が長かった分、カウンターという明確な意図が効果を発揮したため、それほど停滞感を感じさせなかった内容だったと見ることもできる。

後半も約15分ごとに主導権が移る

 迎えた後半最初の15分は、この試合で最も拮抗した攻防が続いた。ある意味、この時間帯が勝敗の分かれ目になったとも言える。

 最初に主導権を握ったのは日本。48分、枠を外したものの、酒井宏樹のクロスを南野がボレーで狙った攻撃をきっかけにリズムをつかむと、日本は前からプレッシャーをかけてボールを支配した。

 50分、サウジアラビアは自陣ボックス内で回収したボールを、8番の負傷交代によって途中出場していた7番が、なぜか守田英正のプレスバックを浴びながら顔も上げずに伊東と遠藤が立つ方向に向かってドリブル突破を試みる。

 この意図不明なプレーを日本は見逃さず、遠藤が奪取したところを起点にショートカウンターを発動。左に展開したあと、長友のクロスを受けた伊東が目の覚めるようなシュートをネットに突き刺した。

 2点をリードした日本は、ここから再び4-5-1の陣形でブロックを形成した。サウジアラビアにボールを持たせても、ミドルゾーン、ディフェンスゾーンでプレッシャーをかけてボールを奪い、隙あらばカウンターで追加点を狙う守備に切り替えた。

 森保監督が「選手たちが状況を見て、何をすべきかコミュニケーションをとって使い分けてくれていた」と振り返った通りのゲーム運びだ。

 後半の3分の2にあたる75分までに、エルベ・ルナール監督は残り4枚の交代カードを2度に分けて切り、反撃を試みるが、その間に記録したシュートは68分の1本のみ。チャンスらしいチャンスを作れなかった点でも、日本の守備方法の選択は妥当だった。

 最後の15分もサウジアラビアが攻める時間が続いたが、より前がかりになった分、日本のカウンターが威力を発揮。特にクロス供給では、後半11本のうち80分以降に7本のクロスを供給。

 残り4本はすべて後半立ち上がりの5分間で記録したものだったことを見ても、後半の日本がどのようなゲーム運びをしたのかがよくわかる。

 ちなみに、後半に記録した敵陣での縦パスは6本で、そのうち3本が80分以降のもの。そのほか2本が後半開始10分の時間帯、残り1本はミドルゾーンで遠藤が伊東に入れた61分の縦パスだった。

 本数的にも、中国戦の後半に記録した10本より下回っている。

先行逃げ切りこそが勝利への近道

 後半の日本がピンチに陥った唯一の場面は、終了間際の40分。左サイドで68分から途中出場した左SB中山雄太の背後から、18番がボックス内右に進入しパスを受けてマイナスのクロスをニアに入れたシーンだ。

 このクロスは守田がブロックしてCKとなったが、この時PKスポット付近にはフリーの10番がいた。もしボールが彼にわたっていれば、日本が失点を喫していた可能性は高かった。

 逆に、日本は82分に数少ない連動した攻撃を披露している。中盤でボールを回収したあと、伊東、守田、前田大然と3本のダイレクトパスで右に展開し、オーバーラップした酒井がクロス。ゴール前で浅野拓磨が合わせた攻撃だ。

 シュートはバーを大きく越えたが、ワンタッチプレー5本が続いた攻撃は、4-3-3に布陣変更してから初めてのこと。しかも選手間の距離で言えば、4-2-3-1の採用時でもほとんど見られなかった連動性のある攻撃だった。

 結局、ボール支配率で40.3%対59.7%と上回られた日本は、それを想定したプランを遂行して勝利を手にした。

 その一方で、自分たちがボールを握る時間帯で攻撃を活性化させる兆しはまだ見えず、守備的にカテゴライズされる森保ジャパンの4-3-3の特性が改めて浮き彫りになったと解釈することもできる。

 いずれにしても、セットプレーとカウンター、そして伊東の個人突破が数少ない糸口となっている現状、先行逃げ切りの展開が勝利へのカギとなっている状況は変わらない。

 いよいよ次は、本大会出場がかかるアウェーでのオーストラリア戦だ。勝たなければ2位以上の可能性がなくなるオーストラリアは、攻撃的に挑んでくる可能性が高い。

 一歩間違えば3位に転落する可能性が残されるなか、森保監督は今回のサウジアラビア戦と同じプランで臨み、無事にW杯出場権を獲得することができるのか。

 まだまだ油断ができない状況は続く。

(集英社 Web Sportiva 2月4日掲載・加筆訂正)

サッカージャーナリスト/フットボールライフ・ゼロ発行人

1970年生まれ、山梨県甲府市出身。明治学院大学国際学部卒業後、「ワールドサッカーグラフィック」誌編集部に入り、編集長を経て2005年に独立。紙・WEB媒体に寄稿する他、CS放送のサッカー番組に出演する。雑誌、書籍、WEBなどを制作する有限会社アルマンド代表。同社が発行する「フットボールライフ・ゼロ」の編集発行人でもある。

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