Yahoo!ニュース

突如採用された新布陣4-3-3によって森保ジャパンの問題は解決されたのか?【オーストラリア戦分析】

中山淳サッカージャーナリスト/フットボールライフ・ゼロ発行人
(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)

スタメンと布陣を変えた森保監督

 2022年W杯アジア最終予選第4節。1-1で迎えた後半86分、途中出場の浅野拓磨が相手ボックス内左の角度のない位置で放ったシュートが呼び込んだオウンゴールで、森保ジャパンはオーストラリアから勝利をもぎ取った。

 九死に一生を得たとは、まさにこのこと。これで、何とかグループ2位以上の可能性を残した。

 試合後、森保一監督は「絶対にW杯に出るんだという気持ちを強く持って(選手たちが)戦い抜いてくれた。W杯への道はつながり、すばらしい勝利となった」とコメントしたが、その言葉には、現在のチームが置かれている状況と精神状態が集約されていた。

 とはいえ、オマーンも3-1でベトナムに勝利し、勝ち点でオマーンと並ぶ日本は、総得点の差でグループBの4位に後退。11月に控えるベトナム戦とオマーンとの直接対決で計6ポイントの勝ち点を確保するためにも、今回のオーストラリア戦で起こっていた現象を、改めて検証しておく必要があるだろう。

 とくにこの試合には、これまでの森保ジャパンでは見られなかった見逃せない変化、つまり従来とは大きく異なる事象が攻守両面にわたって存在していたからだ。

 まず、この試合に臨む森保監督は、いつもとは異なる傾向でスタメンを編成した。

 GK権田修一、DFは酒井宏樹、吉田麻也、冨安健洋、長友佑都の4人。中盤には遠藤航、田中碧、守田英正という3人のボランチを、そして前線は右に伊東純也、左に南野拓実、そして中央には大迫勇也を配置。布陣についても、これまで基本としてきた4-2-3-1ではなく、初めてスタートから4-3-3を採用した。

 対するオーストラリアは、かつてサンフレッチェ広島でプレーし、森保監督とともにプレーした経験を持つオーストラリア人グラハム・アーノルド監督が、従来通りの4-2-3-1を採用。これまで左ウイングを務めていた11番(アワー・メイビル)をベンチに温存し、ベテランの13番(アーロン・ムーイ)を左ウイングで起用した。

 ただし、試合前日会見で「我々は日本を長い間スカウティングしてきたが、ここで日本の弱点を言ってしまうことは愚かと言える」と語っていたアーノルド監督にとって、森保監督がこの試合で断行した数々の変更は、想定外だったに違いない。

布陣変更により日本の守備方法も変化

 その大きな変化の根源となったのが、予想外とも言える4-3-3の採用だ。

 2018年ロシアW杯後に発足して以来、森保ジャパンがこれまで戦ったAマッチ42試合のなかで、試合開始時の布陣が4-2-3-1でなかったのは、実質的にA代表ではなかった2019年E-1サッカー選手権を除くと、わずか3試合(2019年6月のトリニダード・トバゴ戦、エルサルバドル戦、2020年11月のパナマ戦)。そのいずれもが、森保監督のプランBとされてきた3バック(3-4-2-1)だ。

 プランCの4-3-3については、今年3月のモンゴル戦の後半で初めて試し(19分間)、5月のミャンマー戦の後半62分からも使っていたが、キックオフ時からの採用は今回が初めてだった。

 しかし、数字上は同じ4-3-3であっても、その2試合と今回では、根本的な違いがある。それは、インサイドハーフの人選だ。

 過去2試合でインサイドハーフを務めたのは、南野拓実と鎌田大地というアタッカーの選手だったが(アンカーはどちらも遠藤航だった)、今回はアンカーに遠藤、インサイドハーフには田中碧と守田英正という、4-2-3-1時にボランチでプレーする選手を配置し、彼らが流動的に動きながら広いミッドフィールドをカバーした。

 前者がピッチ上にアタッカー5人を配置する超攻撃的布陣とするなら、後者はアタッカーを3人だけで構成する守備的布陣と解釈できる。その意味では、オーストラリア戦で初めてお目見えした4-3-3は、プランDと言ってもいい。

 これまで一貫して採用し続けた布陣を使わず、崖っぷちの大一番で過去に一度も試していない戦術をぶっつけ本番で採用すること自体、尋常ではない。試合後の森保監督は、田中と守田の調子が良かった点や、オーストラリアとのマッチアップを考えて4-3-3に変更したと語っていたが、おそらくそれは建前の話だろう。

 実際は、自分の信念を曲げてでも結果を出さなければいけない状況に追い詰められたうえでの、大きな決断だと思われる。もし選手の調子や相手との噛み合わせが理由なら、過去42試合中39試合で4-2-3-1を使い続けたことの説明がつかないからだ。

 いずれにせよ、日本の布陣変更は4-2-3-1を想定していたオーストラリアのゲームプランを大きく狂わせ、一定の効果を示したのは間違いなかった。ピッチ上でいくつかの変化が表れたなかで、まず目を引いたのが日本の守備方法だ。

 4-2-3-1(4-4-2)を採用するオーストラリアに対し、日本の前線は3人。そこで、相手のビルドアップの際は両ウイングの伊東純也と南野が中央に絞って、高い位置をとる相手両サイドバック(SB)へのパスコースを遮断しながらプレッシャーをかけた(外切り)。1トップの大迫勇也は、無理して相手センターバック(CB)にプレスをかけず、中央のパスコースを限定すべく、伊東と南野よりも下がった位置にポジションをとった。

 これにより、窮屈なビルドアップを強いられたオーストラリアは、ロングボールで回避するシーンが増えたほか、無理して中央から前進を図ろうとして日本の3ボランチに引っ掛けてボールロストするシーンが見受けられた。

 前半8分の日本の先制ゴールも、日本の前線からの守備から生まれた。

 南野のプレスを受けた20番が、もうひとりのCB19番に外側から寄せてくる伊東を見てGKにボールを下げると、そのまま伊東がGKまでプレスをかけたことで、慌てたGKがロングキック。ボールは、右SBの2番が受けるものの、23番とのパス交換が乱れたところで守田が回収し、守田からパスをもらってドリブルで前進した南野が左サイドから供給したクロスを、田中がフィニッシュするに至った。

 とはいえ、この形が常にハマるわけではなく、相手に自陣まで進入を許された場合、日本は4-5-1の陣形に可変して守備ブロックを形成。とりわけ日本の守備方法をオーストラリアが把握した後半は、この形で守る時間帯が長かった。

4-3-3は攻撃面で問題が散見

 一方、この布陣のデメリットを露呈したのが攻撃面だった。

 アタッカーが3人しかいない4-3-3では、マイボール時に前線のターゲットとなる選手が従来の4-2-3-1よりも1人少ない。特に中央には大迫ひとりしかいないため、森保ジャパンの調子のバロメーターでもあるくさびの縦パスが激減する現象が起こった。

 前半に日本が敵陣で入れたくさびの縦パスは3本のみ。いずれも左ハーフレーンに絞った南野が受けたもので、これまでチーム最大の武器となっていた大迫が中央でくさびを受けるシーンは皆無だった。後半の日本に至っては、1本も縦パスを記録していない。

 これにより、これまで森保監督が掲げてきた連動した攻撃を繰り出す可能性もほぼ消滅。唯一、前半44分にダイレクトで細かいパスをつなぎながらゴール前まで進入するという、森保ジャパンらしい攻撃もあったが、それは酒井宏樹のスローインを起点としたもの。中央の縦パスを起点に連動した攻撃ではなかった。

 その代わりに、頼みの綱となったのがサイド攻撃だった。特にこの試合でカギとなったのが、持ち前のスピードで対峙する左SBの16番を苦しめた右ウイングの伊東と、通常よりも高い位置をとっていた左SB長友佑都の2人だ。

 前半に日本が記録したクロスは計10本あったが、右からのクロスは4本中2本が伊東のクロスで、左は6本中3本が長友。後半も右は伊東が4本中4本を記録したが、左の長友は1本に減少して南野が7本中3本を記録。これは、後半になってオーストラリアの右サイド攻撃が活性化したため、長友の攻め上がりが影を潜めたからだった。

 もっとも、中央から攻めてこないことがわかっているオーストラリアにとって、日本のクロスはそれほどの脅威にはならなかった。

 身長で上回っているうえ、ロングボールや縦に速い攻撃からクロスを供給されても、ボックス内に進入してくる日本の選手の人数が少ないからだ。当然、日本のクロスの成功率は高くなく、21本記録したこの試合のクロスで成功したのは、先制点も含めて3本しかなかった。

 確かに開始早々の先制点のシーンでは、相手守備陣の混乱や体力的な影響もあり、南野のクロスに対して田中がボックス内に顔を出すことができた。しかし、この試合で中盤3人に任されたタスクの多さを考えれば、時間の経過とともにその回数が減るのは当然だ。その現象を含めても、クロスだけに頼る攻撃では限界が見えていると言える。

 結局、敵陣で5本以上のパス交換ができたのもわずか1度しかなかった日本は、ボール支配率においてもオーストラリアの53.4%を下回る46.6%だった。できるだけボールを保持してプレーすることを標ぼうしてきた森保ジャパンにとっては、これも気がかりだ。

 この試合で採用した4-3-3は、くさびの縦パスや連動した攻撃の激減、中央攻撃を活かすためのサイド攻撃の威力低下など、従来とは異なる現象をいくつも生み出した。

 もちろん守備面のメリットを一定程度示すことができたが、おそらく奇跡的と言ってもいい決勝ゴールが生まれなかったら、新布陣の4-3-3はお蔵入りしていた可能性が高い。少なくとも、攻撃面のデメリットを考えれば、付け焼刃の布陣でアジア最終予選の残り6試合を勝ち続けられるかどうかは、かなり微妙なところだろう。

 注目は、11月のベトナム戦とオマーン戦で、森保監督が今回採用した4-3-3を継続するかどうかだ。いずれにせよ、W杯出場権獲得のためにも、今回のオーストラリア戦で得たプランDのメリットとデメリットを踏まえ、今後の戦いに活かしていく必要があるだろう。

(集英社 Web Sportiva 10月15日掲載・加筆訂正)

サッカージャーナリスト/フットボールライフ・ゼロ発行人

1970年生まれ、山梨県甲府市出身。明治学院大学国際学部卒業後、「ワールドサッカーグラフィック」誌編集部に入り、編集長を経て2005年に独立。紙・WEB媒体に寄稿する他、CS放送のサッカー番組に出演する。雑誌、書籍、WEBなどを制作する有限会社アルマンド代表。同社が発行する「フットボールライフ・ゼロ」の編集発行人でもある。

中山淳の最近の記事