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中山雄太2.0への挑戦 「乞うご期待としか言いようがないです」

中田徹サッカーライター
PECズウォーレ対スパルタ戦キックオフを目前に 【撮影:中田徹】

■ スパルタ戦のマン・オブ・ザ・マッチは中山雄太

 PECズウォーレ対スパルタ(オランダリーグ。9月26日)は前半終了間際まで内容は互角、シュートの数で比べるならばスパルタがやや押し気味の試合だった。この均衡を破ったのが、MF中山雄太のヘッドだった。

 前半アディショナルタイム2分、中山はMFレーマンスが蹴ったCKを高い打点のヘッドで叩きつけ、しっかり枠内へ飛ばした。すると、これがゴールライン上でカバーしていたスパルタDFピントのハンドを誘発。PKを得たPECズウォーレはFWグーチャネジャドが決めて先制したばかりでなく、ピントの退場によって数的優位に立った。

 

 後半に入ってすぐ、中山の強烈なミドルシュートがスパルタGKファン・レールを脅かす。続くCKからグーチャネジャドが2点目のゴールを決めた。こうして、試合のバランスは完全に崩れ、PECズウォーレのワンサイドゲームとなった。

 3対0で迎えた71分、中山はまたしてもCKをヘッドで合わせ、シュートはものの見事にゴールに吸い込まれていった。それから3分後、スタンディングオベーションを浴びながら中山はベンチに退いた。チームは4対0で大勝し、今季初勝利を記録した。そして、ファンの投票によって中山がマン・オブ・ザ・マッチに輝いた。

■ 今季初ゴールの中山「FWと同じぐらい得点をしたいという意欲はある」

 試合後のインタビュールームでは、オランダ人記者たちがソワソワしながら中山を待っていた。

「トーマス・ラム選手が出場停止処分ということで、今日の試合は中山選手にとって重要だったと思いますが」

 その問いに中山は「そうですね」と肯定して続けた。

「開幕戦で(出場機会の)チャンスを得られなかった。(ラムの)レッドカードがなかったら来なかったかもしれないチャンス。これをしっかりものにしたかった。こうして得たチャンスで、得点と勝利という形で自身を証明できたのは良かったと思います」

 今季の中山はアンカーのポジションをトーマス・ラムと競っている。開幕戦の対フェイエノールト(0対2でPECズウォーレの敗戦)で中山の出場機会はなかった。全国紙『アルヘメーン・ダッハブラット』はスタメン予想の記事で「PECズウォーレの“6番”のポジションは、中山雄太ではなくトーマス・ラムが務める。ジョン・ステーヘマン監督は経験を採った」と記していた。 

 翌AZ戦(1対1)の中山は76分からインサイドハーフとしてピッチに入った。その後、83分にラムがレッドカードをもらってしまい、中山はボランチの位置に下がった。ラムの処分は3試合出場停止。こうして中山はスパルタ戦、RKC戦(10月3日)、PSV戦(10月18日)のスタメン出場の可能性が高まった。

――これから2試合、あなたの先発は間違いない。それからは?

「一度得たチャンスを生かし、そのポジションを死守し続けたい。なおかつ、僕が出ることで勝利するというのは絶対条件だと考えてます。だから、他人というよりも今は自分のプレーをしっかりと証明し続けて、今日みたいに結果に結びつければいいなと思います」

 PK奪取とゴールのシーンだけでなく、中山はFKのサインプレーでもしっかりヘディングで折り返しのボールを入れていた。オランダ人の記者が「ヘディングに自信があるんですか?」と訊いた。

「オランダに来てからだいぶ自信がつきました。日本でも『(ヘディングが)強い』と言われていたんですが、こっちで身長の高い選手と競り合うことによって、より自信になっている部分があると思います」

 別のオランダ人記者が「あなたは新しいストライカーですね」と冗談交じりに言うと、中山もつられて笑ったが答えは真剣だった。

「得点というのはすごくこだわっている部分でもありますし。もちろん、意欲的にはFWと同じぐらい点を獲りたいという意識はあります」

 取れ高充分のインタビューに、オランダ人記者たちは笑顔で引き上げていった。

■ 中山雄太は自身をスクラップ・アンド・ビルドしている

 私にも彼に尋ねてみたいことがあった。日刊スポーツ紙による「中山雄太、オランダ3季目と東京五輪への覚悟」というインタビューで、中山はボランチへの熱い思いを語っていた。

https://www.nikkansports.com/soccer/japan/news/202009110000636.html

 昨季の中山はCB、左SB、MFとポジションを転々としながらも主力の座を掴み取れなかった。その歯がゆさと、ボランチへの意欲がよく伝わってきたインタビューだった。そこで改めて、中山自身の口から現在の思いを訊いてみた。

「今までの僕は後ろ(のポジション)に比重が置かれた中で、ボランチがオプションでした。僕としてはボランチをやりつつ、センターバックとサイドバックもオプションとして考えてます。そのことを言い続けてきて、あとはプレーで証明するしかないと考えてました。今シーズンは、自分が言い続けてきたことをやっと体現できる状況になりました。

 もちろん、後ろをやりたくないというわけではない。僕自身にとってもチームにとっても(DFも)できたほうがいいと思います。そこは捨ててない部分ですし、ちょっと忘れてほしくない部分でもあります。ただ、『じゃあ、僕のポジションはどこか』となると『ボランチ』というのが自分の答えなので、(日刊スポーツでの)そういった発言になってます。自分にとって自信のあるポジション、あるいは自分の力を証明できるのがボランチだと思ってます。

 日本でも僕はボランチとしてプレーしていたときもあるんですが、コロナ期間中は『今、自分のスタイルを壊しながらより上に行くためにはどういうものが必要か』ということをすごく考えてました。(ここでややトーンが上がり)今はチャレンジしながら日々を生活している感じですし、『今シーズン、楽しみにしていてください』としか言えないです」

 中山が言った「コロナ期間中に考えていたこと」とは何だろうか?

「それはもう誰にも言ってないんですよ。言わずに、プレーを見てもらって『変わった』と思われたら、一番わかり易いと思いますので。それで『どこが変わったの?』と言われたら多分、変わってないんでしょう。そこは自分に対する発破じゃないですが、言わないほうが面白いんじゃないかと思って、あまり言ってないんです」

「その答え合わせはシーズン終了ぐらいにしたいですね」と私は言った。

「はい。オランダリーグはあまり見てもらえませんが、東京オリンピックでしっかり代表チームに選ばれたら、日本の人たちに見てもらえるじゃないですか。そこで『だいぶ変わったね』と思われたら、僕のチャレンジしてきたことが成功したのかなと思うので、乞うご期待としか言いようがないです」

 今季の中山は2試合88分間の出場で早くも2枚めのイエローカードをもらっている。もしかすると、そういうところにヒントが隠されているのかもしれない。

中山、そしてチームメートのレーマンスはVoetbal International誌の週間ベストイレブンに選ばれた【Twitterよりスクリーンショット】
中山、そしてチームメートのレーマンスはVoetbal International誌の週間ベストイレブンに選ばれた【Twitterよりスクリーンショット】
サッカーライター

1966年生まれ。サッカー好きが高じて、駐在先のオランダでサッカーライターに転じる。一ヶ月、3000km以上の距離を車で駆け抜け取材し、サッカー・スポーツ媒体に寄稿している。

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