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バイス政権3年目のフローニンゲン。そのチームビルディングと板倉滉のタスク

中田徹サッカーライター
ADOデンハーグに完封勝利し安堵の板倉 【撮影:中田徹】

■ オランダ人が抱くCB像に近い板倉

オランダリーグが開幕して2週間が経った。フローニンゲンの地元紙『ダッハブラット・ファン・ヘット・ノールデン』は、板倉滉の出来をこう寸評した。

“6.5 フローニンゲンサイドのベスト・ディフェンダー(開幕戦、対PSV)”

“7.0 信頼のセンターバック・デュオを形成(第2節、対ADOデン・ハーグ)”

 最後尾からしっかりパスをつなぎたい。あわよくば、DFのパス一本で局面を打開したいーーという狙いを持ったチームが多いオランダでは、MFがCBを務めることが多い。サイズがあり、守備のセンスがあってカバーリングもうまく、気の利いたビルドアップのパスを出せる板倉は、まさにオランダ人好みのCBだ。デュエルという点では成長過程にあるかもしれないが、味方と連携をとったりしながら賢くFWを封じている。

 理想を言うなら、スタンディングタックルで止めることができたらいいのだろう。しかし、タイミングの良いスライディングタックルは、サポーターや番記者から板倉のトレードマークとされており、試合の見せ場の一つになっている。

 ホームゲームとなった開幕戦のPSV戦では、私の斜め後ろに座った子供が徐々に板倉の守備に引き込まれていき「イタクラ、フート、イタクラ!!(いいぞ、板倉)」とひっきりなしに叫んでいた。

■ 3バックシステムと4バックシステムを併用するフローニンゲン

 デニー・バイス(38歳)がフローニンゲンの監督に就任したのは3シーズン前、2018年夏のことだった。最初の10試合は1勝1分け8敗と散々たるもので、いつ解雇されてもおかしくなかった。しかし、オランダは不思議な国で、PSVに1対2と敗れた10節目の試合でバイスの評価が見直された。以降、バイスは守備に軸を置いたチームを作り、そこから徐々に攻守のバリエーションを増やしている。

 今季のフローニンゲンは4バックシステムを基軸としつつ、“可変システムとしての3バック”と“明確な3バックシステム”の使い分けも行っている。3バックシステムの際の板倉は、中央でディフェンスリーダーの役目を担っている。プレシーズンではリベロのように中盤に上がってフリーマンになっていた。公式戦でも今後、果敢に中盤にドリブルインする板倉の姿を見ることができるだろう。

■ ロベンの負傷。18歳の台頭

 開幕から2節しか経ってないものの、プレシーズンマッチでのトライも併せて今季のフローニンゲンを観ていると、バイス監督は試合中、メリハリを付けてプランを変えているのが分かる。

 開幕戦の対PSVはフォーメーション表の上では4−3−3だったが、ロベンを2トップの一角のように置くことによって、右SBのダンケルラウとロベンのためにサイドにスペースを空けていた【プランA】。

 30分にロベンが負傷退場すると、迷わずバイス監督はススロフをピッチに送り込み、オーソドックスな4−3−3で試合を進めた【プランB】。アクシデントによって早まったものの、このプランは予め用意していたはずだ。18歳のススロフはチームを1対1に導くゴールを決め結果を残した。そして、1対2の劣勢で迎えた81分、バイス監督は一気に4枚替えする勝負をかけた【プランC】。

 

【プランC】は、まさにPSVのマーレンがPKを蹴ろうとする直前だった。こうした心理戦を含む采配の妙は、オランダリーグでなかなか見られぬもの。再開後、GKパットがしっかりマーレンのPKをストップした。その後、フローニンゲンは反撃したが実らず、逆にPSVがカウンターからトドメの3点目を入れて、1対3で勝負がついた。

◎ PSV戦後、板倉のコメント

「半年ぶりの公式戦ですか……。(コロナによる制限で)満員でないのが残念ですが、こうした緊迫した中でプレーできることに改めて感謝しないといけない。結果は1対3。場面場面ではやれていても、まだまだこれだけ差があるんだぞというのを見せつけられました。

『フローニンゲンらしく前からプレスをかけていこう』という風に試合に臨んだんですが、前半はなんかプレスがかからず、ハーフタイムで修正しました。

 バイス監督は自信を持って、思い切った采配をする。伝えてきたことをしっかりやることが、自分自身にもプラスになっているのを感じるので面白いですね」

■ フローニンゲンは秘策、スプリット2トップシステムを隠し持っている

 第2節の相手はADOデンハーグだった。PSV戦の反省を生かしたフローニンゲンは立ち上がりからADOデンハーグを押し込み、前半はほぼワンサイドゲームだった。しっかりプレスがかかっていたことに加え、サイドチェンジを多用して相手を揺さぶったのも効果的だった。プレシーズンマッチでも、フローニンゲンは執拗にサイドチェンジを繰り返す試合があった。しかし、前半は1点を奪うに留まり、長年のクリエイティビティー不足、得点力不足が改善されてないことを露呈した。前半の4−3−3が、この日の【プランA 】だった

 中盤を作れないADOデンハーグは後半から長身ストライカーを2枚並べ、板倉とウェッセル・ダマースのCBコンビを一対一に晒そうとした。そこで、ドイスボランチの一人、アゾール・マツシワをアンカー気味にして急場を凌いでから、プレシーズンマッチから作り込んできた(右から)ダマース、板倉、ファン・ヒントゥムの3バックシステムに移行した。これが【プランB】である。

 終盤はターゲットタイプのストライカー、ラルセンをベンチに下げて、俊足のヨースデンを前線に残すカウンター策、【プランC】を採った。板倉のような味方の足元やスペースにパスを通すのがうまいCBにとって、“偽の9番”タイプは相性が良い。

 1対0の勝利に、地元メディア、全国メディアは共に「内容の乏しい勝利だった」と手厳しい。唯一のゴールがオウンゴールだったことも気に入らなかったようだ。だが、バイス監督が守備を強化して大崩れしないチームにし、攻撃に変化を加えていることも確かだ。2トップを両サイドに張らせ、相手CBの動きを見ながら次の一手を指す“スプリット2トップシステム”をバイス監督が隠し持っていることを、私は知っている。

◎ フローニンゲン戦後、板倉のコメント

「システム変更は、監督の選手投入の意図を汲んだりして、選手同士で『こいつを入れてきたから5枚だな』『ここは一回、4枚に戻したほうがいいな』と話し合って修正してました。2点目、3点目を獲れたら楽なゲーム運びになったと思いますが、DFをやっている側としたら、最後の最後まで気の抜けないピリピリしたものを持ってプレーし、こうやって相手をゼロに抑えて勝ててよかったです。

 最後は3バックがデュエルするしかなかった。そこで一本も負けなかったのは良かった。俺はもうホッとしてます(笑)。ここで最後に入れられて引き分けに終わるのと、しっかりゼロで抑えて勝つのは次への勢いが違ってきますから。まずは1勝。ホッとしました」

サッカーライター

1966年生まれ。サッカー好きが高じて、駐在先のオランダでサッカーライターに転じる。一ヶ月、3000km以上の距離を車で駆け抜け取材し、サッカー・スポーツ媒体に寄稿している。

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