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「年中無休クリニックを東京にも」診てもらえない・孤立を救う…コロナと戦う医師に聞く⑤

なかのかおりジャーナリスト(福祉・医療・労働)、早稲田大研究所招聘研究員
(写真:アフロ)

宇都宮市で新型コロナウィルスの治療に年365日体制で対応してきた「インターパーク倉持呼吸器内科クリニック」の倉持仁院長が11月、東京都心部にもクリニックを開く。「その時々で、必要と思うことに取り組んできた」と語る倉持院長。

筆者は、院長と同じ1972年生まれ。院長の発言は炎上することもあるが、筆者はむしろ院長の地域コミュニティでの取り組みや、クリニックの働き手支援に関心を持っている。また、院長はTwitterや著書でコロナ戦記を記してきた。筆者も、2020年に子育て家庭や教育現場がどのような状況にあったか記録・報道して本にまとめており、100年に一度の出来事を後世に伝えることも大事だと思っている。2020年から起きたことと、倉持院長の取り組みを振り返るインタビューを連載で紹介する。

4回目はこちら

バランスのよい支援を

【記事④までは、まず新型コロナワクチンの検証と、病院で診られる状況が必要というお話でしたね。今後、秋冬を含めて患者が増えるであろう時、どんなことが大事だと思いますか】

【倉持】これから少子高齢化で医療費がどんどん高まって、医療費だけじゃなくて社会保険料とか年金とかも大きいんですけど、お金がない中でやってかなきゃいけない国になっている。日本は皆保険制度といって、誰もが安心して医療を受けられる制度が長年続いてきたんですが、コロナ禍を契機に、受診できない状況が当たり前になりつつある。

 あるいは薬がきちんと供給されないっていう問題があってですね。お金が足りないっていう問題も当然考えなければいけない一方、皆保険制度を維持したほうがいいっていう考えもあるわけです。

 例えば、薬ってそれこそ1個の薬が何千万もする薬と、一方1個6円の薬とあるわけです。どちらも、使える状況になっている。高齢の人でもすごく高度な医療が受けられて、1個200万円するペースメーカーを90歳の人でも入れることができるんですね。それが悪いわけじゃなくて、その90歳のおばあさんが1人暮らしで、ご飯が食べられていなくて、ごみの山に住んでいる。本来は、ペースメーカーを入れるんじゃなくて、おうちをきれいにして、ご飯を食べてお風呂に入れるようにしようという話です。お金もかからないし、その人にとっても幸せかなって思うんですけど。

 医療ってこの10年~20年で、分野別に専門化することがすごくいいことだっていう方向で動いてきたので、自分たちの問題を解決すればあとは知らないという状態になっている。心臓が悪ければ、ペースメーカーを入れたらあとは知りませんと。骨折して治ったら、あとは知りませんでは、本人はあまり幸せじゃないんですね。

 でもそこにたくさんの医療費が使われている矛盾があるので、皆保険制度を維持するっていうことを前提に、そういうアンバランスを見直していって、総コストを下げていけばいいと思うんです。生活をちゃんとしていけるように、別の支援とか福祉なども利用しながら。森と木があったら、木の治療ばっかり一生懸命しているんですけど、森全体を見たルール作りになってないんですね。

自衛するしかない時代

【個人としては、どうやって備えればいいんでしょうか】

【倉持】それこそ菅総理が「自助、共助、公助、そして絆」みたいに言ったと思うんですけど、もう自衛するしかない時代になってきたんでしょうね。自分で情報を集めて仲間を守って助け合って、あれば公的な助けを。国自体がそういう方向で動こうとしているので、個人は抗えないんだと思うんですね。

 医療は40兆円とか使っています。医療や福祉ってすごく巨大な産業で、経済界はうまく利用したいと思っている。でも、ちゃんとした医療を受けたい一般の個人はいるわけで、そこのバランスを取っていく。結局、コロナ禍で政治がすごく大事だなって思ったので、どこの党がいいとかはよく分からないですけど、少子高齢化でこれから右肩下がりの時代に入っていく日本の中で、何が大切なのか、きちんと考えてできるように、個人が自衛するしかない雰囲気にはなっていますよね。

【情報を集めて、どこだったら診てもらえるとか共有する。あとは具合の悪い時の助け合いも、今はコミュニティとか近所付き合いがないから困るんですよね。家族とのつながりも遠くて、感染症だったら会えないですし】

【倉持】このコロナの問題っていうのは、時代が変わっていく中で、どういうふうに変えてかなきゃいけないかっていうのを明らかにさせた機会であって、それをきっかけにいい方向にしていくべきだと思うんですよね。

 その1つがSNS上のつながりだったり。あとは私がこのたび、東京にクリニックをつくったのも、そういう声がたくさんあったからですよね。病院で診てほしいけれど、すぐに診てくれないっていう。私は元々東京の大学出身なので仲間もいるし、自分の地元の宇都宮からも通いやすいですから、それだったらできるなっていうことで。東京で少しでも医療がちゃんとできる施設をつくれたらいいかなと思いました。

365日診られる医療機関

【365日、宇都宮でも東京でも診察するのに、人手は大丈夫ですか】

【倉持】普通のホテルとかそういう所は365日開いている。最初からそういう計算で組み立てていけば、できないことはない。ちゃんとシフトが組まれるように人手を集めます。ただ今、どこの業界も人手不足で。集めるしかないし、集まらなければうまくやりくりする。目的は、きちんとした医療をやること、それを365日提供できることだって決まっているので、あとは手段を使って、それができるように条件を整えていけばいい。実はそんなに難しいことではないんですよね。

 お金も借りましたが、貸すほうも返せなかったら貸さないですから。ちょっとずつ返せているから貸してくれるんだと思います。自分が必要と思うことしかやりませんし、やれませんから。できる範囲で。(つづく)

倉持院長プロフィール 1972 年栃木県宇都宮市生まれ。東京医科歯科大学医学部医学科卒業。2015年に呼吸器内科専門のクリニックを立ち上げ、敷地内の別棟に発熱外来を作る。サーズ、新型インフルエンザ等を経験し、栃木には工場があり海外との往来も多いためだった。他に、働き手のために院内保育園を開設、市の病児保育事業もしてきた。

コロナ禍では2020年12月に自院でのPCR検査を開始。その後、PCR検査センターを5箇所に設置(宇都宮・那須塩原・浜松町・大宮・水戸)。2021年3月 コロナ軽症〜中等症専用病棟を10床設置。2021年8月 コロナ患者専用の外来点滴センター開設。2022年4月コロナ接触者用臨時外来(テント、後にバス)設置。著書に『倉持仁の「コロナ戦記」 早期診断で重症化させない医療で患者を救い続けた闘う臨床医の記録』

ジャーナリスト(福祉・医療・労働)、早稲田大研究所招聘研究員

早大参加のデザイン研究所招聘研究員/新聞社に20年余り勤め、主に生活・医療・労働の取材を担当/ノンフィクション「ダンスだいすき!から生まれた奇跡 アンナ先生とラブジャンクスの挑戦」ラグーナ出版/新刊「ルポ 子どもの居場所と学びの変化『コロナ休校ショック2020』で見えた私たちに必要なこと」/報告書「3.11から10年の福島に学ぶレジリエンス」「社会貢献活動における新しいメディアの役割」/家庭訪問子育て支援・ホームスタートの10年『いっしょにいるよ』/論文「障害者の持続可能な就労に関する研究 ドイツ・日本の現場から」早大社会科学研究科/講談社現代ビジネス・ハフポスト等寄稿

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