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ワクチン、マスク「する・しない論争に思うこと」コロナと戦う医師に聞く④

なかのかおりジャーナリスト(福祉・医療・労働)、早稲田大研究所招聘研究員
(写真:イメージマート)

宇都宮市で新型コロナウィルスの治療に年365日体制で対応してきた「インターパーク倉持呼吸器内科クリニック」の倉持仁院長が11月、東京都心部にもクリニックを開く。「その時々で、必要と思うことに取り組んできた」と語る倉持院長。

筆者は、院長と同じ1972年生まれ。院長の発言は炎上することもあるが、筆者はむしろ院長の地域コミュニティでの取り組みや、クリニックの働き手支援に関心を持っている。また、院長はTwitterや著書でコロナ戦記を記してきた。筆者も、2020年に子育て家庭や教育現場がどのような状況にあったか記録・報道して本にまとめており、100年に一度の出来事を後世に伝えることも大事だと思っている。2020年から起きたことと、倉持院長の取り組みを振り返るインタビューを連載で紹介する。

3回目はこちら

検査、症状、流行状況で診断

【前回は、検査やマスク、ワクチンなど、する・しない論争がずっとあると、投げかけられました。それぞれ、先生のお考えを教えてください。今は抗原検査が主ですよね、病院に行っても】

【倉持】私もよくTwitterで言っているんですけど、100人のコロナの患者さんを調べると抗原検査で陽性になる人って40~50%で、ほとんど出ないんです。症状が出ている人でも、半分しか引っ掛からないので、感度が非常に悪いんですね。一方、インフルエンザって7割ぐらいなんですよ。

 インフルエンザの場合は、熱が高い割合のほうが多いので、その周囲の流行状況と患者さんの症状と、そこに検査結果も加味して医師が診断するんです。例えば、奥さんと子どもがインフルエンザで、本人はインフルエンザの抗原検査が陰性でも、熱が8度~9度出てすごくだるそうっていったら、これはインフルエンザだろうって診断するんですね。それがお医者さんの診断なんですよ。

 コロナは症状の幅がすごく広いんです。ひどい人もいれば、軽い人もいる。さらに流行状況がある程度、分かるわけですね。そこで検査をして、抗原検査でもやむなしだし、できればPCR検査をして、その3つの結果をもって医師が診断するんです。今の国が決めたやり方は、症状が軽い人は受診しなくていいですよって。医療機関もそれにのっとっているんです。重症化リスクがある人だけがかかればいいみたいなことを言っていますけど、最初軽かったからって、後遺症が軽いとは限らないんですね。

 本来は、そういう流行状況と症状と検査結果を3つ合わせて診断すべきなんです。どの感染症もそうなんですけど。結核だってそうですし。当たり前にやらなきゃいけないことが、やらなくていいルールに変わってきている。そうすると病院に電話しても、普通の患者さんの予約でいっぱいだからあさって取ってくださいみたいな無慈悲なことを、平気でやるようになったんです。検査、診断、治療が大事だっていうことは、最初から今まで変わってないけれども、なかなか行われていない。さらにワクチン論争、マスク論争がある。

検証すべきことがある

【ここでマスクやワクチンの是非について追求するわけではないのですが、先生はどうお考えですか】

【倉持】どちらも、流行している時か流行していない時か、それがすごく大事なんですよね。当然、状況によります。流行していない時にマスクしたって、そんなに意味ないですよね。インフルエンザも、流行時にマスクをしているから効果が出るわけです。いつのタイミングで着けるのかは、ある程度教えてあげないとわからないでしょう。

 はやっていても、国がしなくていいって言っているからしない人もいる。状況に応じてっていうことが、日本人って苦手だから、ワクチンも同じことなんですね。ワクチンって最初の頃は、効果が非常に高かったんです。私のところで検体を集めて東大に送って解析しているんですけど、株が変わるに連れてワクチンも効きにくくなっているんですね。

 われわれの調査では、抗体価は最初に1回打つと10ぐらい付くんです。それが2回打つと2000ぐらいになる。だけどそのまま何もしないと6カ月で0になっちゃうんですよ。さらに今度3回目を打つと、それが2万から3万に増えるんですね。10倍ですよ。その後は4回打とうが5回打とうが6回打とうが、しばらくたてば0に近くなって、また打てば上がってっていうのを繰り返しているんです。

【医療関係の方はずっと打ち続けているんですか】

【倉持】大体、年に2回ですよね。6カ月たつと、抗体はほとんどなくなっちゃうんです。高齢者とか医療・福祉関係の方は多分、打ったほうがいいんだと思うんです。コロナの株のほうも、例えば肺炎が怖かったデルタ株って抗体価が2回で2000とかあれば、そんなにひどい肺炎にならないんです。

 その2回を打ってるか打ってないかって、すごく大きかったんです。その後のオミクロンになってからは正直、効きが悪くなって感染した人の抗体価を調べると、1万とかあっても感染してる人がいっぱいいるんです。コロナの株自体は、従来株であれば1回、2回打っていれば大丈夫。でもデルタは1回しか打っていないとかかる。足切りラインが2000ぐらいだったのがオミクロンになったら8000とかに変わったんですね。それがBA5になったら、1万とかに上がったんですよ。

【今後、一般人はワクチン接種をどう受け止めればよいでしょうか】

【倉持】オミクロンが流行した時、日本と中国でしか流行してなかった。だから「海外ではマスクを着けてないのになんで日本だけ着けて、ばかじゃないか」って言う人がいて、いや、それは海外でははやっていないんだから気にしないのは当たり前だし、日本は世界で2番目か3番目にはやってるんだから、気にするのは当たり前でしょうっていう話でした。

 最近になって新しい株が出てきて、XBBからの派生株がまたアメリカとかで流行し出してるんですね。アメリカは何をするかっていうと、すぐPCR検査してすぐゲノム解析してワクチンの効果を検証するんですよ。あるいは薬の効果をすぐ検証する。そういう前向きな情報収集、それに基づいた行動計画をやっているんです。

 一般の方は、今は検証・説明がされてない状態でさらに打っても仕方ないんじゃないかと、私は思います。今度、新しいワクチンを打つと言っていますけど、今また幾つかの違う株が増えてきてるんです。その株が広がるか、違う株に変わっていく可能性も十分あるので。さらに言うと強くなっていて、ワクチンの抗体がどのぐらい効果があってっていうのも、検証しなきゃいけない話なんです。実際に患者さんを診て、測って検証すると分かる。それをちゃんとやることが大事で、そもそも検査しなくていい、定点観測でいいとするのは、必要なことをしていない状況なんですよ。(つづく)

倉持院長プロフィール 1972 年栃木県宇都宮市生まれ。東京医科歯科大学医学部医学科卒業。2015年に呼吸器内科専門のクリニックを立ち上げ、敷地内の別棟に発熱外来を作る。サーズ、新型インフルエンザ等を経験し、栃木には工場があり海外との往来も多いためだった。他に、働き手のために院内保育園を開設、市の病児保育事業もしてきた。

コロナ禍では2020年12月に自院でのPCR検査を開始。その後、PCR検査センターを5箇所に設置(宇都宮・那須塩原・浜松町・大宮・水戸)。2021年3月 コロナ軽症〜中等症専用病棟を10床設置。2021年8月 コロナ患者専用の外来点滴センター開設。2022年4月コロナ接触者用臨時外来(テント、後にバス)設置。著書に『倉持仁の「コロナ戦記」 早期診断で重症化させない医療で患者を救い続けた闘う臨床医の記録』

ジャーナリスト(福祉・医療・労働)、早稲田大研究所招聘研究員

早大参加のデザイン研究所招聘研究員/新聞社に20年余り勤め、主に生活・医療・労働の取材を担当/ノンフィクション「ダンスだいすき!から生まれた奇跡 アンナ先生とラブジャンクスの挑戦」ラグーナ出版/新刊「ルポ 子どもの居場所と学びの変化『コロナ休校ショック2020』で見えた私たちに必要なこと」/報告書「3.11から10年の福島に学ぶレジリエンス」「社会貢献活動における新しいメディアの役割」/家庭訪問子育て支援・ホームスタートの10年『いっしょにいるよ』/論文「障害者の持続可能な就労に関する研究 ドイツ・日本の現場から」早大社会科学研究科/講談社現代ビジネス・ハフポスト等寄稿

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