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ヤングケアラーが注目され…不登校・貧困・孤立に寄り添う「子どもの居場所」

なかのかおりジャーナリスト(福祉・医療・労働)、早稲田大研究所招聘研究員
(写真:イメージマート)

 2020年、コロナの感染拡大予防のために、学校が突然休校になってから3年。この5月、感染症法上の位置づけがインフルエンザと同じ5類になった。マスク着用が任意となり、学校行事が開かれ、少しずつコロナ前に戻ろうとしている。だが、インフルエンザ・コロナ等の流行や物価高、最多となった不登校など、心がざわつく材料はなくならない。オンライン教育やテレワークの選択肢が加わり、働き方や生活の価値観も変わった。連休の際は「夫ストレス」というワードがトレンド入りし、家族の距離感も難しい。

 そのような転換期の今、2020年にコロナ禍における子どもへの影響を調査した大阪府立大学(現大阪公立大学)の山野則子教授にインタビューし、親や子が受けた影響を振り返る。ヤングケアラー等、コロナ禍であぶり出された課題は、もともとの社会課題でもあり、改めて整理したい。3回目は、ボランタリーな居場所の大切さを考える。

調査概要が記載された2回目はこちら

コロナ禍に注目されたヤングケアラー

【調査結果を受け、オンラインカウンセリング導入や教育・福祉との連携、スクリーニングの導入等の政策提言がありましたね。3年たった今、改めてどんな対策が必要なのでしょうか】

【山野教授】コロナ禍があったから、ヤングケアラーも注目されるようになったわけです。政府は、ヤングケアラーが注目されたらヤングケアラー室をつくります、自殺が注目されたら対策室をつくります、みたいになるんです。そして、子どもがヤングケアラー室に行くかというと、行きづらいですよね。自分はヤングケアラーだって本人が思っていない場合も多いし、あなたはヤングケアラーですよって言われるのも酷だと思うんです。

 大事なお母さんをかばって、守っている子もいる。ヤングケアラーだと認めれば、自分が学校へちゃんと行けていないとか、家事をいっぱいやらされているとか、親の悪口になるから言いにくい。なので、見える化することは大事なんですけど、看板を上げて、どんどん相談を上げなさいみたいな政策より、自然に寄り添う政策が必要だと思います。

 例えば、学校にスクールソーシャルワーカーや福祉的な支援を入れて、自然に子どもたちに寄り添って、「こんな制度やサービスを使えるよ」って伝える。ヤングケアラーだと分かったら、特別扱いではなく、お母さんに「こんなヘルパーの制度があります」って自然に言えるほうがいい。

 私は孤立・孤独対策の政府の委員もしています。どんなテーマでも、相談機関への相談件数は大きくは上がらないです。この調査もそうですが、どこに相談しますかって聞いたら、パートナーと保護者が圧倒的で、関係機関と言う人は10%未満なんです。つながらない、拾い上げられていないことに、問題意識を持つべきです。

 前回お話したようなスクリーニングを学校に導入したり、ソーシャルワーカーを子どもたちのそばに充実した形で置いたりすることで、ヤングケアラーの発見をミッションに入れたほうがいい。相談機関を作り、数%の来談者に予算を使うよりも、すべての子どもがいる学校に仕組みと人材を入れる方が、私は有効だと思います。

 例えば道にベンチをいっぱい作ることで、「ちょっと座ってしゃべろうか」という人が自然に増えますよね。近場で人々が話せる場を、どうやってつくるかだと思うんです。子ども食堂も、全小学校区に一つつくる、こんなことにお金を使ってほしいなと思います。

 NPOとか、居場所も、ヤングケアラーの子だけが来るわけじゃない。貧困家庭の子も来れば、非行の子も来るわけです。だから、まずはいろいろな子が行ける場所が、小学校区にできるほうがいいと思います。そこから専門相談につなぐことはあるでしょう。

学校を活用したプラットフォーム

 私たちは、民間の居場所がどんなに有効か、沖縄の調査で示しています。自分に自信があると回答した子どもたち(ある年齢のすべての子ども)は、小学校5年生で15.6%しかいない。居場所に来ている子は、同じ小学校高学年で30%なんです。倍ぐらい自分に自信を持ててるんです。中学生も同じく、倍ぐらい自分に自信が持てている。

 居場所は、みんなボランタリーに運営しています。子どもが放課後に立ち寄り、ランドセルをぽんって放ったら、「お帰り」って言って、愛情いっぱいに接してくれる。こういう普通の、近所のおじさん、おばさんとの関わりが子どもたちを安心させる。特別なセラピーやカウンセリングではなくて、予防です。予防の層の子は30%いる。児童相談所に送られている子は1~2%なんです。30%の子に、愛情をいっぱい注いでほしいです。

 放課後の学校で、モールのように、ここでは学習支援を行う、ここでは子ども食堂を行う、ここでは親の就労支援を行う、など「学校プラットフォーム」という構想を提案しています。ばらばらの取り組みを合わせて、見えるようにして、小学校で行う。いくつか実践している学校もあります。学校という場には、スクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカーなど専門家チームもいますし、コミュニティスクールや家庭教育支援の拠点になっている学校もあります。

 家に帰ると、テレビとにらめっこで終わってしまう子が、学校にそのまま残るだけで、食事も出て、豊かな放課後を過ごせる。学校で子ども食堂を行えば、誰が来ているかわかるし、気になる子は先生がつないだり、来ていなかったら呼びに行ってくれます。民間の人たちと学校の先生と、みんなが協力し合っています。こうしたやり方も取り入れていけば、子どもの居場所が増え、放課後の生活が豊かになります。

山野則子研究室 Web サイト

http://www.human.osakafu-u.ac.jp/ssw-opu/profile-noriko-y/

【取材後記】

 山野教授らの調査は、コロナ禍に親や子がどのように追い込まれたかの貴重な記録だ。「数年経ってから、様々なゆがみが出てくる」という指摘も、その通りだと思う。休校や、制限された生活から見えてきた子育て家庭の課題は多く、現在は不登校や自殺の増加、物価高など、新たな問題に直面している。

 筆者は、休校中に小学生の娘との生活を記録した。食の支援や子どもの居場所について2020年に公開した報道記事とその記録をまとめ、「ルポ子どもの居場所と学びの変化『コロナ休校ショック2020』で見えた私たちに必要なこと」として出版した。100年前のスペイン風邪の記録が今、参考になるように、後世に伝えたいと思った。今年1月には、JFN系列のラジオ番組「OH! HAPPY MORNING」内で、コロナ休校から3年について、パーソナリティの井門宗之さんとお話した。井門さんやディレクターさんも父親として、思いがあるという。メディア内に、そうした問題意識を忘れない当事者がいることは素晴らしいと思った。

 2020年の休校中は、子どもの居場所や給食がなくなり、子育て家庭や学校現場に大きな影響を及ぼした。学校再開後も、子どもの生活は変わり、様々な影響が出た。2021年度には、不登校の小中学生が過去最多の24万4940人に。文部科学省は、2020年の休校によって、生活リズムが崩れ、学校再開後も運動会や遠足といった活動が制限されたことなどが、最多の背景にあると見ている。

 コロナの休校は、学校という場所を、考え直す機会でもあった。 現在は小中学生にタブレットが配布され、オンライン教育の選択肢が広がった。学ぶこと自体は、オンラインや自宅でもできるけれども、子どもは学校という場を通して、リアルな人間関係を学ぶ。また、ヤングケアラーのように、困窮家庭で家事を背負う子、共働きで十分な食事を取れない子は、学校の給食が大事な栄養源になっている。学校というリアルな場を保ち、感染症や災害に備え、オンラインコミュニケーションも整えておく。両方の選択肢が大事だと思う。

 山野教授の「福祉の制度は申請主義で、厳しい家庭ほど情報をキャッチしにくい。学校を通してプリントを配布すると、すべての家庭に届く」という指摘に共感した。

第三の居場所と学校の活用

 学校以外の「子どもの居場所」も、不可欠だ。子ども食堂や、地域に開かれた子どもイベント、ティーンエイジャーの駆け込み寺といった第三の居場所は、本当に必要だと思う。現場を取材すると、民間の方たちの努力で成り立っている部分が大きく、地域により格差が大きいのが課題ではある。

 例えば、居場所のキーパーソンとなる方が、ネットワークを築き、各方面の理解と支援を受けながら進める地域もあれば、ほとんどこうした場がない地域もある。やる気があるのに、場所が借りられない、資金や人手がない、継続が難しいという話も聞く。

 関連して、児童館や図書館といった公共施設が、スタッフを交代制で確保する工夫をして、常時オープンしていたら、とコロナの休校・自粛中に思った。近場にあり、平時も立ち寄りやすい居場所の一つだからだ。

 今回、山野教授に、「学校プラットフォーム」という居場所のアイデアを聞いて、大きな可能性を感じた。

 筆者は、小学校内に行政が設けた居場所に利用登録し、とても助かっている。子どもの年齢制限を超えても、ワンオペで就労している旨を行政に届け出て、許可された。子どもが骨折して留守番させられない時や、出張で遅くなる日に、ありがたかった。

 ただ、学童保育も含め公的な居場所では、簡単なおやつはあるが、食事や学習支援などはお願いできない場合が多い。学校という施設を利用しての「学校プラットフォーム」の構想は、必要なサポートが用意されている。関わる人たちと学校との調整は必要かと思うが、子どものために何かしたいというシニアが活躍する機会にもなりそうだ。その構想が知られ、選択肢の一つとして広がってほしいと願う。

ジャーナリスト(福祉・医療・労働)、早稲田大研究所招聘研究員

早大参加のデザイン研究所招聘研究員/新聞社に20年余り勤め、主に生活・医療・労働の取材を担当/ノンフィクション「ダンスだいすき!から生まれた奇跡 アンナ先生とラブジャンクスの挑戦」ラグーナ出版/新刊「ルポ 子どもの居場所と学びの変化『コロナ休校ショック2020』で見えた私たちに必要なこと」/報告書「3.11から10年の福島に学ぶレジリエンス」「社会貢献活動における新しいメディアの役割」/家庭訪問子育て支援・ホームスタートの10年『いっしょにいるよ』/論文「障害者の持続可能な就労に関する研究 ドイツ・日本の現場から」早大社会科学研究科/講談社現代ビジネス・ハフポスト等寄稿

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