Yahoo!ニュース

「心身の負担増えた保護者は4人に1人」夫婦間ストレス、子育ての課題… コロナ禍で可視化

なかのかおりジャーナリスト(福祉・医療・労働)、早稲田大研究所招聘研究員
(写真:アフロ)

 2020年、コロナの感染拡大予防のために、学校が突然休校になってから3年。この5月、感染症法上の位置づけがインフルエンザと同じ5類になった。マスク着用が任意となり、学校行事が開かれ、少しずつコロナ前に戻ろうとしている。だが、インフルエンザの流行や物価高、扶養控除・所得制限の問題、最多となった不登校など、心のざわざわはなくならない。オンライン教育やテレワークの選択肢が加わり、働き方や生活の価値観も変わった。連休の際は「夫ストレス」というワードがトレンド入りし、家族の距離感も難しい。

 そのような転換期の今、2020年にコロナ禍における子どもへの影響を調査した大阪府立大学(現大阪公立大学)の山野則子教授にインタビューし、親や子が受けた影響を振り返る。制限された生活のひずみは、後になって現れてくるという。コロナ禍であぶり出された課題は、もともとの社会課題でもあり、改めて整理したい。1回目は、「パートナーと過ごす中で、心身の負担が増えた保護者は4人に1人」との調査結果から見えることを伺った。

2021年4月5日、大阪府立大学人間社会システム科学研究科・山野則子教授らが厚生労働省からの委託により調査した「令和2年度 厚生労働科学特別研究事業 コロナ禍における子どもへの影響と支援方策のための横断的研究」の概要が発表された。

保護者と子どもに関してわかったことのポイントは①高いストレスをもつ子どもが約3割強②休校解除後に学校に行きづらいと感じる子どもが約3割③精神的・身体的・その他の負担が増えた保護者は4人に1人など。DV・虐待・不登校といった「見えないリスク」が可視化された。

教育委員会に寄せられた相談では、感染の深刻な地域において、貧困関係相談が急増し、一時保護所入所が学校再開後に急増。児童相談所における子どものゲーム依存の相談、性的な問題、DV に関係する相談が増えた。

山野教授が研究代表者を務め、兵庫県こころのケアセンター亀岡智美副センター長・研究部長、花園大学和田一郎 教授、会津大学短期大学部鈴木勲准教授、大阪府立大学木曽陽子准教授、伊藤ゆかり研究員、小倉康弘研究員等が協働して、新型コロナウイルス感染症と保護者や子どもへの不安・負担を保護者、子ども、行政機関に調査し、分析した。

【調査実施日】本調査:2020年10月29日~2020年10月30日 ・ 追加調査2020年11月25日~2020年11月26日

●親の負担

 山野教授らは、2020年に3か月の休校があった後に、いち早くこの調査に取り組んだ。保護者から回収できた数が2582で、子どもが1032、プラスして相談機関から2198の有効回答があった。

【筆者・私自身、小学生の子を抱え、休校中もワンオペ育児で、心身が厳しかったです。子どもを見なければいけない親は、どのような状況にあったのでしょうか】

【山野教授】親のほうの結果で言うと、まず雇用環境で変化があった。どんな人が変化があったかというと、貧困層のほうが負担が多かった。年収で言うと、200万未満の方が、変化が大きかったということですね。時給の仕事をしておられる方が多いと思いますので、200万未満、400万未満になると、よりしんどかったっていう結果でした。仕事が減った、なくなったという方も多いと推測される。

グラフは全て山野教授のWebサイトより
グラフは全て山野教授のWebサイトより

 あと、パートナーとの関係で4人に1人の保護者は、何らかの負担を感じていて、これは結構な数です。大学生が、テレワークでお父さんも家にいることが多くなって、すごくストレスフルだ、家に居場所がなくなったという話もあり、まさにそういうことです。

 身体的負担、つまり家事が増えたとか物理的・肉体的負担を感じる保護者は11.4%なんですけど、精神的負担を感じるのはその倍ぐらいで22.4%います。ストレスっていうことですよね。

 それと、親と子どもとでギャップがあった。親もストレスフルで、子どももストレスフルで、家に居場所がないって感じる子どもが困っていたんです。親御さんはあまり気付いてない。調査結果を見ると、大体、親のほうが大人ですから、食事や生活リズム、学習などに配慮していろいろ見てる。なのに、子どもの居場所がないと感じることには、親は気付いていない。親はそんなに気にしてないけど、子どもは居場所に困っている状況でした。

 その他に、調査から見えるのは、親の精神状態を測る尺度と、子どものストレスレベルがきれいに相関する。親御さんの精神状態が良くない子どもさんは、明らかにストレスが高いんです。

●しんどい家庭ほど情報なく

 あと、保護者調査で、親がすごく孤立しているのが見えました。

 コロナ禍に、情報を伝えてくれる人がいない。3年前、いろんな給付金が、政府から出されたじゃないですか。経済的にしんどい人が、ちゃんと給付金を申請に行ったのかっていう話なんです。しんどい家庭ほど、情報がゲットできていなかった。当時は、収入が高い人のほうが、申請に行っている割合が高かったんです。

 家賃の手当とか、収入が減ったことに対する補塡(ほてん)、貸付金とか、そういうものですね。年収の少ない保護者は、情報の得方が分からない。そこに気持ちがいかないというか、もう目の前のことでいっぱいいっぱいで、余裕がなかった。

【特に経済的に厳しい家庭に、影響があったということなんですね】

【山野教授】政府の制度で、保険料減免とか、いろいろあったんですけど、例えば子育て世帯の臨時給付金。年収600万から800万の層は、受け取った人が多いっていうデータがあります。

 該当する人が、自分で申請に行かなければなりません。該当するとか、こういう制度があるとかっていう情報をゲットしていないと、行くことができない。

 私も政府に、アウトリーチ型支援を意見しました。ようやく、今、あなたはこれが申請できますよっていう情報が、マイナンバーを持ってる人には届けられる、そんなことが始められました。

 調査から2020年当時の実態は、年収200万未満のしんどい層は、その情報にアクセスできていなかったというのが分かる。10万円の給付金はありがたいはずですけど、その層の15%ほどの方が申請していないのです。

●学校を通すと全ての家庭に届く

【私が取材した、夜のお仕事のシングルマザー支援を始めた夫妻は、行政に相談して、利用できる支援は全て把握していました。でも、様々な支援制度が縦割りですね】

【山野教授】縦割りの中、一番迅速に対応できていたのは、実は教育委員会なんです。学校っていうのは、プリントを全家庭に配布してるじゃないですか。私がなぜ学校に着目してるかっていうと、全ての家庭に届くからなんです。

 福祉は申請主義なので、情報が全員に届かない。でも、教育委員会から全校に福祉のことを知らせてくれたら届くんです。教育委員会に寄せられる貧困関係の相談、つまり授業料減免とか奨学金とか、いっぱいありました。うちの大学でもかなりの申請がありました。学校を通すと、届くんです。

 学校からプリントを配布して、そのプリントの窓口が教育委員会になってるので、教育委員会に連絡が行く。奨学金だったり授業料減免だったりっていう、教育に関する費用の相談です。教育委員会で生活相談はしていないので。

 でも、今回の関係機関調査で分かったのは、教育委員会のようにニーズに合わせた児童相談は増えていないんです。例えば、児童手当だったり、お金に関する福祉窓口の相談件数は、増えていない。

 とにかくこのアクセスの違いを知ってほしいです。福祉の制度は申請主義で、経済的に厳しい家庭はキャッチできない、抵抗があるなどで手を挙げてないのですが、学校を通してプリントを配布すると、経済的に厳しい家庭も含めすべての家庭に支援の情報が届くから、手が挙がるっていうことです。(つづく)

ジャーナリスト(福祉・医療・労働)、早稲田大研究所招聘研究員

早大参加のデザイン研究所招聘研究員/新聞社に20年余り勤め、主に生活・医療・労働の取材を担当/ノンフィクション「ダンスだいすき!から生まれた奇跡 アンナ先生とラブジャンクスの挑戦」ラグーナ出版/新刊「ルポ 子どもの居場所と学びの変化『コロナ休校ショック2020』で見えた私たちに必要なこと」/報告書「3.11から10年の福島に学ぶレジリエンス」「社会貢献活動における新しいメディアの役割」/家庭訪問子育て支援・ホームスタートの10年『いっしょにいるよ』/論文「障害者の持続可能な就労に関する研究 ドイツ・日本の現場から」早大社会科学研究科/講談社現代ビジネス・ハフポスト等寄稿

なかのかおりの最近の記事