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孤独な子育てを防ぐには

なかのかおりジャーナリスト(福祉・医療・労働)、早稲田大研究所招聘研究員
「孤育て」をしている親は少なくない(写真:アフロ)

もうすぐ入園や入学の季節。育休から復帰する人も多い。私も娘の入学で、準備や学童保育の申し込みに戸惑い、変わる生活に緊張している。先日、子どもの病気や時短勤務の記事を出したところ大きな反響があった。渦中にある人、不安を抱える人の多さに驚き、周囲の人も含め、情報が届けばと思った。今回は、孤独な子育てを経験して考えたこと、どうやって過ごしてきたかを紹介する。

「孤育て」(子育て支援NPOサイトに連載した「アラフォー初めてママのときどきドキドキジャーナル」より)

元アナウンサーのAさんは同じくアラフォーのママ。先日、離婚に関する報道を目にしました。コメントは「彼は家族のためにも一生懸命働いてくれているのですが、子育てに孤軍奮闘している私は、彼と共有できるものがまったくない寂しさにたえきれなかった」という内容。私は「孤軍奮闘」という言葉に共感してしまいました。

「夫がいるのに独りぼっち」

「孤育て」という言葉があるそうですが、子育てに孤独を感じるママは少なくないのではないでしょうか。仲間や家族もいるはずなのに、生活に困っているわけでもないのに、孤独。

何人かのママからも「夫がいるのに、ひとりぼっちで子育てしているみたい」「ふたりの子に恵まれたけど、子育てが楽しい!って言えない」と聞きました。

私も、孤育てを実感するできごとがありました。先月、2歳の娘が40度まで上がる夏かぜの一種にかかりました。発熱がわかった深夜にネットでクリニックと病児保育を予約。朝、会社と保育園に連絡を入れて娘をクリニックに連れて行き、病児保育のシッターさんにお願いし、遅れて出社しました。

病児保育頼むも40度で呼び出し

すると病児保育のオフィスから電話があり、「熱が上がった」とのこと。夕方になってからは「40度になってしまったので、早く帰って下さい」。連絡があってすぐ帰れればいいのですが、仕事で担当がついているので、もどかしかったです。1時間ぐらいして、周囲にお願いしてなんとかかけつけました。

病気の子を預けて、仕事なんて…と思うかたもいるでしょう。育休から復帰するまでは、「子どもの病気は仕方ない。休んだり早退したりしても、許してもらえるのでは。そういうママは多いのだから」と思っていました。

ところが復帰後。娘の病気に加え、私もうつって体調不良が続き、休んでいたら、上司に繰り返し注意されました。職場のママたちに聞くと、自分の親や義理の親に駆けつけてもらうか、夫が融通をきかせている。身内に頼めない人は病児保育を利用していて、会社を休むママがいなかったのです。

初めてママ、子の高熱に恐怖

仕事を休めないという事情のほかに、心理的な面もあります。初めてママは子どもが高熱を出したらどうしていいかわからない。病児保育を頼めず、自分ひとりで看病しなければならないとしたら、それも恐怖。

私は、朝に受診したクリニックの看護師さんに、夕方も「熱が下がらなかったらどうしたらいいですか」と聞きました。水分がとれなかったら救急だけど、解熱剤を使って明日の受診まで耐えて…と言われ、その言葉を支えにしました。

娘が小さいころ、一緒に作ったクッキー
娘が小さいころ、一緒に作ったクッキー

夫は出張・残業続き

心の中に「孤育て」という言葉がどーんと浮かんできました。夫は泊まりの出張に行っていました。帰りも遅く、その後も残業続き。うつったのか看病疲れか、私も週末に熱を出しましたが、夫は持ち帰り仕事が忙しいと言います。

我が家は娘が1歳過ぎまで夫が海外に単身赴任していました。育休中はひとりで育てたのですが、ママが仕事をしながら、しかも病気をしてしまうと大変さがまた違うんです。

スーパーマザーになるしかない?

ママは子育てのためお給料が減っているし、「夫が稼いでくれるのだから」という見方もありますが、収入で単純に家事や育児を割り振れるものではありません。でも実際は、子どもが病気になると有給休暇や看護休暇を使い切り、看病で寝不足になるのはママ。シッターの手配や変更で神経をつかい、理解のない相手に傷つくのもママ。

働いて子どもに愛情を注ぎ、家のことの細かいフォローもして、あちこち頭を下げて、というスーパーマザーになるしかないのでしょうか? 仕事を最優先するパパが多いのは、個人の価値観もありますが、「ママである女性が子どものこと、家のことは背負ってあたりまえ」という雰囲気が、まだまだ職場にもあるからだと思います。

「だれも頼れない」抱っこして涙

娘を抱っこしながら、安心してママのフォローを頼める人はだれもいないという事実に、涙が出ました。

「共働きなんだし、お金で解決できるよね」という人もいます。もちろん、助成もあって頼めるシッターさんなどは、他人なのに娘に優しく接してくれて本当にありがたいです。だけど、やはり子育てはお金では解決しきれない。時間やお金で区切れない、安心や愛情が必要なのです

そうなると身内が一番ということになりますが、高年齢出産だと祖父母も高齢。病気のたびにかけつけて孫の世話をしたり食事を作ったりというのは、心身が健康で余裕があるとか、近くに住んでいるとかでないとむずかしいのが現実です。

同じマンションの家族にいただいたお下がり。こうした心遣いに救われた
同じマンションの家族にいただいたお下がり。こうした心遣いに救われた

性格や職場の理解にもよる

昔なら、近所の人や親類が助けてくれるということがあったはず。マンションや保育園で一緒のママさんたちとは、困ったときに助け合う関係ではありません。いっときは、年上ママの「おせっかい」として、子どもを遊ばせながらおしゃべりする会を企画したのですが、なかなか集まらない…。

身内で完結していて交流を求めていないか、ママがしっかりしているのでしょう。パパが単身赴任中で仕事しながら姉妹を育てているママに聞くと、特に困っていないみたいです。ママの性格にもよるし、職場にものすごく理解があるか自分の裁量で加減できるなら、孤独感もそれほどつのらないかもしれません。

SNSでちょっとやりとり

せつない話を続けてしまいましたが、孤独な気持ちをやわらげるために工夫していること。メールやSNSなどは、あなどれません。みんな子育てや仕事に忙しくても、遠くにいても、子どもが寝ついたちょっとした時間にやりとりするとスッとします。「熱が出ちゃった」「大変だね」だけで心強い。返事がないと寂しいので、期待しすぎずに。

あとは近所で顔見知りのママに会ったら、負担にならないノリで短い時間でも会話する。「うちも同じ!」「いやなことに目を向けちゃダメ」など話がはずみ、ちょっと楽になりますよ。

ファミサポがご近所さん代わり

最近は、ファミリーサポートさんに時々、娘を預かってもらいます。共働きで、パパとママが助け合って分担している家庭。小学生の娘さんとパパが娘のお迎えに行き、自宅で妹みたいにかわいがってくれます

ママに「出張が多くて、あまり預かれなくてごめんなさい」と言われたのですが「月に1回でもおつきあいいただけたらうれしいです。昔は自然な近所づきあいがあったのでしょうが、いまはこういう形になりますよね」と伝えました。

家庭の状況は変わっていくので、こうした関係も一期一会。大事にしたいです。

このファミリーサポートのご家族には、娘が2歳から2年間、保育園のお迎えや自宅での預かりをお願いした。会社勤めと娘の病気に一番、苦労していた時期で、私は心身ぼろぼろ。重くならない範囲で相談にのっていただき、娘に温かい家庭を体験させてくれた。初めてパパの夫も、先輩パパの背中を見て学んだ。お互いの仕事の変化でファミサポの利用は終了になったが、近所で顔を合わせたり、家族で食事会をしたり。今も大事なご近所さんであり、娘にとってもう一つの家族だ。

ジャーナリスト(福祉・医療・労働)、早稲田大研究所招聘研究員

早大参加のデザイン研究所招聘研究員/新聞社に20年余り勤め、主に生活・医療・労働の取材を担当/ノンフィクション「ダンスだいすき!から生まれた奇跡 アンナ先生とラブジャンクスの挑戦」ラグーナ出版/新刊「ルポ 子どもの居場所と学びの変化『コロナ休校ショック2020』で見えた私たちに必要なこと」/報告書「3.11から10年の福島に学ぶレジリエンス」「社会貢献活動における新しいメディアの役割」/家庭訪問子育て支援・ホームスタートの10年『いっしょにいるよ』/論文「障害者の持続可能な就労に関する研究 ドイツ・日本の現場から」早大社会科学研究科/講談社現代ビジネス・ハフポスト等寄稿

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