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ジャニーズ事務所の会見が示すもの。そして、一人の記者として覚えた大きな違和感

中西正男芸能記者
(写真:アフロ)

故ジャニー喜多川氏の性加害問題に対する2回目のジャニーズ事務所の会見が2日、行われました。

●これまでのジャニーズ事務所は補償専門の会社になる。新しい会社を作って、そこにタレントやマネジメント機能を移す。

●これまでのジャニーズ事務所の名称は「SMILE-UP.」に変える。新しく作った会社の名称はファンクラブによる公募で決める。

新しく出た具体的な話としては、突き詰めれば、上記の二つだったと思います。

無論、被害者の方々の話にはセンシティブな領域も多々ある。それは容易に想像できます。ただ、それでも

●何のお金を使って、どれくらいのお金を用意して、どういった形で補償に乗り出すのか。

このあたりの明確な話が出ない限り、この話はずっとフワフワしたままになってしまいます。言わずもがな、明確に被害者がいる話である以上、補償は一番大きな問題です。

ジャニーズ事務所という慣れ親しんだ名前がどう変わるのか。そこに注目が集まるのも心情的には分かります。

ただ、一連の騒動の中で、社名がどうなるかは枝葉末節。あくまでも、幹は被害者とどう向き合うのか。そこに尽きます。

注目度と重要度は違う。よくある話ではありますが、枝葉の部分にばかり目がいくことは、決して望ましいことではないはずです。

そして、ここから先は性加害問題の本質とは少し離れるかもしれませんが、僕が一人の記者として首をかしげたのが会見に出席した報道陣の話です。

記者も十人十色。雇用形態も、考え方も、立場も、お金のもらい方も、センスも、何を是とするかも違います。なので「これが正解」というものはありません。

ただ、それを踏まえた上で、違和感を覚えたことが二つありました。

一つは会見の何たるかのはき違え。

もう一つが井ノ原快彦さんへの拍手でした。

「これは聞いておかなければならない」「“本当のこと”を伝えるために、ここは引くわけにはいかない」

そういった気概で食い下がったり、声を荒らげている人もいらっしゃったとは思います。ただ、中には「それは質問ではなく、あなたの意見でしょう?ここは会見であり、あなたの感想を発表する場ではないのですよ」という思いが噴出するような“質問”も多々見受けられました。

限られた時間の中で、そういったことで時間を費やす。それが生み出す不満の渦もあったと思います。

記者が取材で質問をするのは「本当のこと」を読者に届けるため。自分の欲を満たしたり、自分の株価を上げるためではありません。日本中の注目が集まる場で「しっかり言ってやった」という満足感を個人が得る。会見はそんなことのために作られた場ではありません。

今回の会見には約300人の報道陣が参加しました。それだけ集まれば、いろいろな人がやってきます。そして、重ねて綴りますが、記者も十人十色です。ただ、それでも、首をひねるしかない場面が幾度となくありました。

そして、もう一つが報道陣からの拍手です。これも終盤でしたが、報道陣から出る荒れた空気に対して井ノ原さんが口を開きました。

「会見は生放送されていて、子供たちにも伝わります。自分にも子どもがいます。被害者の方々も見ています。だからこそ、被害者のことでもめている大人の姿を見せたくない。どうか、落ち着いてください」

これ自体は、非常に血の通った言葉だったと思いますし、会見場に染みわたりました。だからこそなのか、そこで一部の報道陣から拍手が起こりました。

正直、その瞬間に会見の“値打ち”がグッと目減りした。そんな残念な気持ちが込み上げてきました。

今年1月、投資トラブルを受けて会見した「TKO」木本武宏さん。その会見後、僕は「『TKO』木本武宏さん会見に見る“会見の意味”と“記者の意味”」という記事をYahoo!拙連載でアップしました。

タイトル通り、その会見に自分は二つの疑問を感じた。一つは木本さんの相方・木下隆行さんが途中から出てきて会見を盛り上げたこと。これはあくまでも木本さんの釈明及び謝罪会見であり、コンビとしての「これからもヨロシク会見」ではないということ。

もう一つは、会見後に一部報道陣から拍手が起こったこと。精いっぱい会見をやり切った。そして、深々と頭を下げた。中にはお二人と個人的に懇意にしている取材者もいる。そんな状況もあいまって、拍手を送った人が一部いた。

拍手をした人はお二人へのエールのつもりで手を叩いたのかもしれませんが、そんなところで取材者が手を叩いて労をねぎらうようなことをしては、むしろ、それまでお二人が一生懸命作り上げてきた場を、一気に茶番にしてしまう。

記者は誰の敵でも味方でもない。本当のことを掬い取り、それを広く知らしめるために存在するはずなのに、そこで手を叩いて磁場を狂わせてどうするのか。

話を今回の会見に戻すと、井ノ原さんの言ったことは正論です。流れに合致もしていたし、冷静にスパッと言葉を出す井ノ原さんは実に達者だと思います。

しかし、そこで取材者が手を叩いてしまっては、その場が記者会見ではなく、ファンミーティングになってしまいます。

とはいえ、取材する側にあらゆるフラストレーションがたまり、衝突が起こる場になった背景にあるのは、質問に対してスッキリさせる答えが少なかった。これも一因だったと思います。

一回の会見で全てを伝えきる難しさ。それを噛みしめる場にもなりましたし、ジャニーズ事務所が解決すべき点の途方もない多さ。そこも再認識することとなりました。

芸能記者

立命館大学卒業後、デイリースポーツに入社。芸能担当となり、お笑い、宝塚歌劇団などを取材。上方漫才大賞など数々の賞レースで審査員も担当。12年に同社を退社し、KOZOクリエイターズに所属する。読売テレビ・中京テレビ「上沼・高田のクギズケ!」、中京テレビ「キャッチ!」、MBSラジオ「松井愛のすこ~し愛して♡」、ABCラジオ「ウラのウラまで浦川です」などに出演中。「Yahoo!オーサーアワード2019」で特別賞を受賞。また「チャートビート」が発表した「2019年で注目を集めた記事100」で世界8位となる。著書に「なぜ、この芸人は売れ続けるのか?」。

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1999年にデイリースポーツ入社以来、芸能取材一筋。2019年にはYahoo!などの連載で約120組にインタビューし“直接話を聞くこと”にこだわってきた筆者が「この目で見た」「この耳で聞いた」話だけを綴るコラムです。最新ニュースの裏側から、どこを探しても絶対に読むことができない芸人さん直送の“楽屋ニュース”まで。友達に耳打ちするように「ここだけの話やで…」とお伝えします。粉骨砕身、300円以上の値打ちをお届けします。

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