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吉本興業退社。大﨑洋会長の言葉からにじみ出ていた本気と本音

中西正男芸能記者
今年3月29日、インタビューに応じる吉本興業の大﨑洋会長(撮影・中西正男)

吉本興業の大﨑洋会長が同社を退社するということが明らかになりました。

これまで何度か拙連載でインタビューをしてきましたが、最も近いところで今年3月29日。東京・新宿の同社でお話を聞きました。

大﨑会長が著書「居場所。」を上梓したタイミングで、自らの居場所、今後の居場所を軸にうかがいました。

企業のトップのインタビューながら、質問の事前確認やNG事項などは一切なし。原稿チェックを厳重に行う。そんな流れも僕は経験したことがありません。

「自分がしゃべったことはそのままどうぞ書いてください」。潔さと自分の言葉に対する責任感を痛感する取材でもあります。

3月の取材メモから抜粋した大﨑会長の言葉を記します。

今年で70歳になります。60歳の時は「まだまだや」という思いでした。赤いちゃんちゃんこなんて要らないし、還暦パーティーも要らない。体も元気やし、ご飯もみんなと同じように食べられるし、わざわざ立ち止まって噛みしめるような節目でもないと感じていたんです。

ただ、今回は違いました。区切りをつけるべき歳になったと思っています。

周りの人は気を遣ってくれますから「大﨑さんはまだまだ若いですよ」とも言ってくれます。でも、正味の話「この前、ご飯を食べに行ったばかりやのに…」とか「ゴルフの約束をしてたのに…」ということがよくある年齢になってるわけです。

要は、いつ死ぬか分からん歳になってきた。その状況で吉本にいてアレコレするのは違うんじゃないか。それをね、つい最近、強く思うようになってきたんです。

ただ、実際に70歳から何をするのか。これはね、まだ思いつきたての話なので、今、思いっきり考え中(笑)。それが本当にリアルなところです。

吉本ってね、いわゆる普通の社会に行き場所がない子を集めて経費ゼロの漫才を劇場で発表してもらう。そんなことをやってきた会社なんです。素手で、お金をかけずに、食べていける場を作る。

もし、僕個人が70代から何かをやるなら、シングルマザーの方なのか、迷いの中にあるオトナなのか、そういう人たちの居場所を作る。芸人さん以外の分野でそこをやっていくのが70代で歩むべき道なのかなと。

ホンマに思いつきたてホヤホヤなんですけど、実は思いはとても強くて、20代の頃に「ダウンタウン」と出会って「こいつらと一緒にいつでも吉本なんか辞めたるわ」と思っていた時くらい心は燃えています。

文字にしてしまうと温度感が分からなくなるところもありますが、フワフワした物言いではなく、しっかりと言い切る。

「吉本を出て個人として何をするのか」。夢物語ではなく、そこに“実(じつ)”が詰まっていて、言葉がずっしりと重い。そして、口調は極めて穏やか且つポップながら、行間に「これはホンマに、ホンマやから。しっかりと書いたってや」という思いが込められている。

25年、吉本興業を取材してきた者として、その波動をひしひしと感じる語り口でもありました。

それを感じ、見出しにも「そろそろ区切りを」という言葉を使いました。本文でも「吉本を出て今後個人として何をしたいのか」という部分をメインに据えました。

そして、インタビューの中で「居場所。」という本についての思いも分厚く語ってらっしゃいました。

自分のことを見つめ直す大きなきっかけになったのが今回の本だったんです。

本のタネみたいなものが生まれたのは2年ほど前。ライターさん、編集者さんがこれでもかと情熱を注いでくださって、やっと本になりました。

細かい話なんですけど、表紙を開けたところに使われている黒っぽい紙がね、今は日本でほとんど使われていない紙で。実は松本(人志)君が最初に出した本「遺書」(1994年)の製本に使われていた紙だそうなんです。

なかなか手に入らないので普通の紙よりだいぶ値が張るらしく、高い紙を使ってくださったこともありがたいんですけど(笑)、作り手の皆さんが「そういう形でも、大崎さんと『ダウンタウン』のお二人のつながりを表現したかった」と考えてくださった熱意。これが何よりうれしかったんです。

僕がまだ現場にいる時期に言っていたのが「芸人さんより、スタッフのボルテージが高くないと絶対に良い仕事ができない」ということだったんです。

そして、今回、自分が著者という立場になって、周りの方々が協力してくださった。その中で明らかに僕より皆さんの熱量が上だったんです。タイトルや紙以外にも、ポスターデザインや書店で流す映像もあらゆるパターンを作っていただきました。これが「仕事をやり切る」ということだと久々に痛感しました。

すごく力を使うことでもあったし、周りの方から熱量もいただいた。大げさな言い方ですけど、この本で自分の意識が変わりました。

人生への考え、吉本への思い、いい意味で、一区切りついた。いや、一区切りつけなアカン。そう思えたんです。真面目な話。

3月のインタビュー。身もふたもない言い方をすると、取材のきっかけは本のPRです。宣伝です。ただ、今から思うと、そんな宣伝風味の言葉の中に、あらゆる“答え”が込められていた。取材メモを見返すと痛感します。

部外者が口幅ったいようですが、吉本の軸は芸人さんです。芸人さんの力です。芸人さんの個性です。

それをどうレイアウトしたら、より芸人さんが活躍できるのか。生きるのか。それを考えるのが吉本の社員さんの仕事です。

そのトップとして絶対的な存在感があった大﨑会長が離れ、吉本はまた新たな形になるはずです。

芸人に下手も上手もなかりけり 行く先々の水に合わねば

そんな言い古された言葉に6000人の所属芸人さんがこれでもかと新たな息を吹き込むことでしょう。その吹き込み具合を具に見ていきたいと思います。癒着でも、腰ぎんちゃくでもなく、何の因果か吉本と縁があった取材者として。

それが、25年でこんな枝ぶりになった者の使命だと思う48歳。

芸能記者

立命館大学卒業後、デイリースポーツに入社。芸能担当となり、お笑い、宝塚歌劇団などを取材。上方漫才大賞など数々の賞レースで審査員も担当。12年に同社を退社し、KOZOクリエイターズに所属する。読売テレビ・中京テレビ「上沼・高田のクギズケ!」、中京テレビ「キャッチ!」、MBSラジオ「松井愛のすこ~し愛して♡」、ABCラジオ「ウラのウラまで浦川です」などに出演中。「Yahoo!オーサーアワード2019」で特別賞を受賞。また「チャートビート」が発表した「2019年で注目を集めた記事100」で世界8位となる。著書に「なぜ、この芸人は売れ続けるのか?」。

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1999年にデイリースポーツ入社以来、芸能取材一筋。2019年にはYahoo!などの連載で約120組にインタビューし“直接話を聞くこと”にこだわってきた筆者が「この目で見た」「この耳で聞いた」話だけを綴るコラムです。最新ニュースの裏側から、どこを探しても絶対に読むことができない芸人さん直送の“楽屋ニュース”まで。友達に耳打ちするように「ここだけの話やで…」とお伝えします。粉骨砕身、300円以上の値打ちをお届けします。

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