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仕事量「99%減」。夏男・河内家菊水丸を直撃した新型コロナ禍。そして、そこからの再生

中西正男芸能記者
新型コロナ禍での葛藤を語る河内家菊水丸さん

 夏になると盆踊り会場を分刻みのスケジュールで飛び回ってきた伝統河内音頭継承者の河内家菊水丸さん(59)。2020年、21年は新型コロナ禍で仕事量が「99%減」の生活を余儀なくされました。今夏から3年ぶりに活動を再開しましたが、自らの人生を否定されるようなコロナ禍での葛藤、そして、その中から見出した光について語りました。

盆踊りゆえに

 高校を卒業してから40年ほど毎年やってきた動きが、去年、一昨年と初めて止まりました。2019年の仕事量を100とすると去年、一昨年は1あるかないか。99%減です。実質的にはほぼゼロみたいなものでした。

 夏は毎日忙しく、お盆の時期の多い時なら一日で10カ所ほどの櫓(やぐら)をまわる。それが当たり前だったのに、その時期に家にいる。これはね、なんとも言えない感覚でした。

 そもそも、僕の仕事がかなり特殊といいますか、7月、8月を中心に仕事が集中し、他の時期はどちらかというとゆっくりさせてもらう。

 そして、ほぼ全ての仕事内容が盆踊りで集まってらっしゃる皆さんの前で歌わせてもらうことでした。そこにコロナ禍が直撃すると、もう一撃でアウトになってしまいました。

 まず“密”がダメですから、人が集まること自体が極めてやりにくい。さらに、盆踊りは基本的に参加無料なので、劇場やスポーツイベントのようにチケットによって人数をコントロールすることもできないんです。加えて、神社や自治体がやることなので、そこでクラスターを発生させるわけにもいかないです。そうなると、もう開催自体をやめておこうとなっていくんです。

体が覚えている

 ただ、沈んでばかりだと本当に心がダメになってしまう。そう思って、家にいる時間をなんとか前向きなものにしようとは心掛けていました。

 僕は本やレコード、いろいろな資料を集めるコレクターでもあるので、それを整理し直したり、一から聴き直したりする。時間がないとなかなかできないインプット作業をする。知識の吸収にもなるし「無駄な時間を過ごしているわけではない」という心の安定も求めていたところはあったと思います。

 意外な発見というか、やってみて思ったのは、コレクターなので自分が好きなレコード以外にもあらゆる種類のレコードも買ってはいるんです。ただ、普段実際に聴くのはやっぱり好きなものばっかりで、そうではない作品はほとんど聴かないまま保存してある。

 今回それを聴いてみると、自分の好みとも違うし、目指すべき方向性でもないけれども、やっぱりレコードがたくさん売れるくらい人気を集めている作品だから「なるほど…。そういう楽しませ方もあるのか」というヒントがたくさんあるんです。

 こんなことでもないと味わわなかった経験ではあるでしょうし、稼働としては止まっていたかもしれないけど、根っから止まっていたわけではない。それを噛みしめる時間でもありましたね。

 …とはいえ、これはね、事実として、どうしようもなく体が覚えている。そんな部分があることも思い知らされました。

 というのは、何十年も夏に飛び回る生活をしていたので「8月14日は朝からあそこの櫓に向かって、この時間にはあそこの控室で食事をとって、そこからさらに移動して…」みたいにタイムスケジュールが体に刻み込まれているんです。

 その感覚があるのに、家でレコードを聴いている。なんとも言えない思いが込み上げてきましたし、リアルな話、お盆の時期を過ぎると、その思いも少しずつ薄れていくんです。もともと仕事のペースが落ち着く時期に入っていくので。

下を向いてばかりでは

 この2年ほど、特別な時間を経験したことで、自分がどうなっているのか。何か力が蓄えられたのか。これはね、本当に正直な話、まだ分かりません。

 ただ、今年からまた動くことになりました。まだ例年の4割ほどの仕事量ですけど、動き出すことはできました。やる以上は皆さんに楽しんでもらう。それしかないので、なんとか一つ一つを大事にやっていこうと思っています。

 ありがたいことに、去年も、一昨年も夏になるとたくさんの先輩やまわりの方から激励のご連絡もいただきました。

 西川きよし師匠も心配していただいてお電話をくださいまして。ホンマに気遣いの細やかな素晴らしい方なんですけど、いきなり電話口で「どうですか?家の中で、盆踊りやってますか?」とお尋ねいただきまして。こちらも咄嗟に「…いや、家ではやってないですね」とシンプルに答えてしまいましたけど(笑)。

 僕だけのことじゃなく、コロナ禍で本当にたくさんの方が大変な思いをされています。だからこそ簡単に言えることではないんですけど、下を向いてばかりでも仕方がない。

 難しいことですけど、それも事実だとも思いますんで、なんとか少しでも進んでいければ。そう思っているんです。

(撮影・中西正男)

■河内家菊水丸(かわちや・きくすいまる)

1963年2月14日生まれ。大阪府出身。本名・岸本起由(きしもと・きよし)。吉本興業所属。父は師匠でもある音頭取りの河内家菊水。幼少時から河内音頭の世界に入り、高校卒業後本格的に活動をスタートさせる。様々なニュースを取り上げて歌う「新聞詠み(しんもんよみ)」を復活させ「豊田商事事件」など世相を斬るスタイルを確立する。91年、アルバイト情報誌「フロム・エー」のCMソング「カーキン音頭」がヒットし、全国的な知名度を得る。毎年、盆踊りシーズンには多忙を極め分刻みで各地の櫓をまわる生活を続けてきた。2020年、21年と新型コロナ禍でほぼ無稼働の状況となるが、今夏から活動を再開した。8月11日、12日には大阪・四天王寺で河内音頭「聖徳太子一代記」を披露する。

芸能記者

立命館大学卒業後、デイリースポーツに入社。芸能担当となり、お笑い、宝塚歌劇団などを取材。上方漫才大賞など数々の賞レースで審査員も担当。12年に同社を退社し、KOZOクリエイターズに所属する。読売テレビ・中京テレビ「上沼・高田のクギズケ!」、中京テレビ「キャッチ!」、MBSラジオ「松井愛のすこ~し愛して♡」、ABCラジオ「ウラのウラまで浦川です」などに出演中。「Yahoo!オーサーアワード2019」で特別賞を受賞。また「チャートビート」が発表した「2019年で注目を集めた記事100」で世界8位となる。著書に「なぜ、この芸人は売れ続けるのか?」。

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1999年にデイリースポーツ入社以来、芸能取材一筋。2019年にはYahoo!などの連載で約120組にインタビューし“直接話を聞くこと”にこだわってきた筆者が「この目で見た」「この耳で聞いた」話だけを綴るコラムです。最新ニュースの裏側から、どこを探しても絶対に読むことができない芸人さん直送の“楽屋ニュース”まで。友達に耳打ちするように「ここだけの話やで…」とお伝えします。粉骨砕身、300円以上の値打ちをお届けします。

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