「“怖さ”と“緊張感”を目指す」。やさしい笑い全盛の中で「ビスケットブラザーズ」が注目される理由
昨秋「NHK上方漫才コンテスト」で優勝し、今春から初の冠番組「ビスケットブラザーズのラブビスケット」がBSよしもとでスタートしたお笑いコンビ「ビスケットブラザーズ」。5月20日には大阪・なんばグランド花月での初単独ライブ「町のクチビル代理店」も開催され、すさまじい勢いで株価が上昇しています。やさしい笑いが求められる中できんさん(31)と原田泰雅さん(30)が求め続ける“芸人の本質”とは。
何をやるか分からない怖さ
原田:今度、なんばグランド花月で初の単独ライブをさせてもらうことになりました。ちゃんとしたセットを組んでいただいてのコントというのもありがたいことですし、この春からBSよしもとで番組もさせてもらうようになりまして。
東京・ルミネtheよしもとで単独を先日させてもらったのも初めてでしたし、今年になって初めて尽くしというか、新しいことばかりたくさんさせてもらっているなと。
きん:本当にありがたいことだと思いますし、去年に比べると仕事量もかなり増えていて、街で声をかけていただくことが増えたのも純粋にうれしいことだと感じています。
原田:去年、一昨年あたりまではとにかく自分たちのことを知ってもらう。そして、経験を積む。そういった蓄積というか、土台を作る材料集めみたいな時期だったと思うんです。もちろん、今ももっと、もっと知ってもらわないといけないんですけど、去年の途中あたりから少しずつ「ビスケットブラザーズ」という“街”ができてきたという感覚もあるんです。
この街はどんな雰囲気のところで、どんな店があって、どんなことに特化にしているのか。それが少しずつできてくると、ものすごく感覚的なことで申し訳ないんですけど、どこかで「それをぶっ潰したい」という思いも出てくるんです。
これはね、あくまでも分かりやすくするためのたとえ話ですけど、ロケに行ってる先でいきなりポコチンを出すんじゃないか。そんな緊張感というか「こいつらは、何をしでかすか分からない」という怖さ。それを持っておきたいし、見てくださっている方にも「こいつらのことだから、それくらいあるかも…」と思ってもらえるような存在でいたいなと今はすごく思うようになっているんです。
もちろん、ポコチンというのは本当に分かりやすくするための例ですけど、視聴者の方が最後までポコチンという銃口を突き付けられたまま番組が進んでいくというか。本当に引き金を引くんじゃないか。その怖さ、緊張感、ムチャクチャ感は失いたくないなと思っているんです。
きん:「あくまでもたとえ話です」と言いながら、何回そのワードを言うねん(笑)。でも、実際に僕が好きな芸人さんも、例えば、ケンドーコバヤシさんもある種の緊張感を持ってらっしゃるのかなと。
今や広く愛される大変な人気者ですし、みんなが知ってる存在なんですけど、どこかに「何をやるか分からない」という空気もある。そこへのあこがれがありますね。
原田:あんなにスターなのに「千鳥」さんにもその空気はありますし、もちろん「野性爆弾」のくっきー!さんもですし、文化人的な色すらある劇団ひとりさんもその空気をお持ちだと思いますし、東野幸治さんにもそれを感じます。
東野さんが司会をされていると「ゲストの人にムチャクチャするんちゃうか…」という緊張感がありますし、たまにホンマにすることもあるし(笑)。あの空気をまとう。それを目指したいと思っています。
ただ、付け焼刃的にムチャクチャしたところで逆に薄っぺらくもなるでしょうし、しっかり馴染んでないと板につかない空気だとも思うので、どうしたらいいのか。それを模索しているところでもあります。
勝手ながら、一つ思うのは“研ぎ続ける”ということなんだろうなと。常にお笑いのことを考えて、錆びないようにいつまでも研ぎ続ける。
そして、根っからそうであるためには、自分をころころ変えない。それが大事なんだろうなとも思います。
これも観念的なことになってしまいますけど、僕は漫画「こちら葛飾区亀有公園前派出所」の両津勘吉が大好きなんです。
両さんはどこにいても常に両さん。そして、変人の類に入るようなことばかりしながらも周りから愛されている。それがものすごく芸人的だなと思うんです。
そして、それでいて警察官というフリもちょうどいいんですよね。ベースとして街を守る確たる存在ということがある。
両さんの“警察官”という部分が僕らでいうと、例えば「キングオブコント」のチャンピオンとかいうところになるのかもしれませんね。何をやっていても、このお笑い界で“正義”とされる“面白さ”を根底に持っているというか。
ムチャクチャでキレキレ
きん:今っていろいろな価値観が変わっているとも言われますし、実際、それももちろん感じます。でも、やっぱり時代は変わっても、芸人さんって危なっかしい人が面白い。そこは核としてあるものだと思うんですよね。
4月に吉本興業の110周年の特別興行「伝説の一日」に出演した時にも思ったんですけど、師匠と呼ばれるような大御所の皆さんも今でもムチャクチャだし、キレキレですからね。間寛平師匠も、村上ショージ師匠も、すさまじかったです。
逆に言うと、それだけムチャクチャで、キレキレだからこそ、そのお年まで一線でいられるというか。
原田:これもまた感覚的なことなんですけど、そういった僕らより圧倒的に上の世代で活躍されている方々はすさまじいまでに正確な“追尾機能”を持っているという感じがするんです。
というのは、何の話をしていても、例えば流れで出てきたフワッとしたなんてことなさそうな話題からでも、急に角度を変えて必ずオチに話が突き刺さるんです。
10年くらい上の先輩方に対しては本当にすごいと思いながらも、うっすらですけど「この剣技をさらに、さらに高めていったら、あの領域にまでなるのかな」という予想がつくんです。
でも、圧倒的上の師匠方は剣技ではなく、自分自身が刀の“ソード人間”みたいになってるんです(笑)。どうやったら、あんなことになるのか想像もつかないし、普段どう暮らしているのかも分からない(笑)。
いつか僕らもあの領域にまでいけるのか。今はまだ全く見えませんが、少しでも近づけるように何とか進み続けたいと思っています。
(撮影・中西正男)
■ビスケットブラザーズ
1991年4月27日生まれで香川県出身のきん(本名・遠山将吾)と92年1月10日生まれで大阪府出身の原田泰雅が2011年に結成。19年に「キングオブコント」で決勝進出(6位)。20年には「上方漫才協会大賞文芸部門賞」を獲得し、「ytv漫才新人賞」で優勝する。NHK上方漫才コンテストで優勝。5月20日に大阪・なんばグランド花月での初の単独ライブ「町のクチビル代理店」を開催する。