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清塚信也が愛する才能。ピン芸人・西村ヒロチョの“気づき”がもたらしたもの

中西正男芸能記者
音楽ネタが持ち味のピン芸人・西村ヒロチョさん

 日常の何気ない出来事をすべてロマンティックに変えてしまう“ロマンティックネタ”が代名詞となっているピン芸人の西村ヒロチョさん(34)。実は日本大学芸術学部音楽学科卒業で、約40種類の楽器が演奏できるという才能の持ち主でもあります。5月に日本テレビ「スッキリ」でピアニスト・清塚信也さんとセッションしたことが話題になりましたが、その経験が芸人としての立ち位置にも大きな影響を与えたといいます。

どん底の思い

 新型コロナ禍で、仕事は激減しました。特に10月、11月は学園祭があって本来忙しくなる時期でもあるんですけどそこも減りましたし、以前と比べると仕事量は10分の1以下になっていると思います。

 ピン芸人なので相方とのネタ合わせもないですし、そうなるとずっと家に居て、誰とも喋らなくなってしまうんです。そのうち本当に声が出なくなってきて、コンビニの店員さんと一言交わす会話を大事にしたり(笑)、SNSのライブ配信機能を使って、見てくださっている人数関係なく、とにかくしゃべる。そんなトレーニングもやってました。

 ただ、その状況が続く中で、今年に入って心が良くない状況になっていきまして。朝起きても「…あ、でも、このまま起き上がらなくても世界は変わらないもんな」と思うようになり、SNSで他の芸人さんに仕事が入っているとしんどくなったり、楽しそうにしている人がいたら心がふさぎ込んでしまったり…。

 芸人をやっているのに、人が楽しんでいるところを見て落ち込む。さすがにその構図にまでなっているのは本当に良くない。どん底のメンタルだったと思います。

 そう思うものの、もしくはそう思うからこそ、例えばテレビのお仕事をいただいても「よし、テレビだ!ここをきっかけに次につなげるぞ!」と過度なプレッシャーを自分にかけていくんです。

 でも、そんなにガチガチでやっていることもありますし、そもそも、一回のテレビ出演で何かが劇的に変わるようなことも、そうあるものではない。となると「今回もダメだった」とすごく落ち込むことになる。そして、お仕事が来たこと自体は本当は喜ばしいことのはずなのに、余計にしんどくなっていく。そんなサイクルに入っていったんです。

“武器”と“立ち位置”

 そんな感じで良くない流れがあった中、今年5月にピアニストの清塚信也さんのご指名で「スッキリ」に出ることになったんです。

 それまで一回しか共演したことはなかったんですけど、すごく高く評価してくださっていて呼んでもらい、そこで僕はサックスを吹いて、清塚さんはもちろんピアノで、セッションすることになったんです。これが本当に大きな転機というか、きっかけになったなと。

 大きな番組に、非常に目立つ形で出してもらったのもあり、まずシンプルに反響が大きかった。そこで、改めて自分を見つめ直したといいますか、自分の中では音楽を作ってそれを使ってネタをやる。もしくは楽器を演奏してネタをやる。日々の中で当たり前のことになっていたんですけど、皆さんから多くの声をいただく中で「これは自分ならではの武器なんだ」ということを強く再認識できました。

 あと“芸人としての新たな立ち位置”をもらった気もしています。もちろん、そういう場だったので、ボケとかそういうものは一切抜きで一生懸命にサックスを吹いてたんですけど、真面目に吹いている僕を見て、周りの方々が笑ってくださってるんですよね。

 ネタでも、ボケでもないのに笑いが起こる。ひたすら真面目にやっている僕を見て笑う。最初は「なんで?」と思っていたんですけど、そこに“イジリ”の要素を感じ取ったんです。

 もともと、僕は自分をイジられるタイプの人間ではなく、ネタや音楽をしっかり作って、それで笑ってもらうタイプだと思っていたんです。なので、なかなか気づきにくかったんですけど、その時の笑いには「メチャクチャまじめにやってるよ!」というイジリの成分が多分に含まれていて、そこで「あ、自分はイジられてるんだ」と気づいたんです。

 でも、清塚さんとのセッション以来、新たな感覚が付け加わったというか「ここでこうやって、こんな流れで笑わせよう」ということだけでなく、その都度、本気でリアクションをして、本気でその時の感情を出して、ということをやってみようと思ったんです。

 その考えになって「そう言えば…」と思い出したのが、少し前にテレビ東京の番組で共演した時に言っていただいた狩野英孝さんの言葉でした。

 「10年前の自分を見ているようなんだよね」

 その時の僕は咄嗟に「何を言ってるんですか!」とノリも含めて否定してしまったんです。根底には本当に不躾ながら「自分はイジられたりではなく、ネタでやってるんです」という思いがあってのことだったんですけど、清塚さんの時の感覚以降、その時に言っていただいた狩野さんの言葉に改めてハッとしたといいますか。芸歴12年目で初めて自分の新たな顔を見た気がしましたし、イジリに対してそこでやっと首を縦に振れた気がしました。

 ただ、イジっていただくにしても、周りから見たら笑ってしまうくらいに普段からがむしゃらに、一生懸命やっていないとダメでしょうし、結局のところ“一生懸命頑張る”という極めてシンプルな結論に至るとは思うんですけどね(笑)。

 自分の夢は「舞台に立ち続けること」なので、そのために何をしないといけないのか。そこに敏感に、そして、力いっぱいこれからもやっていきたいと思っています。

(撮影・中西正男)

■西村ヒロチョ(にしむら・ひろちょ)

1987年2月9日生まれ。東京都。吉本興業所属。東京NSC15期生。日本大学芸術学部音楽学科卒。5月に日本テレビ「スッキリ」でピアニスト・清塚信也とセッションし話題となる。12月26日に行われる配信ライブ「THE EMPTY STAGE @Jimbocho」に出演する。

芸能記者

立命館大学卒業後、デイリースポーツに入社。芸能担当となり、お笑い、宝塚歌劇団などを取材。上方漫才大賞など数々の賞レースで審査員も担当。12年に同社を退社し、KOZOクリエイターズに所属する。読売テレビ・中京テレビ「上沼・高田のクギズケ!」、中京テレビ「キャッチ!」、MBSラジオ「松井愛のすこ~し愛して♡」、ABCラジオ「ウラのウラまで浦川です」などに出演中。「Yahoo!オーサーアワード2019」で特別賞を受賞。また「チャートビート」が発表した「2019年で注目を集めた記事100」で世界8位となる。著書に「なぜ、この芸人は売れ続けるのか?」。

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1999年にデイリースポーツ入社以来、芸能取材一筋。2019年にはYahoo!などの連載で約120組にインタビューし“直接話を聞くこと”にこだわってきた筆者が「この目で見た」「この耳で聞いた」話だけを綴るコラムです。最新ニュースの裏側から、どこを探しても絶対に読むことができない芸人さん直送の“楽屋ニュース”まで。友達に耳打ちするように「ここだけの話やで…」とお伝えします。粉骨砕身、300円以上の値打ちをお届けします。

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