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「雨上がり決死隊」、解散への分岐点

中西正男芸能記者
(写真:アフロ)

 「雨上がり決死隊」が解散することが17日に発表され、ABEMAそしてYouTubeで特別番組「アメトーーク特別編 雨上がり決死隊解散報告会」が放送されました。

 司会席には宮迫博之さん、蛍原徹さんが座り、ゲストとして東野幸治さん、出川哲朗さん、ケンドーコバヤシさん、狩野英孝さん、「FUJIWARA」が登場しました。

 解散を切り出したのは蛍原さん。それは番組放送前の時点で、複数の関係者から確かな情報として聞いてはいました。では、蛍原さんがそう思うに至った理由は何だったのか。

 番組内で蛍原さんは解散のきっかけとして、宮迫さんのYouTubeというワードを挙げました。

 宮迫さんが自身のYouTubeチャンネルで最初の動画をアップしたのが2020年1月29日。宮迫さんと同じく“闇営業”問題で19年7月に会見を行った「ロンドンブーツ1号2号」の田村亮さんの復帰イベントが行われる前日でした。

 番組内で蛍原さんは、宮迫さんのYouTubeチャンネル開設を知ったのは事後報告だったと話していましたが、亮さんの復帰時期とYouTubeチャンネル開設の時期が重なり亮さんの邪魔をしているようにも見えること。そして、蛍原さんへの事前の相談がなかったこと。

 宮迫さんには宮迫さんの事情があったのだと思いますが、そこも広くは伝わってこない。そんな状況で、この二つの出来事により当時芸人さんの中でも波紋が広がり、正直な話、そこで宮迫さんの周りの潮目が変わった印象を受けました。なので、今回の番組の中で蛍原さんがYouTube立ち上げの際の話をした時には妙に合点がいきました。

 そして、当時、僕が取材の中で聞いていた宮迫さんの復帰ロードはYouTube以外にもう一つありました。それが蛍原さんと「雨上がり決死隊」として全国をお詫び行脚的にまわるライブツアーでした。

 当初は蛍原さんも前向きに考え、具体的に話が進みつつあったとも聞きましたが、結局、ライブツアーが行われることはなかった。一方、YouTubeの方はどんどん拡大し、ユーチューバー・宮迫博之としての存在感が大きくなっていきました。

 僕が知る限り、古くから宮迫さんを知る芸人さんたちが宮迫さんを語る時のワードは二つに集約されます。

 “カッコいい”と“カッコつけ”です。

 後輩や周囲の人から何かを頼まれた時に宮迫さんの答えは常に一択。「OK!やろう!」。後輩らの頼みごとを断ることは宮迫さんにとって“カッコ悪い”こと。だから、すぐさま「OK」と答える。

 そのサマはもちろんカッコいいものでもあるけれども、客観的に見ると「それはやめておいた方がいい」だとか「そこはうまいこと言って流しておきましょう」ということにも「OK」を出してしまう。

 コンビでの全国ツアーというプランもあった中、実際にはYouTubeの世界に幅広く傾倒していった。もしくは、傾倒していっているように見えた。そのあたりに、蛍原さんが心を決めるポイントがあったのではないか。そう思えてなりません。

 また、この日の番組終盤で藤本敏史さんが涙ながらに「こんな、解散までせなアカンことなんですかね…」と胸の内を吐露していました。確かに、コンビにとって屋号をなくすというのはとんでもなく大きなことです。

 相方というのは兄弟でもない、友だちでもない、配偶者でもない、単なるビジネスパートナーでもない。相方という唯一無二の存在である。それはあらゆる芸人さんが異口同音に語ることです。

 そして、コンビというのは実家であり、本業であり、幹であり、根っこでもあります。そこをなくすと、根無し草になってしまう。

 実家がなくなってしまうというメンタル面の寂しさだけではなく、芸能人という不安定な職業において本業がなくなってしまうのは実にリスクの高いことです。

 活動実態がなくとも、事務所が別々になっても、コンビ解散はしていない。そんなコンビはたくさんあります。「ツービート」も「B&B」も「TKO」も「浅草キッド」も解散はしていません。

 それぞれに事情や状況は違いますが、先述したような“根っこへの思い”が解散をさせないという作用は少なからずあると思います。

 コンビの屋号を失うことの大きさ、悲しさ、そして、マイナスを蛍原さんが分からないわけがありません。

 それでも、そちらを選ぶ。戻る家がなくってもいいから実家を解体する。強い意志と覚悟がなければ、こんな選択肢は選べません。

 今回の解散を機に、改めて、二人と同期の芸人さんに「雨上がり決死隊」のコンビ名の由来を尋ねてみました。

 「デビューしたての頃に同期でやった舞台があり、そこで主演をしたのが宮迫。様々な葛藤を抱えた主人公がラストの夜のシーンで、雨が上がった空を見て心が晴れ、覚悟を決めて一歩を踏み出す。そんな内容の芝居のタイトルが忌野清志郎さんが歌っていた曲をモチーフにしたもので、その作品への思い入れが強かった二人が公演名からコンビ名をつけたんです」

 若き日の迸る思いが詰まったきらめきをそのまま屋号にした二人。しかし、今回でそれを手放すことになりました。

 期せずして、手放した日は雨空になりました。それだけの思いを込めたものを手放す決断をした二人。この先も続く空が、ここから晴れやかなものになることを願うばかりです。

芸能記者

立命館大学卒業後、デイリースポーツに入社。芸能担当となり、お笑い、宝塚歌劇団などを取材。上方漫才大賞など数々の賞レースで審査員も担当。12年に同社を退社し、KOZOクリエイターズに所属する。読売テレビ・中京テレビ「上沼・高田のクギズケ!」、中京テレビ「キャッチ!」、MBSラジオ「松井愛のすこ~し愛して♡」、ABCラジオ「ウラのウラまで浦川です」などに出演中。「Yahoo!オーサーアワード2019」で特別賞を受賞。また「チャートビート」が発表した「2019年で注目を集めた記事100」で世界8位となる。著書に「なぜ、この芸人は売れ続けるのか?」。

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1999年にデイリースポーツ入社以来、芸能取材一筋。2019年にはYahoo!などの連載で約120組にインタビューし“直接話を聞くこと”にこだわってきた筆者が「この目で見た」「この耳で聞いた」話だけを綴るコラムです。最新ニュースの裏側から、どこを探しても絶対に読むことができない芸人さん直送の“楽屋ニュース”まで。友達に耳打ちするように「ここだけの話やで…」とお伝えします。粉骨砕身、300円以上の値打ちをお届けします。

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