「痛みで気絶」壮絶リハビリを乗り越えて、志賀勇也が再びBMXに乗った理由

生死をさまよう大ケガから復帰した志賀勇也選手

 12歳から自転車競技のBMXを始め、国内トップレベルの選手として活躍してきた志賀勇也さん(21)。一方でBMXを使ったパフォーマンスでバスケットボール・Bリーグのハーフタイムショーや吉本新喜劇にも出演するパフォーマーとしても活躍してきました。しかし、昨年5月に交通事故で全身10カ所以上を骨折。復帰は絶望的と見られていましたが、痛みで気絶するほどのリハビリを課して今年1月にパフォーマーとして仕事復帰。そして、今月19日に行われるBMXの世界大会「FISE」にも出場を決めました。今でも痛みは残りますが「ケガをする前よりも、今の体の方が絶対に上だと思っています」と静かな言葉に力をみなぎらせました。

競技者とパフォーマーを両立

 BMXにはコースを走ってスピードを競うレース、ジャンプもあるパークというように、いくつか種目があるんです。レースとパークは東京オリンピックでも競技種目にもなっています。僕がやっている種目、フィギュアスケートみたいに自転車を使ってくるくる回るフラットランドは、おそらく2024年のパリオリンピックから競技になるのではと言われていて、そこを目指して、ずっと頑張ってきました。

 僕は競技者として、このフラットランドの大会に出るのが一つ。そしてBMXを使ったパフォーマーとしても活動をしてまして、そちらの収入で生計を立てています。分かりやすくイメージで言うと、Jリーガーをやりながら、リフティングのパフォーマーもやっているような感じですかね。

 パフォーマーとしても、いろいろなところからお声がけをいただいて、ゲーム「モンスターストライク」のイベント、吉本新喜劇、バスケットボール・Bリーグのハーフタイムショーもさせてもらっていました。

 競技者の多くは会社勤めなどをしてお金を稼ぎながら大会に出てらっしゃるんですけど、僕はパフォーマーでお金を稼いで生活をしながら、競技者としての活動もするという形を3年ほど前から開拓してきました。

 最初は「そんなことできるのか」というお声もたくさんいただいたんですけど、本当にいろいろな方に支えられてオファーをもらって、やっと形になってきた。そして、何とか両立の形が見えてきたあたりの去年5月、交通事故があったんです。

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復帰は絶望視

 自動車に乗っていたんですけど、車は大破。車体がくの字に曲がって、救急隊員の方も僕が車のどこにいるのか、すぐには発見できないくらいの事故でした。この時点で、まず、生きていたことが奇跡だと言われました。

 大阪大学医学部付属病院の高度救命救急センターに搬送されたものの、脳からの出血が止まらず、命がどうなるのか全く見えない状況で、約1週間、意識不明が続きました。意識が戻っても、くも膜下出血に加え、頭蓋骨・頭蓋底骨折、鎖骨骨折、右腕骨折、左右骨盤骨折、大腿骨骨折など全身10カ所以上を骨折。さらに、右目も動かないし、まともに見えない状態で、全く身動きが取れませんでした。

 意識が戻った時は、体も動かないし、まだ声帯もマヒしていてまともにしゃべれなかったんです。お医者さんからは寝たきりの可能性も高い。もし立ち上がれたとしても、競技復帰なんてありえないと言われていました。その中なのに、なぜか、なぜか「絶対にまた乗れるし、前よりも、もっと良くなる」。そういう思いしか出てこなかったんです。自分でも、よくそんなことが思えたなというところもあります(笑)。でも、それはやっぱりBMXへの強い思いがあったからだと思っています。

365日病院通い

 もともと、子どもの頃から自転車の曲乗り的なことが好きで、自転車に乗ったまま階段を降りたり、ドリフトしたりはしていたんです。そこで母親が、それならば正式にというか、きちんとそういうことをやった方がいいと思ってくれて、BMXと出会わせてくれたんです。

 小さい頃からずっと病気がちで、3歳の時に川崎病と診断されてからは入退院も繰り返しながら、中学卒業まで毎日病院に通いました。そんな日々の中、最大の楽しみが自転車に乗ることだったんです。

 さらに、小学校高学年になってくると、文字の読み書きが遅いことを指摘されました。入退院を繰り返していたから、読み書きが苦手になったのかもしれないと思ってIQテスト的なものを受けたら、学習障害(ディスレクシア)だと。そこからは支援学級に入って、高校は支援学校に行きました。

 ただ、文字の読み書きが苦手な分、想像力や独創性は人よりも高いらしくて。自分でいろいろなパフォーマンスを考えて実践していくフラットランドの種目とは特性が合致したんです。もちろん、そんなに簡単にスッといくようなことではないですけど、いろいろな偶然や流れが合って、ここまで来ることができた。

 なので、僕にとってBMXは人生でなければならないものだし、これがなくなるのは絶対にありえない。その思いが強かったからこそ、体が全く動かない中でも、心には力がみなぎっていたんだと思います。

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痛みで気絶

 病院で目が覚めて、特にひどかったのが大腿骨の骨折と右目のマヒでした。右目は回復は見込めないと言われていたんですけど、どうしても、もう一回BMXに乗りたい。その思いで自力でリハビリをするうちに、ほんの少し目が動いたんです。少しでも動くということは、絶対に元通りになる。そう信じて、、数カ月かけて何とかほぼ元通りにしました。理学療法士の先生からは、この回復は前例がないので論文に書かせてほしいと言われたくらいでした。

 あと、大腿骨は完全に折れてしまっていて、左右で足の長さが変わるほどに強烈な折れ方だったんです。最初はほとんど足も曲がらなかったんですけど、曲げ伸ばしのリハビリをする中で「痛みがあったら、言ってくださいね」と先生に言われるんです。

 少し動かすだけで、とにかく痛い。でも、少しでも早く治したい。なので、どれだけ痛くても我慢して曲げ伸ばしをやりました。あまりの激痛で、知らないうちに気絶していることもありました。でも、そんなことよりも、とにかく治したい。また乗りたい。それしかなかったんです。

 今でも可動域が狭くてあぐらができなかったり、筋力もなくなっていますし、痛みも残っています。単純に肉体のレベルでいうと、事故前を100としたら、今は70くらいだと思います。

ケガをして良かった

 でも、僕の感覚としては、事故前よりも今の自分の方が各段に強くなっている気がしています。入院中に食べる意識も高まって、今まで食べられなかったものも食べるようになった。初めて車いす生活をして、これまで気づかなかったことに山ほど気づいた。入院中は寝たきりで天井ばかり見る中で、普段考えられなかったことをたくさん考えた。それが全部、人間としての力として、この体についている気がするんです。

 もし命を落としていたら、どうだったったのか。死ぬまでに何をしていたら満足だったのか。本当にしたいことは何なのか。それを本気で考えましたし、考え続けました。

 それを突き詰めると、やっぱり出てくるのはBMXなんです。BMXで何かを残したい。伝えたい。そして、オリンピックで金メダルを取りたい。行きつくのはその思いだったんです。

 普通に元気に生きていたら、ここまでの考えに行きつくことはなかったと思います。もちろん、たくさんの人にご心配やご迷惑をおかけしてしまって本当に申し訳ないですし、そんなに簡単に言えるものではないです。でも、それでも思うんです。このケガがあったから、自分が変わった。思ってもみなかった自分に会うことができた。

 もちろん、これはまた動けるようになったということありきの考えです。今がまた違う形ならば、別の思いだったかもしれません。でも、今はケガがあったからこそ自分は変わったし、変わることができた。心から、そう思っています。

 何か、カッコつけていいことを言おうとしているみたいですけど(笑)、本当に、本当に、これが今思っていることなんです。

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(撮影・中西正男)

■志賀勇也(しが・ゆうや)

1998年2月27日生まれ。大阪府出身。12歳からBMXを始め、15歳から本格的にBMXライダーとして活動する。自転車を使ったフィギュアスケートとも言われる種目・フラットランドのスペシャリスト。またプロパフォーマーとしてYUYA名義でテレビやイベントにも出演。ゲーム「モンスターストライク」のイベントや吉本新喜劇などにも出演している。

立命館大学卒業後、デイリースポーツ社に入社。芸能担当となり、お笑い、宝塚歌劇団などを取材。2003年、故桂米朝さんにスポーツ紙として異例のインタビューを行う。「上方漫才大賞」など数々の賞レースで審査員も担当。12年に同社を退社し、株式会社KOZOクリエイターズに所属する。現在、読売テレビ・中京テレビ「上沼・高田のクギズケ!」、中京テレビ「キャッチ!」などにレギュラー出演中。「Yahoo!オーサーアワード2019」で特別賞を受賞する。また、CNN、BBC、ニューヨークタイムズなどが使用する記事分析ツール「チャートビート」が発表した「2019年で注目を集めた記事100」で世界8位となる。

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