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地域振興の鍵は食にあり ~ スーパーマーケット・トレードショー2024

中村智彦神戸国際大学経済学部教授
スーパーマーケット・トレードショー2024。(画像・筆者撮影)

 2024年2月14日から16日までを会期に、幕張メッセ(千葉市)において「スーパーマーケット・トレードショー2024」、「デリカッテセン・トレードショー2024年」、「第19回こだわり食品フェア2024」が同時開催されています。*1*2

 2023年にコロナ感染症が5類に移行したことで、外食産業、食品産業、観光産業にも活気が戻ってきており、今回の「スーパーマーケット・トレードショー2024」は出展者数2,190社の国内最大級の「食」の商談展示会です。

 主催者発表によれば、初日の14日の来場者は、2万4696人となっており、3日間の来場者数は、昨年を大きく上回る8万人近くになるのではないかと思われます。幕張メッセの広大な会場に人が溢れ、そこここで商談をする人たちの姿も見られました。

 今年は、順調に回復するインバウンド観光客に伴うインバウンド需要が期待され、訪日外国人観光客の飲食や土産物にターゲットを絞った「インバウンド×食」のコーナーも設けられていました。また、「てづくり日本 お酒のある く・ら・し」と銘打ってのコーナーも設けられ、クラフトビール、焼酎、日本酒、ワイン、ウイスキーなどの47事業者・団体が出展しています。こちらでも、地域ならではの味や作り方にこだわった製品作りが紹介されていました。

地方の中小企業が主役

 会場では、全国の地方自治体や政府機関などが設けたコーナーがあり、多くの特産品を販売する業者が出展しています。

 東京都内で飲食店を営む経営者は、「コロナ禍が一段落とはいえ、まだ客足が完全に戻ったとは言えない。地方の魅力ある食材を使うことで、他店との差別化を図って、新規メニューの開発に繋げたい」と言います。

 「なかなか全国に営業に出かけることが難しいですが、こうして全国の人たちが集まることは、非常に有益です」と話すのは、株式会社伍魚福(神戸市)の代表取締役社長山中勧氏です。同社は、神戸土産として人気となった「いかなごのくぎ煮」をはじめとする、珍味の専門メーカーです。山中社長は、「昨年と比較しても、来場者も多く、問い合わせも多い」と手ごたえを感じていると言います。

 素材や品質、独自性にこだわる地方の中小企業による食品製造、販売は、地域での雇用創出にも繋がり、経済波及効果も期待できます。そして、知名度の高い大企業ばかりが目立つものの、実際には食品産業の主役は、地方の中小企業だと言えます。

伍魚福のブースと山中社長。(画像・筆者撮影)
伍魚福のブースと山中社長。(画像・筆者撮影)

オーガニック、有機農業への関心も高まる

 「他と比べると、あんまり目立たないブースだったと思っていたのですが、思いのほか、多くの方に関心を持っていただいています」そう話すのは、山形県川西町役場産業振興課の小形崇洋主査です。オーガニック農業に取り組む生産者8事業者で構成する「かわにしオーガニックビレッジ推進協議会」での出展で、「生産量が少なくても、少量でも良いので、提供してもらえないかというお話もあり、みなさんの関心の高さを実感しています」と言います。

 政府が、有機農業の普及を促す「みどりの食料システム戦略」という政策指針を打ち出したことや、コロナ禍によって在宅する時間が長くなり、食への関心が高まったことなどから、有機農業、オーガニックに対する需要は伸びています。

 今回の展示会でも、食の安心、安全や、持続可能な農業を訴える事業者も多くみられました。今後の安定供給や品質の保持など、課題は多いものの、消費者のニーズも大きく、新たな就農者を生み出す源泉となりうるため、期待は大きいと言えます。

オーガニック、有機農業への関心は高まっている。(画像・筆者撮影)
オーガニック、有機農業への関心は高まっている。(画像・筆者撮影)

30年ぶりの輸入解禁

 牛肉や加工食材など輸入食材のブースも人気を呼んでいました。その中で、小さいながらも多くの人が足を止めていたのが、台湾優良農産品発展協会のブースです。

 多くの人が興味を持ったのは、「30年ぶり」の文字でした。1997年に発生した口蹄疫の影響を受け、台湾は豚肉製品をこれまで輸出できません。しかし、2020年に国際獣疫事務局(WOAH)から「口蹄疫ワクチン未接種地域」の認定を取得し、台湾農業部と日本の農林水産省の審査を経て、2022年に豚肉製品を日本へ輸出することができるようになりました。

 同協会駐日代表の張子萱氏は、「肉団子や香腸、ルーロハンなど台湾旅行で多くの人が口にして、おいしかったという台湾ポークを使った台湾料理が楽しめます」と話します。

 日本からの海外への食品の輸出も進む一方、海外からも日本市場への進出を進める動きもあり、本格的な国際競争が始まることを感じさせます。

地域振興には情報収集が重要

 「地方にいるとなかなか情報が入ってきません。こうした展示会には、もっと多くの若手が参加すると良いと思います」というのは、産直場「かわにし森のマルシェ」(山形県川西町)の横山亜紀マネージャーです。地方の産直場は、単に観光客相手の物販だけではなく、最近では地域住民への食品の供給源としての役割も高くなってきています。「地域振興のためには、地方の物産をいかに売っていくかを考えなくてはいけません。何か一つ成功しても、次の一手をどうするかも大きな課題です。こうした展示会に来ると、他地域や業者のみなさんがどういったことをしているかの最新の情報が判って、非常に有益です。」

 会場をぐるりと一周しただけでも、類似商品や競合商品を見つけることは簡単です。北陸地方から来たという生産者は「いかに外貨を稼いで、地域で雇用を増やすか。これしかない。そのためには、競争相手がどんなことをしているのか情報収集が重要です」と言います。

「応援消費」を訴える石川県のコーナー。能登半島はもちろん今回の震災被災地は、「食」の宝庫でもある地域だ。(画像・筆者撮影)
「応援消費」を訴える石川県のコーナー。能登半島はもちろん今回の震災被災地は、「食」の宝庫でもある地域だ。(画像・筆者撮影)

労働力不足と省人化もキーワードに

 会場を回ると、「半製品」、「半加工品」、「省人化」、「無人化」といった言葉も目につきます。

 背景にあるのは、労働力不足です。素材を途中まで加工した製品や、冷凍品、チルド品など、飲食店などで、調理の手間を減らせるような商品も数多く出展されていました。さらには、販売の現場での無人化、省人化に関する出展も多くの人を集めていました。

 インバウンド観光客などの増加による観光産業の活況と、その好影響を受けている状況。一方では、環境問題や労働力不足といった問題を乗り越えようとする各事業者の取り組み。今回の「スーパーマーケット・トレドショー2024」は、さまざまな示唆を得るには絶好の機会だと言えます。

地方振興の鍵は食にあり

 今回のこのトレードショーの出展社総数は、2018社に上ります。そして、そのうち地方自治体や地方金融機関などが取りまとめての出展は39都道府県で、企業数は1400社を超しています。

 地方経済の衰退が懸念される中、農水産業、食品産業、さらにはそれに連なる小売業、中食・外食産業、製造機器産業、IT関連産業に至るまで、まさに「地方振興の鍵は食にあり」と言えます。

 幕張メッセの1号館から11号館までの広大な全館を埋め尽くした出展者と来場者

の熱気に、地方振興への高い期待を感じました。

*1 業界関係者のみ事前登録制で、18歳未満は入場できません。

*2 最終日(2024年2月16日)は、16時まで。

神戸国際大学経済学部教授

1964年生まれ。上智大学を卒業後、タイ国際航空、PHP総合研究所を経て、大阪府立産業開発研究所国際調査室研究員として勤務。2000年に名古屋大学大学院国際開発研究科博士課程を修了(学術博士号取得)。その後、日本福祉大学経済学部助教授を経て、神戸国際大学経済学部教授。関西大学商学部非常勤講師、愛知工科大学非常勤講師、総務省地域力創造アドバイザー、山形県川西町総合計画アドバイザー、山形県地域コミュニティ支援アドバイザー、向日市ふるさと創生計画委員会委員長などの役職を務める。営業、総務、経理、海外駐在を経験、公務員時代に経済調査を担当。企業経営者や自治体へのアドバイス、プロジェクトの運営を担う。

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